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第1章 内蔵風呂殺人事件 (② 捜査開始)



〜内臓風呂殺人事件発覚から3日後〜


とある黒塗りの6階建てマンションの入り口付近で一人の青年、杉野陽斗が緊張した面持ちでその場をウロウロと落ち着きなく歩き回っている。

だが、10分程してようやく動きを止め、決意を決めた顔付きでマンションの入口の扉に手をかける。

(杉野)「……ふぅ〜…初めまして、杉野陽斗です!初めまして、杉野陽斗です!…いや、シンプル過ぎるか?初めまして、俺は杉野陽斗!期待のイケてる新人です!…よし、これでいくか!」

そして扉に手をかけたまま、一人ブツブツと自己紹介の練習を呟いた後…杉野は扉をゆっくりと開き、中へ入るーー…。

マンション内は、広々としたホテルの様な落ち着いた雰囲気のエントランスホールが広がっており、杉野には通常のマンションとは随分と違って見えた。

(杉野)「ほぇー…オシャレな所だなぁ…。えっと、俺はどうすれば…あっ、あそこか?」

杉野はホールを少し進んだ先にカウンターを発見し、周りを見回しながら、ゆっくりと近付く。

カウンターの中に人は立っていない…だが、カウンター台の上に呼び出しベルがあった。

杉野は躊躇いがちに、そのベルを鳴らしてみる。

1度目…何も反応は無い…2度目も同じく…3度目…まだ反応は無い、そして4度目ー…バンッ!!

と、カウンターの中にある扉の中から、ショートカットの若い女が飛び出してきた。

杉野はドアの音にも驚いたが、何より一番驚いた事はショートカットの女がメイド服を着用している事だった。

(メイドの女)「はわわわ〜〜☆☆遅れてもーしわけございませ〜ん!おかえりないませ、ご主人たま!♡♡」

杉野と目が会うとショートカットの女は、あざとさをたっぷり含んだ声や姿勢で出迎えの挨拶をした。杉野は激しく動揺しながらも、何とか要件を伝える。

(杉野)「あっ、いえ…えっと…俺、新人の『狂人捜査員』なんですけど…まずどこへ行けばいい、でしょうか?」

(メイド服の女)「ええっ〜〜!ほんとですかぁ?♡新人さんなんていつぶりだろぉ♡えっと〜…まずはあそこのエレベーターから3階に言って、《捜査室》って書かれたプレートがかかってる扉があるんですけどぉ…その扉を開いたら、『狂人捜査員』さん達が揃ってると思いますよ!♡」

(杉野)「あっ、そうなんですね!ありがとうございます!さっそく行ってみます!」

杉野は頭を下げて礼を言い、急ぎ足でエレベーターの前まで行って、▲のボタンを押す。

(メイド服の女)「――あっ、ちなみに私は『対狂人特別捜査部』の受付嬢&コンシェルジュの高瀬鈴でーす!何かご用ある時は、内線電話でお伝え下されば役にたちますので、よろしくです♡」

(杉野)「はっ、はい!ありがとうございます、失礼します!」

杉野は再び頭を下げて、到着したエレベーターに乗り込んだ。

 (杉野)「…意外といい人そうだったな。悪かったな、見た目だけで変わった人って判断しちゃって…」


一方のエントランスホール…

(鈴)「……チッ…!はぁ〜…やっと行った。ったく、カップ麺食ってる時にきやがって!クソひよっこ坊やが!!役に立つのか?あんなヤツ…あのクソ坊やから、内線あってもいかんとこ……まぁどうでもいっか。どーせあんな奴、すぐ『死ぬ』か『辞める』だろうし」



ー3階廊下ー

《対狂人特別捜査部 捜査室》と書かれたプレートの扉の前で杉野は、震える手にギュッと力を込めてゆっくりと深呼吸する。

(杉野)――何を、震えてんだ。やっと…ここまで来たんだぞ…!『狂人捜査員になる覚悟』は、あの採用決定メールが来る…ずっと前から、とっくにしてただろ…!

 

(杉野)「…ふぅ…!よし、行くぞ!」

 コンコンコン…と、きっちりと3回のノックをして、意を決して杉野は《捜査室》の扉を開いたー。


(杉野)「…失礼します!あの俺…えっと、期待のイケてる新人、杉ー…」

(海)「おーい、まだこっちに捜査資料行き届いてないぞ!」

(一条)「…はい、患者資料ありがとうございました。失礼します……あ〜この精神病院もハズレか。海さん、都内の精神病院には犯人候補もめぼしい奴もいないよー!」

(遠藤)「おい、もう会議の時間だぞ!桜田と田中はどこほっつき歩いてんだ!!特に今回は桜田の『狂人分析』交えての会議だろーが!」

(杉野)「………ええっ…??」

杉野に誰も気付いていないのか、気付いていないフリをしているか…どちらにせよ杉野に声をかける者は、誰1人として居なかった。

杉野は恐る恐るオフィス内に入り、「あのー!すみません!」と少しだけ声量を上げてみる。だが、やはり誰も杉野の方を振り返らない。

 (海)「えっ〜と…碧は多分…うん、いつものラブホテル、だな…」

(遠藤)「チッ!あのクソ女好きの色狂いが!おい、海!アイツ、ちょっと自由にさせすぎなんじゃねーのか!!もっと厳しく『管理』してやりゃいいんだ!……というか、田中の基本的な面倒は桜田が見る事になってんだろ!桜田!おい、何処だ、桜田ぁー!!」

遠藤が壁を蹴り上げながら、大声で叫ぶ。杉野はその様子に恐怖しながら、ただジッ……と見守る事しか出来ない。

と、先程杉野が入ってきたばかりの扉がキィィ…と音を立ててゆっくりと開いた。

(汐里)「……は〜〜い…桜田汐里はこちらで〜す」

あちこち跳ねた寝癖だらけの髪には桜の花のヘアピンをしており、しわくちゃの白シャツの上にはブカブカのピンクのパーカーを羽織っている桜田汐里が入ってきた。

(汐里)「ふぁぁ〜…眠た」

(杉野)――何だ、俺と同い年か、それともちょっと年下ぐらいの…この女の子も『狂人捜査員』、なのか…?


(遠藤)「……桜田ァァァ!!お前、どこ行ってやがった!!」

(汐里)「…どこって…情報整理して〜みんなの資料作成して〜…その後は部屋で寝てましたけど?」

遠藤は掴みかかる程の勢いで、 ドンドン!と足音を響かせながら汐里に近付く。

(遠藤)「寝てましたけど!じゃねーんだよ!!会議は何時からだ!?」

( 汐里)「14時からですね〜」

(遠藤)「今何時だ!?」

(汐里)「うーんと…14時15分ぐらいですかね〜…」

(遠藤)「そうだ!!15分の遅刻だ!あと、それから田中はどうした!」

(汐里)「……碧くん?さぁ?行方不明なんです?」

(海)「…汐里、碧はいつもの所だ。安心しろ」

(汐里)「あっ、そーなんですね。遠藤さ〜ん、もう場所分かってるじゃないですか〜!なのに私に聞くって…うっかりさんですか?」

(遠藤)「…っ…そういう問題じゃ…」

(汐里)「…というか、それよりも…この子、誰です?」

止まらない会話劇を観客の様に見ているしか出来なかった杉野の肩を突然ポンッ、と汐里が叩いた。

その小さな衝撃で、杉野は一気に現実に引き戻される。

(海)「……そういえば、さっきからいた様な…あの君はいったいー…」

(杉野)「あっ、えっと、俺、あの…初めまして!杉野陽斗と言います!本日から、『対狂人特別捜査部』で『狂人捜査員』として働かせていただきます!よろしくー…」

そこで杉野はある『違和感』に気付き、言葉を止めた。

隣にいる汐里も、少し前にいる海も遠藤も、捜査室にいる『全員』がー…何故か、不思議そうに首を傾げている。

(汐里)「スギノハルト、くん?新人?海さん、いつの間に募集してたんです?」

(海)「……いや、俺は新人が入ってくるなんて知らないぞ」

(遠藤)「海が知らなかったら、俺達も知ってるわけねーだろ……」

(杉野)「……えっ?」

杉野も、汐里達も困惑の表情でお互いを見合わせる。どことなく気まずい空気が流れ始めた中……「……あ〜〜!!キミが来た理由を作ったのは、多分私だにゃ〜!」と大声が室内に響く。

全員、声のした方に注目を注ぐ。立っていたのは、猫耳が付いたパーカーを着た女だった。

女は「うーんとにゃ〜」と言いながら、指を口元に当てて語り出した。


《狂人捜査員 斎藤マリエ》

(斎藤)「いや〜…一時、猫と戯れる時間少なくてにゃー…。『捜査員』辞めたれ!と思って、、『狂人捜査員、募集します!』ってネットページ作ったにゃすよ〜。テキトーにテストみたいにゃの作って…合格かどーかの決定通知は、自動送信にしてたから…すっかり忘れてたにゃあ☆」

てへっと舌を出しながら、斎藤は手を額に軽く当てて、『あちゃー』というポーズを作る。

そんな斎藤に、海は眉間に深く皺を寄せながら低い声色で斎藤に問う。

(海)「……斎藤、 お前…『キャプテン』である俺に何も相談せずに…勝手に『狂人捜査員』の募集を?」

(斎藤)「YESだにゃ〜♪」

海の低い声色にも怯えること無く、斎藤はニコニコしながら、次はピースサインを作って海に向けた。

(海)「――おいおい…勝手な『狂人捜査員』の募集は禁止事項だぞ……」

斎藤の言動に、海は溜息を付きながら頭を抱える。

そして他の『捜査員』達も海や杉野達の周りに集まってきた。


《狂人捜査員 桜田 海斗》

(海斗)「……それ、確か三毛猫の画像からその三毛猫が雄か雌かを当てたら、合格っていう…ふざけたテストのやつじゃなかったですか?」


《対狂人捜査員 志田 響弥》

(志田)「ハハハッ!なんやねん、そのおもろいテスト!じゃあこの子、『狂人捜査員』として『出来る』かも分からんまま来てもたんかいや!」


《狂人捜査員 高瀬 結》

(結)「……信じられないわ」


《狂人捜査員 鈴木 嬉平》

(鈴木)「うーん!確かに信じられないな!!だが背丈も高いし、ガタイもいい…恐らく何らかの武術をかじっている事は間違いない…ちと、このまま帰すのは勿体ない気もするな、ふははは!」


《狂人捜査員 千家 琥太郎》

「……キャプテン、どうするんですか?それこそ今は『猫』の手も借りたい程忙しいって言ってましたよね」


千家の言葉に海は頭を捻って「うーん…」と唸り声をあげる。

 (海)「……だが、正式に『狂人捜査員』と決まったわけじゃないし…何より『命懸け』の仕事なんだ。申し訳ないが…君にはやっぱり帰ってもらって――」

(杉野)「帰りません!!」

海の言葉を遮って、杉野は拳を握り締めて真っ直ぐに全員を見据える。

(杉野)「…俺、間違ったテストを受けて、ここまで来てしまったみたいですけど…でも『狂人捜査員』になる『覚悟』はちゃんと持ってるんです!命も時間も、俺の全部をこの仕事に捧げるつもりで来たんです!絶対役に立つ様に頑張るんで…『狂人捜査員』にして下さい!」

杉野は『捜査員』達に、頭を深々と下げて頼み込む。

杉野以外の面々が困り顔で互いを見合わせる。そんな中、汐里だけが、杉野に視線を真っ直ぐに向けて微かに優しく微笑んでいた。

(汐里)「……海さん、今回の事件、杉野くんにも捜査参加してもらいましょう」

(海)「えっ…?」

(遠藤)「何言ってんだ、桜田ぁ!?」

(一条)「えっ〜!?桜田ぁ、新人クンの面倒を見る暇なんて俺らには無いよ〜?」

(遠藤)「そういう問題でもねーだろ!」

(志田)「…何ふざけた事言うてるん、『心理官』ちゃん」

(みな)が、困惑した面持ちで汐里を見つめる。

(汐里)「――今回の事件を一緒に捜査してもらい、杉野くんが『狂人捜査員』に向いてるかどうかを判断すればいいんじゃないでしょうか。基本的に、私が彼をサポートしますし…裏方に回ってもらっていたら、『狂人』と直接対峙する事もそうそう無いでしょうし……」

(海)「……なんで汐里が、そこまで杉野くんの後押しを?」

 (汐里)「……うーん…強いて理由を上げるなら…『心理官』としての感、かなぁ……」

汐里の言葉に海が少しだけ眉をしかめた後、呆れた笑いを浮かべる。そして、「ふう〜〜……」と、長い息を吐いた後、会議テーブルの前まで行った海は汐里達の方を振り返った。

(海)「……な〜にボサボサしてたんだ。ほら皆、会議を始めるぞ!汐里、捜査資料を頼む。…杉野くん、君も来てこっちに座ってくれ」

(杉野)「えっ……はっ、はい!」

(遠藤)「おい、海!」(志田)「……最悪や」

遠藤と志田の言葉を華麗にスルーし、海は会議テーブルの方へと杉野を迎え入れる。 汐里も、海達のすぐ後を追う。

(千家)「……そうなると思った」

(結)「はぁ〜…」

(鈴木)「はははっ!あの人は、一度決めた事は曲げないからな!仕方なし!」

(海斗)「……まぁ、キャプテンの決めた事なら、従うしかないな。っていうか、汐里も何を考えているんだか……」

(斎藤)「にゃはは!本当に『素人』を捜査参加させるなんて、相変わらずキャプテンは面白いにゃー」

(志田)「……そもそも誰のせいやと思てんねん、クソ猫女が」

捜査員達は、それぞれ戸惑いや呆れ、怒り等の感情を拭えないまま、会議テーブルに重い足取りで向かう。

全員が揃ったところで、既に会議の準備を進めていた海が全員を振り返りー…

(海)「じゃあ――会議を始めようか」と、言った。



 ――内臓風呂殺人事件の会議――


会議用テーブルがある中央のルームは、部屋の奥の壁にシアターが設置され、会議用テーブルの周りには、数十個の背もたれのある簡易〈かんい〉な黒色の椅子が並べられているだけの通常のオフィスにもよくありそうな一室だった。

ただ少し薄暗く、厳重な防音設備が施されている為か壁も分厚く、今から会議の始まる緊張感も相まって、どこか重苦しい空気が漂っていた。

そして、会議用テーブルに『捜査員』達が集い、それぞれの椅子に並んで座りー…《内臓風呂殺人事件》についての会議が始まった。

奥の壁にあるシアターには、『事件現場』の動画や写真が次々と映し出される。


――女性の死体、内臓が詰まった浴室、殺害現場となったリビング、血だらけのナタとノコギリ…。

「うっ……」その数々の映像を見て、杉野は込み上げる吐き気を必死に抑えた。

(汐里)「…内臓風呂殺人事件についてですが、被害者の名前は谷 真奈さん、23歳。死因は首を絞められた事による窒息死。都内の星大学に在籍する学生です。『情報員』によると、いつも明るくて人当たりのよく、困っている人を見捨てられない優しい性格で、友人も多かったそうです。その友人達に『狂人』が起こした事件という事は伏せて話を聞いた所…『彼女を恨む人なんていなかった』と、全員が口を揃えて言ったそうです」

次に『被害者』である、谷真奈が映し出される。目鼻立ちのしっかりした、彫りの深い顔をした金髪の女性だ。

(汐里)「…次に犯人の『狂人』の大まかな『特徴』ですが、内臓風呂を公安の鑑識が詳しく調べてくれた所、短い黒の髪の毛が数本、陰毛らしき毛も数本、そして何個かの内臓に『指紋』と『精液』が大量に付着していました。どうやら犯人は内臓風呂に浸かり、そのまま射精した様ですね。…歪んだ性癖、性欲の絡んだ『セックス殺人』で間違いないです」

(杉野)「せっ…セックス!?」

(汐里)「……えっ、何でそこに強く反応?あっ、杉野くんは童貞ですか?」

(杉野)「違っ、違います!絶対!」

(汐里)「というのはどうでもいいとして…犯人の『狂人』は『ディスオーガナイズド型』で、間違いないと思います。

更に絞るなら、その中でも主な動機は『性欲』タイプ。被害者をリビングで殺し、バラして内臓を取り出した『凶器』は放置されたまま…更によく見ると床に付いた血もベタベタと踏んでいった後もあり…内臓風呂にして、自身も全身浸かり、その中に指紋に毛、精液を残していく辺りはあまり賢いと言えません。『凶器』であるノコギリやナタもよく持ち歩いていて、今回の殺人は本当に突発的にした事ではないでしょうか。計画的では…無い。

その諸々から推測した『狂人像』は、50代前半の男性で、あまり細かい事は気にとめず、基本的に無頓着で周りの状況に無関心。その為、自分の容姿をあまり気にかける事は少ない、つまり清潔感はなく、髭も生やし放題の可能性は高い…女性からはモテず、恋愛とは縁遠い人物。そしてノコギリやナタを持ち歩いていても違和感がなく、あまり清潔ではない容姿でも出来る仕事…建築関係等の職人かと思われます…と、今はこんな感じの『分析』ですね〜」


汐里の話が終わり、『捜査員』達はそれぞれの考えを話し出す。そんな中、杉野は汐里にそっと近付き、ヒーローを見る様なキラキラした目を、汐里に向けて絶賛の言葉を口にする。

(杉野)「すっ、凄いです!少ない情報の中で、それだけの『狂人』の予測があるなんて…ディスオーガナイズド型とか?性欲タイプ?とかはあんま分かんないですけど……」

(汐里)「あ〜聞かへん言葉やもんなぁ。また後で私が書いた『狂人』に使う専門用語をまとめたノートあるから…それで良かったら貸してあげるよ〜」

(杉野)「ありがとうございます!」

そんな会話をしているうちに、《捜査員》達の話は汐里の《狂人分析》以上には膨らまず、会議は早々に終わりを迎えようとしていた。

《捜査員》達は、それぞれの捜査を開始する為に椅子から立ち上がろうとする。それを汐里が「あっ、最後に1ついいですか」と止める。

(汐里)「最後に…首を絞めた時に使ったモノだけを持って帰ってるのが、気になります。ただの『トロフィー』として持ち帰ったのか…それとも『現場』に残していけない理由があったのか…どちらにせよ、『絞殺痕』の『凶器』は注目した方が良さそうです」


(杉野)「あの、これってあまりよく分かんなくて…」

(汐里)「あ〜…これはね〜」

会議が終わり、『捜査員』達が個々に散らばった後も、会議用テーブルの近くで杉野は汐里が貸してくれたノートを見ながら、意味を熱心に聞いて勉強している。

その様子を海と遠藤の二人が見ている。

(遠藤)「…海、本当にあんな奴を捜査に入れる気か?何考えてんだ」

(藍沢)「…うーん…汐里の『感』は凄く鋭いんですよ、怖くなるぐらいに。そんな汐里が『感』であの子を捜査員にしようとしてる、ならそれに従うか…って、ただそれだけの理由ですよ」

(遠藤)「…チッ!呑気な奴だぜ。大体アイツを桜田に近付けたら、田中が面倒な事にー…」

(碧)「…た〜だ〜いま♪あれ、会議終わった後?悪ぃ、悪ぃ。今日の女、なかなかしつこくてさ〜。……で、俺が面倒な事になるってどーいう意味?」

気付けば海達の背後にいた碧が笑顔を浮かべ、早口でまくし立てる様に喋った。

(遠藤)「……お前、いつの間に後ろに?」

(海)「……碧、おかえり」

(碧)「ただいま〜海サン。……で、汐里は?」

(海)「えっ〜と…あそこで新人(仮)の杉野くんに指導をー…」

(碧)「…新人?スギノ、くん?」

碧は笑顔を崩さないまま、眉間に軽く皺を寄せ、目に静かな怒りを込めた。碧が海の示した場所に目線を向ける。

(杉野)「えっ、汐里さんって俺の1個上!?じゃあ23ですか!?」

(汐里)「そーやけど…えっ、年下やと思われてた?何で?……大人の女の魅力はあると思うやけど…」

(杉野)「すみません、正直中学生ぐらいに見えます」

(汐里)「ええっ…嘘やろ」

(杉野)「あっ、はい。中学生は言い過ぎました、高1ぐらいです」

(汐里)「……そんな変わってない」

(杉野)「あはははっ、すみません」

汐里と杉野は互いに笑みを浮かべ、軽く談笑していた。

(碧)「……へぇー…?」

(海)「碧、分かっていると思うが手は出さ――……」

海の言葉が言い終わる前に、碧は床を蹴って走り、瞬き1つの間に驚くべき速さで汐里達に近付き――……

「…ぇ、」杉野の頭を蹴り上げる。杉野は一瞬で床に倒れ込み、気を失う。

(碧)「……?」

杉野を蹴った際に『違和感』があり、碧は自分の足を小首を傾げて見下ろした。

(汐里)「わぁー!!杉野くん!?」

突然倒れた杉野に汐里は慌てて駆け寄ろうとするが、グイッ……と碧の方へと引き寄せられ、後ろから抱き締められる様な形になってしまった。

(碧)「……汐里〜。お前さ、何で先にソイツの名前呼ぶの?俺におかえりは?」

汐里の耳元で、碧が囁く。そして、 汐里の顔を後ろからヒョイっと覗き込む。

(汐里)「碧くん、おかえり!……いや、イケメンのアップと囁きボイス、心臓に悪っ!!しかもめっちゃいい匂いする!イケメンって生物って凄いな、ほんまに!って、そんな場合ちゃう!誰かー!杉野くんを医務室に連れて行ってあげてくださ〜い!!」



…一方とあるアパートの室内…

(金髪の女性)「やっ、やめて、ころさ、ないで…」

怯える女性に人影は、ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべて女性に向けて、何度も何度も拳を振り下ろした。

(謎の人影)「ふんーふん♪内臓風呂♪内臓風呂♪」といつまでも歌う様に言い、殴り、笑い続けた。



内臓風呂殺人事件 『③ 止まらない狂人』に続く

 

 

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