あつまれ! 逢桜町民ズ 男性陣編
それでは、気を取り直して突撃取材第二弾!
ここは、町の中心部を流れる逢川河川敷にあります町営スポーツパーク。球技を中心に様々な種目の競技場・練習場、多目的広場などを備え「あさくらスパーク」の愛称で親しまれています。
堤防の上に位置する管理棟にはカフェや足湯があるほか、河川敷の一部は車で乗りつけ可能なデイキャンプ場になっています。休日にはこれまた併設のイベント広場にキッチンカーがやってくるので、スポーツ好きでなくとも休日はここへ繰り出すぞ、という逢桜町民は多いようです。
その一角にあるサッカー場が、今回お邪魔する新興eスポーツ・バーチャルサッカーのプロクラブ「VFC逢桜ポラリス」の練習拠点。
今日はポラリスの経営陣による視察と、選手たちの自主練習が行われているとのことです。
「こんにちは、市川さん。本日はよろしくお願いします。狭ければタブレットをご用意しますが、大丈夫ですか?」
いえ、お気遣いなく。スマートフォンだと見た目狭そうに見えますが、実際の私は縮尺自在なので意外と快適なんですよ。
それより、せっかくなので自己紹介をお願いできますか?
「VFC逢桜ポラリス、運営事務局次長の川岸一徹です。逢桜町役場の総務課からやってきました」
皆さんはもうお気づきでしょうか。こちらの茶色いマッシュルームヘアと下がり眉が特徴の男性は、澪さんのお父さまにして流華さんの旦那さま。町長の命でポラリスに派遣されている、幹部級の役場職員です。
主なお仕事は、企画・広報・経理・渉外など一般事務の統括。ほかにも重要な役割を担っておられるようですが、それはまたの機会に語るとしましょう。
ご用意いただいた端末の設定を調整し――いざ、取材開始です!
「ハヤさん、お客様をお連れしました」
「ありがとう、一徹君。キミが役場広報室の市川さんだね?」
観戦スタンド下、ロッカールームの向かいにある会議室へやってきました。今回の取材協力者がいらっしゃいます。さっそくお話を聞いてみましょう!
こんにちは、お世話になります! VFC逢桜ポラリスの最高責任者、徳永隼人さんでしょうか?
内閣府の官僚とお伺いしたのですが……やはり知的、かつ一筋縄ではいかなさそう。着物に袴姿の和装がよくお似合いで、時代劇の撮影現場から抜け出してきたざんばら髪の知識人みたいです。まさにラスト・サムライ、前髪で顔の右半分隠してるのもミステリアス……。
あ、誤解のないように言っておきますが、褒め言葉ですよ!
「はっはっは、ずいぶん緊張しているようだね。気を楽にしなさい。そんなに早口では視聴者の皆さんが聞き取りづらくなってしまうよ」
「いやいや、そこがイイんじゃないですかハヤさん。初々しくて娘の授業参観を見ているような気分――」
「一徹君。その発言、解釈によってはセクハラだぞ」
「えっ……」
「奥さんに、言いつけるよ?」
徳永さんはそう言ってにっこり笑うと、年上の部下に向けて懐から扇子を出し、これ見よがしにぱたぱたと振ってみせました。
こ、怖い! 笑顔が怖すぎます、このゼネラルマネージャー! 糸目というか、細い目の奥で何を考えておられるのかまったくわかりません……!
「すいませんでした――ッ! どうかそれだけはお許しをぉぉぉぉ!」
「謝るなら彼女に。そろそろ目的地へご案内しようか」
不可視の重圧に震え上がりながら、私たちは次の場所へ移動しました。会見場としても使われる会議室を出て、いよいよ選手たちのいる場所へ。
振り返れば……おお、スタンド席にたくさんの人が! 町民の皆さんが期待に胸を膨らませ、地元クラブの練習を見に来ているようです!
そして――あっ、いましたいました! ポラリスの看板選手たちです! 一番小柄な選手が、守備二人を相手に実戦形式でシュートの練習をしていますね。
「小林! カット、カット! そこで止めろ!」
「えっ、ちょ……ああっ!?」
「脇が甘ぇんだら、おんしゃー!」
と……状況を把握したのもつかの間、点取り屋がわずかな一瞬を突いてバックステップから守備陣の横をすり抜け、無人のゴールめがけて脚を振り抜きました。
決まったァ――ッ! 見事なミドルシュート、さすがりょーちん! いえ、ここはキャプテンの佐々木シャルル良平選手とお呼びすべきでしょうか。
元Jリーグの花形選手、そのうえ金髪碧眼の童顔イケメンとくれば、当然モテないはずもなく……「チャライカー」とあだ名されるほどのチャラ男なのに、不思議と干されないんですよね……。
「はあああああああ!? 何だよ今の! 急加速で一気に小林抜いて、スピードそのまま切り返し、横に出て俺も撒くとかおかしいだろ!」
「だって『やーいチャライカー日本代表、かかって来い』なんて言われたら、目に物見せてやりたくなるじゃん」
「昔より格段にタチ悪くなってんな、てめえの必殺シャルルターン! 初っ端でプロの洗礼浴びせるヤツがいるか、ブランクと実力差を考えろ!」
その佐々木選手に食ってかかる、すっきり丸く整った黒髪の男性が羽田正一選手。かなり大柄ですね、身長一九〇近くはあるでしょうか。
ポジションはミッドフィルダー、普段は車椅子で生活している不動産屋の社長さんです。
え? 普通に立ってるじゃないか、と? ええ、これは立体ホログラムですから。
彼は上半身にモーションキャプチャをつけ、別室でご自身の3Dモデルを操って試合に参戦するバーチャルゲーマーなのです!
「いやいや、ショウもすごいって。俺の動きを完璧に読んでた」
「見抜いても止められないから意味ねえけどな。俺はいいとして、高校生相手に過剰火力だろアレ。しかもお前のファンとか、心バッキバキに折れたらどうすんの?」
「今のが、本物のシャルルターン……! やっぱり強ぇ、最ッ高!」
「なんないなんない。ガチのりょーちんリスペクトならこうなる」
「メンタル化け物かよこのフォワードども!」
わっ! この子も背が高いですね。少し長いテラコッタ色の髪が爽やかな彼は、小林公望さん。澪さんと七海さんのクラスメイトで、時々こっそり憧れのお二人と練習に励んでいるようです。
ということは、高校一年生で身長一八〇センチ? 逢桜高校サッカー班(部)期待の大型新人と聞いてはいましたが……まさか「大型」ってそういう意味!?
三人が集まったところで、徳永さんが声をかけ休憩を促しました。観客の黄色い声援を浴びながら、選手たちが私のすぐ目の前に迫ってきます! きゃー!
「みんな、練習お疲れさま。休憩がてら取材に応じてくれないか」
「お、はるみんじゃん。どした? 何の用? 何訊きたい?」
『早い早い早い、距離詰めるの早すぎるぞ良平! そんなんだからチャライカーって呼ばれるんだお前は!』
ひえぇぇぇぇぇ、近い! ちーかーいー! なに自然に(私の入った端末を持ってる一徹さんごと)壁ドン仕掛けてるんですかこの人――!?
そんなフレンドリーすぎる佐々木選手の隣に姿を現し、慌ててブレーキをかけてくださったのは彼のパートナーAGIにして敏腕マネージャー、手代木瀬名さん。私が今回ご紹介する男性陣は、この人で最後ですね。
パートナーAGIとは、インプラント手術でこめかみに埋め込むタイプのウェアラブルデバイス〈Psychic〉に搭載された汎用AIのこと。自分好みにカスタマイズすれば、フィギュアサイズのアバターがいつでもあなたに寄り添ってくれるんですよ。
黒のもっさりくせ毛にウェリントン系の黒縁メガネ、という野暮ったい見た目からは想像もつかないほど、実はすごい個体なのです。
『……まったく。悪いな、うちのマスターがとんだ粗相を』
「小林。悪いことは言わねえ。推しを見習うのはピッチ内にいる時だけにしとけ」
「ショウまでひどいな、まるで俺のことをチャラ男みたいに」
「チャラ男以外の何物でもないだろうが!」
い、いえ! 私はファンなので嬉しいしむしろ役得ですけど、後ろで見ているりょーちん親衛隊(過激派)から袋叩きにされないかがちょっと……。
すみません、改めて――お話、よろしいでしょうか?