JKと幼女
ちょうど、ベンチの前を通り過ぎたところだった。
「すみません!」
という、声が聞こえる。直感で、それは自分に対しての言葉だろうと、理解する。が、聞こえなかったフリをして、無視しようとした。
急いでいるので……。
だが、「まって!」と、その声を発した人物は、自分の足を掴んできた。声色から想像できたけど、目線を下げたその先には、……幼女が居た。本日、二人目である。
「おばさん、あたしのおはなしきいて!」
おばさんと、言われて、かちん! とは、もう来ないね。そういう古いギャグは嫌いだし、化粧してないし、もう歳取っているし、流石にお姉さんじゃないよ。妥当だ、おばさんという表現。
「何?」
歩みを止めると、幼女は、じっと自分の顔を見てくる。セセラギよりも少し背が低く、セセラギと似たような髪形をしていた。姉妹? のように見えた。「あたしのおねえちゃんしらない?」
「おねえちゃん?」
「そう。あたしよりもすこしおっきくてくろい髪でこんなかたちしてて」幼女は髪を弄る。「おんなのこ、しりませんか?」
「どんなお洋服着てるのかな?」
「ピンクの、ワンピース。ちょうかわいいの。おねえちゃんがおおきくなったらもらうやくそくしてるの」
「お下がり」
「うん、おさがり。これもね、おねえちゃんがくれたの」
自分の黄色いシャツをひらひらと動かしながら、幼女は笑顔になる。
「……君のお母さんは、どこにいるのかな?」
「てんごく」
「天国?」
「うん、あたしがうまれたら、てんごくにいっちゃった、ってパパが言ってた」
あー、母体が耐えられなくて逝ってという話か。「じゃあ、パパは今どこにいるの?」
「しごと」
「あれ、じゃあ、いつもおうちには誰もいないの?」
「おばあちゃんと、おねえちゃがいる」
「ふーん」
自分はそう呟きながら、さっと辺りを見回した。誰も居ない。まだ空は青々とした快晴に雲少しな色合いに染まっているけど、人は誰も居ない。
ゴミ袋の束を一つあけると、中から、一枚の大きなゴミ袋を取り出す。広げるとまるでマントのようで、視界を遮った。もう一枚取り出すと、二重にする。中に何かを入れても、絶対にわからなくなった。
「おばさん、これ何?」
「なんだと思う?」
逆に問うと、幼女は黙り込む。「うーん」と顎に手を当てて、悩みだした。
その隙に、考える。
まずは、首を絞めよう、と。自分みたいな非力なか弱い乙女でも、この程度の幼女の首くらい、簡単に閉めれそうだ。一分くらい、全力で締めれば、多分動かなくなる。
別に、今死ななくてもいいのだ。動けなくして、この袋の中に入れて、アパートまで持ち帰る。傍目からはおかしく見られる可能性があったけど、ここまで来ると、それはもうどうでもいい。
賭け、だ。
この幼女を袋につめて、アパートに戻るまでの間に、誰かに咎められなければ、自分の勝ちだ。もう一人殺してしまったのだ。今更二人とか、数は関係ない。重要なのは、行動を起すか起さないかの、勇気の問題だ。
この幼女は、あの幼女の妹で間違えないだろう。姿形は似ているし、姉の説明も、セセラギにそっくりである。このまま自由にしておくと、後ほど、自分へ危害を加えるかもしれない。それに、セセラギ一人は可哀想だ。姉妹は一緒にいないと、ね。
そして、今に至る。
では、手始めに、腹を思い切り蹴って(これだと足始めだな)、身動きを封じてから、首を絞めますか。そう思って、一歩、後ろへ下がった、瞬間、「見つかったぁー?」
という声が、横から轟く。慌てて、振り上げようとした足を地面へ押し付けた。その声の方向を見つめると、……近くの高校の制服を着た、
女子高校生
が手を振りながら近づいてきた。「おねーさん!」と、幼女はぱっと笑顔になる。
「あの子は、誰?」
「おねーさんはね、いっしょにおねえちゃんをさがすのてつだってるしとだよ」
その女子高生は近づくと、「見つかった?」とまた言う。小柄な子で、一年生くらいに見えた。パッチリとした目に、細い鼻の上に少しそばかすを散らしていた。髪には緩くパーマが施され、風が通るたびに靡く。背がもうちょっと高ければ、クラスで一、二位を争う場所にいただろうな。
ジロジロと舐めるように見つめていると、「あの、どちら様で……」と不安げに、聞いてきた。
「このおばさんもね、いっしょにおねえちゃんをさがしてくれるの」
いや、そんなこと一言も言って無いから。これだから子供は嫌いだ。あまりふざけたこと言うと、殺すぞ。
でも、変に否定すると、怪しまれる可能性が高いので、「そうだね」と一応同意しておく。
「ありがとうございます」
「この子は、君の妹なの?」
「いえ、さっきこの公園で知り合いました。だよねー?」「ねー」「泣いていたから、どうしたの? って訪ねたんです」「ないてない!」「はいはい」
「姉が居なくなった、と聞いたけど」
「はい、なんでも、お昼前までは、一緒に遊んでいたらしいんです。でも、そのあとに急にいなくなってしまったらしくて……。姉の姿は聞きましたか?」
「まぁ、一応ね。ピンク色のワンピースを着ている、妹ちゃんと同じような髪型の子。私は、見ていないな」自分のアパートで転がってるんだけどね。
「そうですか」女子高生は、落胆すると、妹の顔を覗きこみ、「おうちに戻ってみる? もしかしたら、入れ違いになって、お姉ちゃん、おうちに戻っているかもしれない」と言う。
「やだ」
と、妹は即答した。
「ん、なんで?」
「だって、おねえちゃん、きょうはいっしょにたんけんしよう! っていったんだもん! だからかえらないもん」
「どこに、探検するつもりだったの?」
「………しき」