表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

緊急クエスト!

 俺の名前は日影ひかげ 咲夜さくや

 職業:高校一年生。

 称号:引きこもりゲーマー。

 種族:吸血鬼一族の末裔(夜の方が昼より元気なだけ)。


 今は、学校の最寄り駅からちょっと歩いたところにあるワンルームで一人暮らし中だ。

 親には「通学大変だから」って建前で押し切ったけど、実際の目的は──帰宅後即ログインして、世界を救う大切な任務のためである。


 ――で、その俺の目の前には、ゲームの画面でも配信サイトでもなく、もっと深刻な「厳しい現実」があった。


「トマトジュース……切らしてるやん」


 空っぽの紙パックを握りつぶしながら、俺は机の下の床を覗き込んだ。

 足元には、山ほど積んであったはずのトマトジュースの段ボール箱。

 さっきまで「俺専用血液タワー」だったそれは、ただの段ボールの山になっている。


『おーい咲夜、試合戻ってこい。タンクいないと溶けるって』


 ヘッドセット越しにフレンドの声が聞こえる。


「悪い。緊急事態なんだよ。血……じゃなくてトマトジュースが切れた」


『あーはいはい、そっちの生命線ね』


「マジでこっちのが重要だからな? 明日、貧血で倒れたらどうすんだよ」


『知らんがな』


 ツッコミが飛んでくるが、笑ってる場合じゃない。

 吸血鬼の俺からトマトジュースを取り上げるのは、人間からネット回線を取り上げるのと同じだ。

 ――いや下手したらそれ以上かもしれない。


 冷蔵庫を開ける。

 ペットボトルの水、調味料、よく分からない自炊の残骸。赤い液体、ゼロ。


「俺……なんで水と調味料と謎のタッパーしか入れてないんだよ……」


 ため息ひとつ。ゲーミングモニターに目をやると、時間はちょうど午前0時半を回ったところだった。

 カーテンを開け、窓から外を眺めるてみても人通りはゼロ、車もほとんど走っていない。


「……今なら、ステルスでいけるくない?」


 普段は、外に出るとき黒髪ウィッグ+黒カラコンで「そこらへんの高校生」を装っている。

 けど、この時間帯に近所のコンビニまで行くだけなら、さすがに知り合いには会わないだろう。


 俺は鏡を覗き込む。

 真っ白な髪、赤い目、色の薄い肌。どう見ても「モブ」じゃない側の見た目だ。


「……うーん、目立つのは嫌だな。けど、めんどい」


 睡眠ゲージはゼロ、やる気ゲージは夜になってフルチャージ。

 一刻も早くフレンドの元へ戻らないと、尊い犠牲が生まれてしまう。


「よし。フードかぶってダッシュで行ってダッシュで帰る。

 NPCに話しかけなきゃイベントは発生しないんだよ」


 パーカーを羽織り、フードを深くかぶる。

 真っ白な前髪がちょろっと出てるけど、まあ暗いし何とかなるだろう。


 玄関の鍵を回しながら、ヘッドセットに向かって言う。


「救援物資補給してくる。10分で戻る」


『無理だろそれ。コンビニまで片道5分って前言ってたじゃん』


「じゃあ12分!」


『変わらんわ』


 そんなやりとりを最後に、ボイスチャットをミュートにして部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ