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改造人間



「・・・奇妙なヤツだ。いきなり人が変わった」

 隊長が興味深げに帷月が去った後を見つめた。

「どっちが本物の上矢帷月だ・・・?」

 誰へともなく放たれたその問いに、答えたのは新庄だった。

「どちらも偽物でしょう。本物は・・・もうずっと昔に自分自身で殺してしまったのではないでしょうか」

 思わぬ新庄の答えに、隊長は少し目を見張った。

「・・・随分と確信めいているんだな」

「あんな小娘が、いつも近くにいるもので」

 新庄は軽く会釈してテロリストの回収を始めた。

 ここまではほぼ帷月のシナリオ通りだ。

 今まで新庄に情報を送り、〈教会〉に少しずつキーワードを与えていた。そして〈教会〉へ、最後の最大のヒントを与えるのは、学校に再びテロリストが侵入してきたときだと決めてあった。帷月は最初のテロリストの仲間が再び学校に復讐のためにやってくるだろうと半ば確信していたのだ。

 だてに長年テロリスト相手に戦ってきただけはある。

「隊長」

 はかったようにタイミングよく、九条が紅色の封筒を隊長に差し出した。

「ヴァンパイアからです。先程、俺の寮の部屋に届いたそうです」

 怪しいということには感づいているようだった。しかし、隊長は無言で封筒を受け取りその場で封を切った。

 内容はこうだ。


”これが私たちが教える最後のヒントです。これでもわからなければ諦めてください。

 私たちはあなた方〈教会〉がテロから守れなかった者です。

 それも、〈教会〉内のトラブルのせいで。

 ここまで言ったらわかりませんか?

 私たちが巻き込まれたテロ事件。

 隊長さんならわかりますよね?”


「黄昏の悪夢かッ」

 隊長が思わずそう叫んだ。

「新庄、黄昏の悪夢の生き残りは」

 予想通りの質問に、新庄は用意しておいた答えを並べた。

「生き残りは合計で二三人です。しかし、日常生活が出来るところまで回復したのはそういません」

「その中に子供の女はいたか」

「・・・はい。一人」

「名前は」

 だんだん隊長が声を荒げた。しかしそれとは対照的に新庄の受け答えは機械的になっていった。

「いいえ。そこまでは」

 その後にどんな言葉が続くのか、隊長は察したのだろう。

「すぐに調べろ。新庄、九条、シュナに一任する」

「はい」

 新庄と九条までは予想内だったが、シュナが入ったのは少し予想外だった。が、これは好都合だった。三人は車を一台借りて一足先に本部へ戻った。

「・・・上矢、帷月・・・」

 隊長はついさっきまでいた戦い慣れしていた女子高生の名前を呟いた。おそらくはあの少女がヴァンパイアなのだろうことはさすがに察しが付いた。

「テロから守れなかった者、か。確かにその通りだな」

 黄昏の悪夢は記憶する限り最も残酷かつ規模が大きいテロだ。きっとテロリストと〈教会〉どちらともを憎んでいるのだろう。だから〈教会〉に頼らず自らが強くなり、幼いながらもテロリストたちを葬り続けてきた。

 テロリストをいくら殺しても、それは罪にはならない。それはあの黄昏の悪夢の後、あわただしく作られたこの国の法律だ。テロリストのあまりの凶悪性に、こんな一部の殺しを正当化するような法律が作られた。当然、今まで一般人を殺していた者たちはいいカモが現れた、と歓喜した。が、テロリストがそこらの気まぐれ殺人狂などに殺されるわけもなく、逆にたくさんの犯罪者がテロリストによって葬られた。

 ヴァンパイアが世間を騒がせ始めたのはちょうどこの頃と重なる。誰もできなかったテロリスト殺しを唯一成し遂げたのだから。

「テロリストの罪か、〈教会〉の罪か・・・」

 それは被害者が決める問題だ。当事者が口出ししていいことではない。


 そして明くる日、帷月たちは狩りに出る。

 〈教会〉は必ずくる。

 全てを知って、

 果たして〈教会〉はどう動くのか。

「とうとう今日だね」

 海月が少し固い声で言った。少し緊張しているのだろう。

「あぁ、全てを知ったうえで、ここに来るはずだ」

 逆に帷月はいつも通り、武装を済ませてあまり抑揚のない声音でそう言った。



「報告がある。重要な報告だ。よく聞け」

 隊長がいつになく真面目な顔で言った。

「ヴァンパイアの正体がわかった」

 その言葉に、一斉に隊員たちがざわついた。

「名前は、上矢帷月」

 そこで大きなどよめきが起こった。そろって驚愕の表情を見せている。

「上矢、ってまさか昨日の少女が・・・?」

「あの女の子が、ヴァンパイア・・・?」

 周囲のざわつきは大きくなっていくばかりで静まらない。隊長は気にせず、野太い声で話しを続けた。

「その通りだ。そして彼女、上矢帷月は黄昏の悪夢の生き残りだ。あのテロで両親と兄を亡くしている。そして、自らも右腕を切断している」

「しかし隊長、昨日の少女には腕はありました」

 隊長の言葉にすかさず一人の隊員が指摘した。まだ、目の前の真実を受け入れることができないのだろう。

「あれはシュナの作った機械鎧だ」

 隊長が説明すると、その隊員は納得したように黙り込んだ。

「上矢帷月は黄昏の悪夢でかなりの重傷を負ったが、奇跡的に・・・本当に奇跡的に日常生活ができるところまで回復した。ここまで回復できたのは彼女一人だっけだそうだ」

 それが何を意味するのかいまいちわからない隊員たちはこぞって眉をひそめた。

「ここからはあくまで新庄の推測だ。・・・さすがにこの中に知らんヤツはいないだろう。<教会>が犯した最大の罪」

 そこで隊長は一呼吸おいた。それが隊員たちにより一層緊張感を与えた。

  教会 が犯した、最大最悪の禁忌


「改造人間計画」


 全員がほぼ同時に顔をしかめた。


 それは黄昏の悪夢の数年前に行われた、人間兵器を創り出す計画だ。実験台となったのは、主に捨て子や外国から買ってきた奴隷たち。その中に捨て子の日本人の双子がいた。たまたま<教会>の調査隊員が行った森の奥で狼とともに生活しているところを発見された。どうやって生き残ったのか、どうやって言葉を学んだのか、どこで生まれたのか、その全てが謎に包まれた双子だった。しかしその運動能力などを見て実験台に適しているのされ、<教会>によって保護される形になったのだ。名前は「アマラ」と「カマラ」と名付けられた。

 そして記録によれば、二人は実験後も死ぬことなく成功していた。アマラは並外れた運動能力と標準の人間の二〇倍の治癒能力。カマラは並外れた頭脳と標準の人間の一五倍の治癒能力を持った。

 そして、その力を持ってしてセキュリティの塊のような極秘地下研究所から脱走した。


「そう考えれば回復する事ができた理由が説明できる」

「しかし右手は」

「ベースはあくまで人間だ。さすがに失った腕を再生させることはできないだろう」

 そしてもう一つ、と隊長は付け足した。

「カマラの方に<教会>にいた記憶はない。二人が脱走したのは、<教会>がカマラに膨大な知識のスキルを埋め込む代わりにそれまでのほとんどの記憶を消去した、その日の夜だ」

 そのあまりの残酷なやり方に数人が顔を歪めた。

「では、カマラはそのことを覚えていないがアマラの方は覚えている・・・?」

その隊員の確認の質問に隊長は首を上下に振った。

「おそらくな」

 もし本当に上矢帷月がアマラならば、自分たちはひどく残酷なことをしている。嫌で嫌で逃げ出してきた 教会 へ、大切な育ての親を見殺しにした<教会>へ、もう一度戻れと言っているのだ。

 アマラとカマラの双子でないことを願って、今日これからヴァンパイアの双子の狩り場へと赴くのだ。


 <教会>の前教会長は残酷な人だった。テロリストを殺すためならば全く手段を選ばなかった。その結果として、<教会>は禁忌を犯すことになった。改造人間計画は前教会長とその賛同者数名で極秘に行われていた。アマラとカマラの脱走によってようやくその存在が知られた。そしてやっと前教会長は国家によって追放され、今の教会長が新しく立てられた。<教会>は国民の不安を和らげるため、テロリストを排除するために存在している。それを逆に不安にさせてしまっては、この 教会 の存在価値は全くの無になる。

 二度とあんな人間の道から外れることがないように。

 それが現教会長が立てた教訓だった。

 隊員たちは入隊時に必ず教会長にそう言い聞かされる。


 そして来る 深夜零時。


 すべての答えを持って 教会 とヴァンパイア、そして改造人間アマラ、カマラの歯車がようやく回り始める―――




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