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戦争




「相変わらず鍛えられた体ねぇ~、上矢」

「開口一番でそれはないだろう」

 むっと帷月は顔をしかめた。シュナは帷月の右腕を調べ中だ。

「無理な負担とかはかけてないね?」

「・・・たぶん」

 帷月は少し自信なさ気に言った。

「たぶん・・・って、あんたねぇ・・・」

 その帷月の様子にシュナは思わずため息をついて苦笑いした。しかし、帷月は真剣な顔つきだ。

「どうかした?」

「九条さんまで呼び出して何の話をするつもりなんだろう・・・」

「・・・そんなの、先に聞いちゃったら面白くないじゃない」

「・・・まぁ・・・そうなんだけど。・・・ってことは本間はもう知ってるのか?」

「まぁね。これでも一応〈教会〉の人間だから」

 そう言ってシュナは苦笑した。

 ・・・〈教会〉絡みか・・・

 そこまでは大体見当はついていた。だが内容は分からない。表情を見るに、あまりいい話ではないだろうことはわかったが。

「うん。特に異常はないかな」

 無理な動きすんじゃないわよ~、っと言ってネジの締めなおしだけしてカルテに何か書き込み、ファイルに収めた。

「さ、どんな話でも冷静に気を保ちなさいよ・・・というのは無理な話か・・・」

 半ば諦めのような最後の言葉にむっとなる帷月だが、あえて何も言わない。

 部屋を出ると、真剣な面持ちの新庄と九条の姿が目に入った。

 シュナは九条の隣に座り、帷月は三人と対峙するようにソファに座った。

「率直に言う」

 言ったのは新庄だった。あまり言いたくないことなのだろう。新庄の顔は微かに歪んでいる。


「〈教会〉はテロリストと全面戦争を起こすことになった」


 一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。〈教会〉がテロリストと戦争・・・?国民をも巻き込んでしまう戦争を・・・?そんなバカな話があってたまるか。

「俺も無理矢理〈教会〉に連れ戻された。・・・そして今、〈教会〉が最も欲しがっているものがある。有力な戦力として・・・。それは、お前のそのアホな頭でもわかるだろう?」

 『アホな頭』にはカチンと来たが、さすがに今はそれどころではないこと位わかったのでひとまず黙っておくことにする。そして慎重に答えた。おおよそ間違いではないはずだが、帷月としてはあまり言いたくはない答えになった。

「・・・『ヴァンパイア』・・・」

 帷月にこの話をする時点で嫌な予感はした。それが見事、的中してしまったようだ。

 新庄は否定せずに沈黙した。帷月はそれを肯定と取る。

 ギリッと不快な音がしそうなくらい、強く歯を噛み締めた。

 テロリストと全面戦争をするにあたって戦力は有り余るほど欲しいはずだ。そこで、ことごとくテロリスト共を皆殺しにして回る謎の対テロ組織『ヴァンパイア』。小規模なテロリストとはいえ、噂では少女がほぼ一人で全員を殺しているので、これに〈教会〉が喰いつかないわけがない。

 もう十年近くも前に〈教会〉から抜けた新庄まで駆り出されているのだ。〈教会〉は本気だ。本気でテロリストを倒すために戦争を起こす気だ。

 『ヴァンパイア』の噂は本当だ。テロリストはほぼ全て帷月がやっている。海月は帷月と違って体育会系ではない。だから戦闘ではいつも帷月の援護射撃をするくらいだ。要するに大方、〈教会〉に狙われるのは帷月一人。

「さすがに俺たち三人が目を付けられた。『ヴァンパイア』について、何か知っているのではないか・・・。それも新庄が連れ戻された理由の一つだ」

 九条がいつも通りの落ち着いた声で言う。

 ・・・なるほど。新庄先生が一番疑われているワケだ

「私、名乗り出たほうが良いですか?」

 帷月は三人にそう聞いてみる。

「それは自分で決めろ」

 新庄は素気なく言った。新庄は帷月が〈教会〉を毛嫌いしていることも、その理由も重々承知している。だからこそ、帷月に強制的にキツく言うことはできない。

「新庄先生」

「何だ」

 帷月と新庄の視線が交じり合う。

「・・・〈教会〉を誘導してみるのは、どうですか?」

「・・・は?」

 新庄は全く理解できていないのか、そんな声を漏らした。

「まず新庄先生が〈教会〉に、次に『ヴァンパイア』が狙うテロリストを教えます。すると、本当に私が欲しいなら必ず〈教会〉はそこに来るでしょう。それからは事の成り行きに任せて、少しずつヒントを出していくんです。結果的に、『ヴァンパイア』の正体に気が付けるように、〈教会〉を誘導していくんです」

 三人が揃ってポカンとしたのがわかり、帷月は不適に笑って見せた。

「そっちの方が、唯バラすよりも面白いでしょう?」

「・・・アホか貴様ッ!この期に及んで面白さを求める奴があるかーッッッ!」

 キシャーッ!と新庄が喰いついた。九条は“上矢さんらしい”とくつくつ笑う。シュナは“フフ、さっすが上矢ね”と、あくまでおしとやかに笑った。

「で、次はどこを狙うつもりなの?」

 シュナがまだ少し笑いながら聞いてくる。

「そろそろ手ぇ出そうかと思ってたんです。将軍のお膝元から」

 帷月が唇の端を吊り上げた。

「あそこか・・・ッ」

 それだけで三人には伝わったようだ。そう。『黄昏の悪夢』を実行した[Z]率いるテロリストに仕える小規模なテロリストだ。

「それじゃあ、お願いしますね、新庄先生」

 それだけ言うと帷月はソファから立った。

「また今夜、お会いしましょう。〈教会〉と、『ヴァンパイア』として・・・」

 帷月は人よりも少し鋭い犬歯を見せてニッと笑った。

 新庄は最後まで不機嫌そうな顔で帷月を見送っていた。


 家へ帰ると、何故かまだ葵がいた。海月は忙しく手をキーボードへ打ちつけている。

 帷月が今夜攻める、と言うと、海月は少し驚き、しかしすぐに首を上下に振った。そして帷月は仮眠を取るために自室へ上がった。タンクトップと薄い目の生地のジャージに着替えてベッドへ横になった。


 そろそろ・・・人間生活も潮時か・・・



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