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クロと黒歴史:補完篇  作者: ムツナツキ
第七章『色彩と黒歴史──参──』
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第90話「助太刀」

 腰まで伸びた長い髪と、彫りの深い顔が特徴的な男。振り向いて彼の姿を確認したらしいセレスは、即座に立ち上がって再び大鎌を構えた。


「何しに来た」


「決まってんだろ。二人まとめて片付けに来たんだよ」


(……イタリア語、だよな?)


 日本語ではない言葉で会話する二人。恐らくは、(らい)()に情報を渡さないようにという理由が少なからずあるのだろう。ただ、彼はその言語をそれなりに扱えるようになっていたため、物騒な発言をされたことには気づいていた。


「こいつは関係ない」


「おいおい。あんだけ派手にやっといてそりゃ無理があるだろ……なんにせよ、この場にいるだけで『片付け』の対象だ。悪く思うな」


 男の魔力が、高まっていく。今のセレスと二人がかりで戦ったとしても、勝機を見出せそうもない程に。


「……なあ、セレス」


 雷貴は立ち上がってセレスの隣に寄り、彼女に声をかける。相手に余計な情報を与えないよう、日本語で。


「あいつは、いったい……」


 セレスに殺されたとされる被害者の一覧。そこに載っていてもおかしくない容姿の男が、彼女と知り合いであるかのように振る舞っている。更には二人の命を狙っていると言うのだから、雷貴の疑問は増えるばかりだった。


「ボクが時間を稼ぐ。雷貴は逃げて」


 そう返したセレスは、ゆっくりと歩を進める。あと少しで彼女の抱えるものを知れそうだったが、男の登場により振り出しに戻ってしまったようだ。

 ただ、愚痴も弱音も吐いてはいられない。

 そして、雷貴が彼女に従う理由もまた、存在しなかった。


「冗談だろ」


 再びセレスの隣に立ち、魔導具を構える。


「お前一人置いて、のこのこと帰れるかよ」


 不敵な笑みを浮かべる雷貴。この状況で尻尾を巻いて逃げられるような性分なら、最初からセレスの抱える問題に関わっていないのだ。


「逃げはしない、か。まあ俺としてもその方が都合がいい」


 雷貴の戦意は伝わっているはずだが、男は意に介さない様子でそう呟いた。多少抵抗されてもねじ伏せられるという自信があるのだろう。


「じゃあ、死んでくれ」


 腕を伸ばし、男がそう告げる。

 直後、付近に転がっていたドラム缶や鉄パイプが浮遊して二人の方へと迫った。

 物体の浮遊を可能にする魔法。金属だけが対象になっているあたり、磁力を発生させているのかもしれない。もしそうなら、相手も雷属性の魔力を有しているということなのだろうか────いや、悠長に考えている場合ではない。

 まずは相手の攻撃を打ち落とさなくてはと雷貴が考えた、直後のこと。相手は突然振り返り、金属の軌道を修正した。


(なんだ……?)


 雷貴はその方向、男の奥にそびえ立つ建造物の屋上へと視線を動かす。目を凝らすと、そこから黒い球体のようなものが四つ、飛来しているのがわかった。

 どうやら、男はそれを感知していたらしい。二人が手負いであるためか、躊躇せず背を向けて奇襲への対応に乗り出したようだった。

 だが、その行動は無駄に終わる。

 黒い球体は金属を次々に躱して男へと急接近した後、その形を紐のように変化させて相手の体を素早く絡め取った。


「くそっ……」


 男はその場に倒れ、身動きができなくなっている。制御が複雑なのか、魔法で浮かせていたであろう物体も次々と重力に従って落下していった。

 第三者に介入されているのは、間違いない。ただ、敵の敵が味方とも限らないため、雷貴は警戒を続けたまま建造物の頂へと視線を戻した。


(なんだ、あれ?)


 球体が発射された位置から、今度は掌を模した形の黒い何かがゆっくりと高度を落としている。魔力反応こそ感じられるが、危害を加えてくる様子は見受けられず、雷貴は距離を取ってその落下を見守ることにした。

 やがて『掌』の上に見えたのは、同色の鎧を身に纏った人物。兜によって顔が隠されているために思考を読み取れないものの、やはり敵意は感じられない。

 その見立ては、本当に正しいか。雷貴は今にも飛びかかりそうなセレスを押さえつつ、相手の出方を窺う。


「よっ、と……二人とも、大丈夫か?」


 黒い『掌』が消滅すると同時に、鎧の人物は飛び降りて着地した。倒れる男と、二人の間に立つ形だ。

 直後、その兜の向こうから、青年、あるいは少年のような声が放たれる。くぐもってわかりづらいが、雷貴にはそれに聞き覚えがあった。


「……お前、誰だ」


 先んじて、セレスが尋ねる。傍から見ているだけの雷貴にも伝わってくる程の敵意を彼女は放っていた。


「俺だよ、俺。覚えてないか? 学園祭のときの」


 その言葉が、雷貴の予想を確信に変える。未だ正体に気づけていない様子のセレスを落ち着かせるべく、雷貴は口を開いた。


「まさか……ク────」


「おっと、名前は呼ぶな」


 言葉を被せられたことで、その名を挙げられずに終わる。

 恐らく、目の前にいるのは(ふじ)(さき)クロだ。声も、魔力反応も、彼のそれと合致している。

 何故この場を訪れたのかは不明だが、二人以外の存在に素性を明かしたくないという考えがあるのだろう。鎧を纏っているのはそのためかと、雷貴は一人納得した。


「それより、何がどうなってんのか教えてくれないか」


 兜が、やや雷貴の方へと回る。

 視線を送られたことには気づいたが、クロからの問いかけに答えられる程、彼も状況を把握できてはいないため、もう一人の方へと顔を向けた。

 二つの視線を一身に受けるセレス。しばしの沈黙の後、彼女はクロの方へと近づいていった。


(……セレス?)


 彼女はクロの横を通り過ぎ、拘束されて倒れている男の前で立ち止まる。その手には、尚も大鎌が握られたままだった。


「まだ、終わってない」


「え?」


 雷貴とクロの声が、重なる。

 直後、四肢をぴったりと胴体に密着させられて芋虫のように地面を這っていた男が、笑いだした。かと思えば、付近の金属が次々とその体に接合されていく。


「な、なんだ……!?」


 クロの声をかき消す程の轟音を立てながら、遠方からも集まってきた金属の流れが、男の体を空高くへと押し上げていった。やがて、無数の金属に飲み込まれてその姿は見えなくなる。

 代わりに三人の前に現れたのは、人を模した金属の塊────金属製の、巨人。五階建てであろう建造物を越える程の高さだ。


「『クロキヤリ』!」


 最後に男が見えた位置に向けて、クロから闇の槍が放たれる。だが、集まった金属の鎧を突破することはできなかった。


「ちっ……」


「さっきの闇は!」


「駄目だ、制御できない!」


 男を捕らえていたはずの闇を利用すれば、相手の狙いを早々に潰せるのではないか。そんな期待のもと雷貴は確認したが、そう上手くはいかないらしい。口ぶりからして、闇自体は残っているようだが、それでも不可能なのは密集する金属に阻害されているためか。


「……二人とも、戦えるか?」


「正直、魔力かつかつかな」


「限界、近い」


 クロの言葉に、雷貴、セレスの順で返事をする。互いに傷つけ合っていたことで、既に二人は満身創痍だ。戦えない程ではないが、目の前の塊を満足に相手取ることは難しいだろう。


「……そっか、俺もだ」


 クロもまた、ここへ辿り着くまでに消耗していたらしい。これでは、三人で一斉に魔法を使って物量差で突破、という荒技は使えないだろう。だが、逃げることもできなそうだ。何か、策を考えなければ。


「ク……鎧の人。さっき奴を捕まえてた闇自体は、まだ残ってるの?」


「え? あ、ああ……反応があるから、多分な」


 初めての呼称に戸惑うような反応を見せながらも、クロが雷貴からの問いに答える。


「それ、どの辺?」


「……俺の体で言うなら、ここ」


 そう言って、クロは自身の左胸────心臓のあたりを叩いた。


「相手に拘束を解かれてる可能性は?」


「ゼロとは言えないよな。相手が、何かしらに利用するために残してるだけかもしれないし」


 クロの言うとおり、相手が罠を仕掛けている可能性は充分に考えられる。ただ、それを考慮した立ち回りでこの局面を乗り越えることは困難だ。雷貴は止むを得ず、一か八かの作戦を提案することにした。


「……二人とも、無茶なお願いしてもいいかな?」


 か細い声に、クロとセレスが一斉に振り向く。二人は何を言うでもなく、ただ一度だけ、深く頷いた。

 断られなかったことは、喜ぶべきなのだろう。それでも、二つ返事で済ませていい話ではない。

 雷貴は再度確認しようと言葉を発しかけたが、直後に思い直したことで首を振ってそれを中断した。

 二人は既に覚悟を決めている。そこに至れていないのは、自分だけ。そう気づいた彼は気を引き締め直してから再び口を開いた。


「奴が操作できるのは、多分、金属だけだ。雷属性の魔法の応用で、俺が金属の繋がりを阻害するから……二人はその隙に、あの男がいる位置に攻撃して。闇に捕まったままなら、その反応から探れるはずだから」


「なるほど……よし、任せろ」


「……了解」


「ただ、気をつけてほしいことがあって……」


「ん?」


 今話したことだけならば、二人はきっとやり遂げるだろう。

 それだけならば、だ。故に、ここからが本題であり、雷貴の不安を煽る要因だった。


「相手の魔法を完全に止めることはできないから、確実に仕留めるなら接近した方がいいんだけど……そうすると、俺の電撃をもろにくらうことになるんだよね」


 雷貴は頬を人差し指で掻きながら、眉を八の字に下げる。そんな彼に対し、二人から同時にため息が吐かれた。


「気にすんな。痛いのは慣れてる」


「……さっき、散々くらった」


「あ、やっぱ雷貴と戦ってたのってお前か」


 問いかけだと思わなかったのか、それとも答える気がさらさらないのか、セレスは無言を貫いている。


「……ま、話はこいつを倒してから、だな」


 クロは巨人の方へと向き直り、闇の剣を形成した。


「行くぜ、二人とも」


「仕切るな」


「……それじゃあ、始めよう!」


 雷貴の握る魔導具から相手に向かって、紫色の雷が伸びる。それを合図に、他の二人は駆け出した。


(なんとか、持ってくれよ……!)


 自身の魔導具に対しても、雷貴は懸念を抱いている。

 最後に使用してからそれなりに時間が経過していたためか、問題なく魔力を増幅させることができた。狙いどおり相手の魔法を阻害することにも成功している。

 ただ、いつまた限界に近づくかわからない。最悪、自らの魔力だけで作戦を続行することも視野に入れなければならなかった。


「うわっ……!?」


 一人留まっている雷貴に、数本の鉄パイプが飛来する。彼は反応が遅れて回避行動を取れなかったが、肉体へと逆流している雷が発生させていたらしい磁力によって軌道を逸らせたことで、負傷せずに済んだ。


(俺も動いて相手を撹乱した方がいいか……? いや、駄目だな)


 留まらずに動き回れば、万が一魔導具が使用不可能となった瞬間に相手の攻撃が飛来しても、すぐ回避に移ることができる。また、相手の心臓部目指して金属を駆け上っている二人から、相手の注意を逸らすこともできるだろう。

 ただ、そうすることによって魔法の阻害に影響が出ては元も子もないと判断し、魔力の制御のみに神経を集中させることにした。


(────着いたか)


 幸い、誰の限界も訪れることなく、二人が相手の心臓部付近まで辿り着く。そして、雷に蝕まれているとは思えない程の勢いで、密集する金属の掘削を開始した。


(頼む……これで、終わってくれ)


 雷貴自身の魔力も、限界に近い。もし、相手本体の位置が見当違いの場所にあったとしても、継戦することは困難だ。

 二人も同様だろう。それを示すかのように、大鎌と闇の剣が同時に砕け散った。

 再度出現させる様子は、ない。


(まさか……)


 作戦失敗の文字が雷貴の脳裏によぎった、その直後。クロとセレスの体が、唐突に地面へと引き寄せられていく。

 それだけでなく、巨人を構成していた無数の金属までもが本来の物理法則に従っていた。

 恐らくは、相手の魔法が解除されたのだろう。つまり、二人が相手を無力化させることに成功した可能性が高いということだ。


(まずい、なんとかしないと!)


 勝利がほとんど確実になったとは言え、喜んでいる暇はない。雷貴が何もしなければ、二人は降り注ぐ金属の雨に打たれて赤い水溜まりを作ることになる。二人の落下そのものを止める術はないが、金属だけでも対処しなければと彼は魔力を振り絞った。


「くそっ、駄目だ……!」


 少量の魔力で、短時間に、多くの対象を完全に制御することは、今の雷貴にはできない。大切な仲間に危機が迫っているというのにもかかわらず、彼はそれを見ていることしかできなかった。

 心を、頭を、絶望が支配する。夜の闇が広がるかのように、彼の視界は黒く染まっていった。

 だが、突如として発生した眩い光が、彼の世界に色彩を取り戻す。直後に聞こえたのは、仲間の声。


「雷貴、大丈夫か!?」


「クロ、さん……?」


 先程まで前方遠くで落下していたはずのクロの姿が、何故かすぐ近くにあった。更には、セレスの姿まで。

 どうやら、二人して彼に抱えられ、運ばれているらしい。腹部に回された腕と、前方から感じる風圧によって、そう気づくことができた。


「とりあえず逃げるぞ!」


「は、はい!」


 クロにつられて、雷貴は声を張り上げる。未だ理解が追いついていないが、確認する余裕は互いになさそうだ。

 金属の落下による轟音と、続く爆発音を背に、三人は廃工場を後にするのだった。

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