表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロと黒歴史:補完篇  作者: ムツナツキ
第六章『色彩と黒歴史──弐──』
69/121

第69話「稽古」

「どうして俺はこんな所にいるんだ……?」


 青天の空を見上げながら呟く、黒髪赤眼の青年、(ふじ)(さき)クロ。彼は現在、(えい)(さい)学園の運動場に立っていた。


「ごめんね、クロさん。面倒なこと頼んじゃって」


 人差し指で頬を掻きながら、(らい)()は苦笑を浮かべる。

 五月中旬。定期試験一日目を終えたばかりだというのに、勉学に励むこともなく彼はこうしてクロと向かい合っていた。


「まあ、雷貴には世話になってるし、その借りを返せるってんなら俺も願ったりなんだけど……まさか、手合わせの相手を頼まれることになるとは」


 心置きなく、魔法を使ってみたい。可能なら、対人戦で。

 そう(とも)()に申し出たのが、一ヶ月程前のこと。彼女本人が稽古をつけてくれるか、あるいは魔法でどうにかするものと思っていた。そのため、クロの名前が挙がったときには雷貴も驚いたものだ。


「俺以外にももっと適任がいただろうに……」


「ほら、クロさん魔法のセンスいいらしいし。()()先生も、そっちの指導教員も、クロさんの腕を買ってくれたってことなんじゃないかな」


「買い被りすぎだっつうの……まあでも、たまには先輩らしいことしねえとな」


 後頭部を掻くクロ。腕を下ろしたその瞬間、彼の放つ雰囲気は一変した。


「全力で来いよ。しっかり受け止めてやる」


 かつてない程に引き締まったその表情に、先程まで感じられていたはずの気怠げな印象は一切残っていない。歴戦の勇士さながらだった。


「……よろしくお願いします!」


 一礼してから、雷貴も構える。集中し、魔力を高め、その時に備えた。


「いつでもいいぜ」


「じゃあ……行きます!」


 雷貴は手を突き出し、そこから雷を放出する。これまで威力を抑えていたことが災いして、最初から全力で撃つことはできなかった。

 それでも尚、微弱とは呼べない。人の命を奪うには充分すぎる程に、苛烈な勢いを有している。


「『タテ』」


 クロの呟き。直後、その前方に黒い壁のようなものが出現した。

 彼の魔法によるものだろう。それは雷が衝突しても亀裂すら入らず、変わらず空中に浮遊し続けていた。


「マジ……?」


 相殺程度は可能だろうと考えていたため、雷貴は目を丸くする。ただ、壁の向こうから飛び出すクロの姿を確認したことで、すぐに意識を相手へと戻した。

 距離を詰めようとする相手の動きは、直線的。素早いが、目で追えない程ではない。狙いを定める余裕は充分にあった。


「今度こそ……!」


 手で拳銃の形を作り、人差し指から雷を放出する。

 先程よりも範囲は縮小されているが、その分、速度は申し分ない。防御も回避もさせずに命中させられるはずだと、雷貴は期待していた。

 だが、クロは顔を歪めることもなく、容易にその緑色の閃光を回避する。


「なっ……」


 飛来する雷に接近しながらそれを躱すなど、常人の身体能力では不可能だ。それを覆す魔法も存在するのだろうが、ここまで簡単に自身の攻撃を躱されるとは想像もしていなかったため、雷貴は驚愕した。

 その隙を突くかのように、開いていた距離をクロが一瞬で詰める。気づけば、その拳は目と鼻の先にまで迫っていた。


「あっぶな!」


 咄嗟に自身の腕で弾き、軌道を逸らす。

 だが、それだけで終わらせてくれるはずもない。クロは次々と拳を繰り出し、雷貴の反撃を封じ込めていた。


(くっそ……全然隙がない……)


 クロの動きには、無駄がない。絶えず変化する最適解を瞬間的に弾き出し、そのとおりに体を動かしているかのようだった。

 一朝一夕で身につけられるものではないだろう。いったい、彼はいつどこで、ここまでの────


「魔法をぶちかましたいんじゃねえのか?」


 煽るように、クロが告げる。だが、その表情は真剣そのもの。どうやら、発破をかけるための言葉らしい。

 そう気づいた雷貴は、この状況を切り抜けるべく考えを巡らせる。それでも、余裕がないためただ防御に徹するしかできなかった。


「こんなときにやるとしたら……」


 殴打の最中、クロの魔力反応が強まっていく。何か仕掛けられるとわかってはいたが、雷貴は対抗手段を立てることができない。


「こうだ!」


 直後、衝撃と轟音が雷貴の身を襲う。爆発に巻き込まれたのだと理解したのは、宙を舞ったことで何度か地に叩きつけられてからだった。

 痛みに悶えながら、視線を上げる。視界はぼやけていたが、舞い上がった土煙の向こうから人影が近づいているのは理解できた。


「接近されたら、魔力を全方位に放つ。属性の関係上、今みたいな爆発はできないだろうけど……それでも、雷貴の魔法なら充分な威力が出せると思うぞ」


 再び現れたクロに、戦意は見られない。既に雷貴が戦える状態にないことを、一目で見抜いたのだろう。


「完敗だな……」


 雷貴は立ち上がり、服についた土や埃を払う。全身が痛むが、動けない程ではないのは、手心を加えてもらえたからということなのだろうか。


「いや、充分だろ。相性とかもあるだろうし」


「それはあまり関係ない気もするけど……そういえば、クロさんはどうやってそこまで強くなったの?」


 クロの表情が、強張る。何か、聞かれたくないことを聞かれたかのような、そんな反応だった。


「……ほら、あれだよ。昔見たアニメの知識を引っ張り出して、色々と頑張ってたら、こうなった」


 目を逸らしながら、クロがそう答える。真実を明かしているとは思い難い。だが、雷貴はとりあえず追及しないことに決めた。


「アニメ、好きなんだっけ」


 確か、距離を縮めるに至ったきっかけも、サブカル方面の話題だったか。クロと出会ったばかりのことを思い出しながら、雷貴はそう返した。


「……最近はもう見てないけどな。飽きちまったし、暇もないし」


「まあ、忙しいもんね。お互いに」


 鋭才自警団でも人数不足が祟り、一人当たりの活動時間が平均の倍近くを推移している。アルバイトすら、控えなければならない程だ。

 それでも、一度やると決めた以上は投げ出すわけにはいかない。人員の補充は自分では解決できそうもなかったが、その分、やれることをやる必要がある。

 自らの実力を思い知らされたばかりだからこそ、雷貴は高みを目指すことにした。


「アニメの知識でもいいからさ、俺が強くなるためにできそうなこととか、必要なこと、教えてくれないかな」


「うーん……俺とは属性が違うから、あまり的確なことは言えないけど……雷属性の魔法は、何も雷を出すだけじゃないと思うぞ」


「と言うと?」


「神経伝達の電気信号うんぬんかんぬんを、雷属性の魔法でどうたらこうたらして……」


 ひどく曖昧な説明。話しているクロ自身、よく理解できてはいないようだ。


「まあ、細かいことは俺も覚えてないんだけど、上手く使えば、瞬発力が大幅に上がるはずだ」


「へえ……」


 返事こそ短くなってしまったが、かなり興味を引かれる内容だった。

 瞬発力が上昇すれば、先のような接近戦で優位に立ち回ることができる。それ以外にも、不意打ちが可能になるなど利点は多い。ぜひとも習得したい魔法だ。


「ねえクロさん。それっぽい戦い方がありそうなアニメ、いくつか教えてくれない? 俺もアニメは好きだけど、そこまで詳しくなくてさ」


「……昔ので良ければな」


「やった。ありがとう」


 そう告げると、クロは顔を逸らしてしまった。素っ気ない態度にも思えるが、ただの照れ隠しであることを雷貴は知っている。


「そろそろ帰ろうぜ。無理しても良くないし、それに明日も試験だろ?」


「ああ、そうだった……思い出したくないこと思い出しちゃった……」


「雷貴、勉強苦手だったか?」


「苦手じゃないけど、好きってわけでもないよ」


 中等部時代から学年上位を維持している程度には、雷貴は成績優秀だ。だがそれは人並み以上に努力を重ねた結果であって、彼は俗に言う天才の部類では決してない。故に、勉強を好きになれるはずもなかった。


「そういうクロさんは、試験いつなの?」


「俺は来週……ああ、俺まで憂鬱になってきた」


 わざとらしく、クロが肩を落とす。百戦錬磨の猛者のような雰囲気はとうに消えていて、いつもどおりの彼がそこにはいた。

 その落差が妙に面白く感じられ、雷貴は自然と笑みを浮かべる。


「お互い、頑張ろうね」


「……色々とな」


 雷貴が突き出した拳に、クロのそれがぶつけられた。彼の口角もまた、僅かに上がっている。

 先輩兼後輩。奇妙な関係だが、悪くはない。この関係が長く長く続いていけばいいと思いながら、雷貴は帰路に就いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ