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クロと黒歴史:補完篇  作者: ムツナツキ
第六章『色彩と黒歴史──弐──』
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第79話「暗雲と宣告」

 七月下旬。(えい)(さい)学園は既に夏季休業へと入っていたが、そんななかでも自警団の活動は行われている。人員不足が未だ解消されていないのだから、仕方がない。

 ただ、休みが全くないわけではなかった。

 戦力になると言っても、所詮は学生。その本分は勉強だ。そういった点を考慮してのことだろう。

 故に、(らい)()()(とせ)の二人が揃って休みになることもまた、珍しくはなかった。ちょうど、今日のように。


「純粋な疑問なんだけどさ……なんでこの場所にしたんだ?」


 この日、雷貴は千歳に呼び出され、高級料亭へと足を運んでいた。

 二人で陣取るにはあまりに広すぎる和室。今が営業時間外の夕方前だからか、二人に挟まれる長机の上には何も乗せられていないが、実際はここに収まりきらない程豪勢な料理の数々が運ばれてくるのだろうと推測できる。


「誰にも聞かれることのないよう全力を尽くした結果です。今日は忙しいみたいで、この時間しか借りられませんでしたが……まあ、余計な代金を支払わずに済んだと思うことにしましょう」


「……それで、その、話っていうのは?」


「セレスのことです」


 半ば無意識的に、雷貴は体を強張らせた。

 セレスが犯行を起こしてから、鋭才自警団でその名が口に出されることがなかったためだ。禁句になっているのかとばかり思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


(みどり)()先輩、セレスについての調査を私に頼んでいましたよね?」


「あ、ああ……そんなこともあったな」


「元々は、彼女の背景を知るための調査でしたが……彼女が逃亡を開始してからも、続けていたんですよ。今回は、その結果を報告しようと思いまして」


 セレスが犯行に及ぶことを恐れて依頼した調査。既に無意味なものと化しているようにも思えるが、千歳がこのような場を設けた理由を察し、雷貴は黙して続きを待った。


「まず、()()先生に協力を要請して、セレスが交換留学をすることになった経緯を改めて調べてみましたが、表向きに発表されている以上の情報は得られませんでした」


 与えられた魔力や使える魔法は、国によって異なるのか。それを学ぶのに適した人材が、セレスだった。大方、そのようなことが語られているのだろう。その点について、雷貴が気にすることはなかった。


「次に、セレスの過去について調べようとしましたが……これが、少し変なんですよ」


「変?」


「イタリアに住む知人に頼んで、セレスを実際に知る人間から話を聞こうとしたんですが、そもそも、そんな人が見当たらないそうなんです。誰に聞いても、知らないの一点張りだとか」


「……そんなことあるか?」


 尋ねる形にこそなっているが、その答えは既に雷貴の中にある。どれだけ内向的な人間だとしても、知人が全くいないなどあるわけがない。


「セレスの所属する高校に問い合わせても、個人情報だから答えられないと言われてしまって」


「それはまあ、仕方ないよな」


「気になって、わかる範囲で彼女の経歴を洗い直してみましたが、なんの問題も見られませんでした。先程の点を考慮しなければ、安心できますが……今は、むしろ怪しく感じられます。何者かが細工しているように思えてなりません」


 いったい誰が、なんのために。雷貴の頭では、それらしき仮説を考えることすらできなかった。


「それから、セレスの逃亡に関することを調査した結果、こちらについても不可解な点を発見しました。まずは、これを」


 そう言って千歳が机の上に出したのは、自身のスマホ。画面には人の写真が映し出されていて、彼女の指の動きに合わせ、何人分ものそれが右から左へと流れていった。

 それらの人々に、雷貴は見覚えがある。


「逃亡してから、セレスが手にかけた人たち、だよな?」


「正確に言うなら、そうだと考えられている人たち、ですかね」


 テレビで報道番組をつければ、必ずと言っていい程セレスの犯行についての情報が流れてくるのだ。嫌でも、その被害者の顔を覚えてしまう。

 正確に数えたことはないが、少なくとも十人はいたはずだ。

 それを全て、あの少女が。

 自分の知っている彼女の姿が、やけに遠くなったように感じられた。


「確かに凄い数だけど、これがどうかしたのか?」


「数以外にも、何か気づきませんか?」


「……ちょっと借りるぞ」


 身を乗り出して千歳のスマホを手元に引き寄せると、雷貴は再度一枚目から見直していく。四、五枚目を過ぎたあたりで、彼ら彼女らにある共通点が存在することに気がついた。


「やたら外国人が多いな」


 容姿だけでは出身を判別することはできないが、写真の人々はいずれも純粋な日本人には見えない。


「ええ。何かあると思って調べようとしましたが……これらの被害者についても、情報は一切出てきませんでした」


「……被害者まで?」


「ええ。唯一わかっているのは、被害者たちの推定出身国が、やけにばらけているということぐらいで」


 セレスの情報を隠蔽している存在が関係しているのだろうか。それなら何故、犯行そのものを揉み消そうとしないのか。限度があると言ってしまえばそれまでだが────どれだけ考えても、納得のいく答えを出せそうにはなかった。


「結局、未だほとんどのことが明らかになっていません。ただ、一つだけ確かなのは、あの子……セレスが、何か『闇』を抱えているということ。それも、不用意につついてはいけない類の」


 千歳はスマホを手繰り寄せ、その画面を暗くする。


「緑間先輩。これ以上セレスを調べるのは危険です。大した成果を上げられていないのに申し訳ないですが、私は調査を打ち切らせてもらいます」


「……ああ、そうだな。そうしてくれ。安全第一だ」


 千歳の身に何かあってはいけない。ただでさえ、彼女の戦闘に対する適性は高いとは言えないのだ。このあたりが引き際だろうと、雷貴は頷く。


「緑間先輩もですよ」


 千歳の言葉に、肩を震わせる雷貴。そんな彼の思考を見透かしたかのように、彼女は続けた。


「法の裁き以外で、彼女に何か危険が迫っているとも考えられますが……私たちの手に負えるとは思えません。自警団に依頼が来るまでは、絶対、独自に彼女の足取りを追おうとしないこと。何に巻き込まれるか、想像もつきませんからね」


「……わかってるよ」


 心配をかけないように微笑みを返してから、雷貴は立ち上がる。忠告を素直に聞けそうもないことに、申し訳なさを感じながら。


「さて、話も終わったことだし、そろそろ帰るとしよう、か────」


 突然耳鳴りに襲われたことで、雷貴は頭を押さえながら再びその場に屈む。連日の疲労が祟ったかと思いながら千歳の方へと視線を向けると、彼女も同様の現象に襲われているらしいとわかった。

 ただの偶然とは思えない。まさか、何者かの魔法を受けているのだろうか。そんなことを考えているうちに、謎の耳鳴りは声へと変化していった。


『全人類に告ぐ』


(この、声は……)


 壮年、あるいは中年といったところだろうか。男性のものと思われるその声を、雷貴は以前にも聞いたことがあった。


『私は、神だ。人間諸君、如何お過ごしかな』


 自称神。この世界に魔力をもたらしたと思われる存在だ。前回同様、魔法によって人々の脳内に直接語りかけているのだろう。


『諸君らに、伝えなければならないことがある』


(今更、どうしたって言うんだ……?)


 苦痛、という程ではないものの、頭が締め付けられるような感覚に襲われる。千歳の様子を確認しつつ、雷貴は続く言葉を待った。


『この世界に広がった、魔力の総量についてだ……この世界の魔力は、百年足らずで消費し尽くしてしまうだろう』


(なんだって?)


 魔力の枯渇。

 魔法学の指導教員を含めた専門家とやらの間では、早くからその問題が議論されていたが、そこまで早いとは誰も想像できていなかった。唯一、『神』の気まぐれでいつ消滅してもおかしくないという意見があったぐらいかと、雷貴は思い出す。

 百年。今生きている人間のほとんどが現世から旅立つ長さだろうが、『人間』という一つの種として見るならば、やはり短いと言わざるを得ない。


『それを防ぐべく、私はある一つの決断を下すことにした』


 決断と聞いて、雷貴は嫌な予感を覚えた。手放しで喜ぶことのできない策を取ることにしたのだろうと、直感で理解したのだ。

 それは、間違っていなかった。


『これより、この世界の総人口のおよそ一割に当たる、七億人の命を用い、魔力増幅の儀式を執り行う』


「七、億……!?」


 思わず、言葉が漏れる。

 無理もない。日本の総人口、その五倍以上の人々が犠牲になると聞いて、冷静でいられる方がおかしいだろう。


『既に選別は完了した。これから先の世界において、生を享受するに値しないと判断した者を中心に、儀式に利用させてもらう』


(ふざけるなよ……!)


 拳を固く握りしめる雷貴。次に『神』から放たれた言葉は、そんな彼の思考を読み取ったかのようなものだった。


『とは言え、納得のいかぬ者もいるだろう。そこで、私は諸君らに試練を与えることにした』


(試練……)


『ここに一つ、約束しよう。私が人間に敗れるようなことがあれば、儀式は断念すると』


(……戦えってことか?)


 相手は、魔力を与えたと思われる存在だ。全人類の総力を結集しても、勝機があるようには思えなかった。

 それでも、やるしかないが。


『だが、私と直接戦う前に、その資格を諸君らが有しているか、試させてもらおう』


 試練のための試練とは、回りくどいことをする。そう考えた雷貴の脳内に、とある景色が流れ込んできた。視界に変化がないにもかかわらず、他の景色も同時に処理が行われている。なんとも奇妙な感覚だ。

 次々と、場面が切り替わっていく。五つ目を映した後、脳内の景色は途絶えた。

 全て違う場所の景色だったが、共通しているものが、一つ。

 城のようなものが、空高くに浮かんでいた。


『今、各国に五つずつ、空に浮かびし城、()(ゆう)(じょう)を出現させた。各城に一人、私が誇りし精鋭を配置している。その五人を打ち破った国にのみ、私と戦う資格を与えよう』


 先程の景色は、日本国内の『浮遊城』を映していた、ということか。恐らく、他国の人間には他国の浮遊城が映されていたのだろう。

 一人一人に念話を送るだけでなく、異なる景色までその脳内に映し出す────膨大な魔力量と、優れた処理能力がなければ成し得ないことだ。

 そんな存在に与する精鋭を五人、倒さなければならない。


『詳細は、魔法学の指導教員から聞くがいい。私はこれにて失礼させてもらおう。諸君らの健闘を、祈っている』


 その言葉に重なる形で再び耳鳴りが発生し、やがて消えた。

 直後、スマホの通知音が二回鳴り響く。どうやら、二人のものがそれぞれ鳴ったらしい。

 雷貴が取り出したそれに映し出されていたのは、ちょうど彼が連絡を取ろうと思っていた相手の名前と、メッセージ。


『今すぐ、鋭才学園の家庭科準備室まで来てもらえる?』


(……わかりました、っと)


 雷貴は手短に返事を済ませ、ポケットへとスマホをしまう。それから立ち上がり、千歳に視線を向けた。


「千歳、大丈夫か?」


「ええ、なんとか……」


「それじゃあ、行こう。宇治先生が待ってる」


 襖へと歩き出した雷貴だが、肩を掴まれたことでその足を止める。


「どうしたんだ?」


「それはこっちの台詞ですよ。どういう意味です? 宇治先生が待ってるって……」


「宇治先生からメッセージが来たろ? 学校まで来てくれって」


「……私には、来てませんよ」


「え?」


 なら、先程の通知音はなんだったのか。そんな疑問を雷貴が言葉にする前に、千歳は再び自身のスマホを見せてきた。


『混乱してるだろうけど、とりあえず自宅待機で』


「どういうことだ……?」


 送信者は『宇治(とも)()』となっている。だが、肝心のメッセージは雷貴に送られたそれとは異なるものだった。


「緑間先輩が向かうなら、私も一緒に行きます。指示に背くのは気が乗りませんが……確認したい気持ちの方が強いので」


「……わかった。じゃあ、行こう」


 他の自警団員はどうなのか気になったが、それは朋世に聞けばわかることだ。今は一刻も早く彼女のもとへ向かわなければと思いながら、雷貴は千歳と共に料亭を後にするのだった。

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