最終章-1
俺はあるコンビニにいた。
小倉から離れ、当てもなく歩いていたときに入ったものだ。
北九州市内ではあるが、そこはそんなに都会ではなく、田舎というほどでもない。坂が少なく平坦な土地に一軒家が等間隔で建ち、道路も舗装されている。
ちなみにコンビニの前の道路は幅が広く、コンビニにも十台ぐらい入る立派な駐車場がある。
俺が入ったときには車は一台留まっていた。
客が何人かいた。いずれも大学生ぐらいの若い男女だった。
バイトの女の子が一人いた。
やはり大学生ぐらいで、メガネをしていて、髪は染めず、後ろで結んでいた。
遠めに見ると割と地味な子だった。
俺はそのコンビニでドリンク剤とおにぎりを買った。小銭がなくて一万円札で払った。
そのときだった。
パトカー数台と濃い緑色のトラックのような車がたくさん入ってきた。
コンビニを取り囲むようにして留まり、トラックからは機動隊が降りてきた。
テレビで見るあの機動隊そのものだった。
ヘルメットをかぶり、盾と警棒で装備していた。もちろん、腰には銃。
一瞬そう思ったが、何かが違う。
盾ではなく、ライフルを持っていた。ヘルメットも微妙に違う。防弾チョッキのようなものも着ているし……。
SATだった。
思い出すのに時間がかかってしまった。
そのとき気がついた。
彼らの目的は俺なのだと。
警察は俺をいつでも射殺できるように、SATを連れてきたのか。
つまり、俺は居場所がばれ、囲まれてしまったということ。
以前、警察にばれなかったからと油断していた。
今まであれだけ暴れたんだ。証拠なら十分すぎるほど落ちていただろうし、あれから時間もそれほど経っていない。
そりゃ、ばれるに決まっているよな。
今まで逃げてこられたのは奇跡といっていいかもしれない。
そうだよな、ばれないと思っていたほうがどうかしている。
店員や客たちは互いに顔を見合わせていた。
俺が会計を終えて店から出ようとしたときだった。そのとき急に店内がざわめきたった。
店員はカウンターから身を乗り出し、外を見ようとしていた。
客たちもにわかにざわめきたった。客は男と女が二人ずつ。
「おい、なんだ、あれ?」
「なにかあったの?」
そういいながら、店の奥から入り口まで来た。
俺は入り口近くで立ち止まり、外をうかがっていた。
機動隊は駐車場を占拠し、整列した。すばやい動きだった。
警察の向こうに、ワゴン車が見えた。
一般道でよく見るタイプではない。確かに形はよく似ているけれど、屋根に柵があり、車体にペイントしている。
それが一台だけならいいが、何台も目に留まった。やがてそのワゴンの上に人が立ち、テレビカメラが設置される。
「テレビ局かよ」
「どうしたんですか?」
店員がレジを離れ、入り口近くの、外がよく見える場所まで出てきた。
「今ここ、君一人?」
「ええ、そうです」
「店長は?」
「今ちょっと出ていまして。あの、何か」
「いや、別に」
そう答えたが、いつまでも隠し通せることはできないだろう。
もう終わりだ。
あれだけのことをしてしまったんだ。
警察もそれなりの人数を動員しないといけなかったんだろう。誰も死にたくはないだろうからな。
今まで逃げてこられたって、どういう奇跡だよ……。
やがて、隊列の前に一人の男が立ち、スピーカーから話しかける。
「我々は福岡県警である!宗像事件、ならびに福岡市内○×組抗争事件、△□郡と小倉南区暴走族殺害事件、……組放火殺人事件のS!我々は完全に君を包囲した。今すぐ人質を解放し、おとなしく投降しなさい」
なるほど、誰かが通報したというわけか?




