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クロと黒歴史:補完篇  作者: ムツナツキ
第九章『色彩と黒歴史──伍──』
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第115話「不死鳥」

 (ふう)()が負っていたはずの傷は完全に癒えていて、残り僅かだった魔力も回復している。それどころか、元々有している総量を上回っていた。


『……もしそんなのがいるとしたら』


 鼻で笑った後、メイコが口を開く。動揺しつつも、自身が取るべき行動を見誤ってはいないようだった。


『それはアタシのことだろうね!』


 中断されていた火球とぬいぐるみによる攻撃が、再開される。今まで躱すしかなかったそれらを見ても慌てることなく、風太は羽ばたいて空中へと飛び立った。


『何? 大層なもん引っ提げておいて、結局は逃げ回ることしかできないわけ?』


「……少し慣らそうと思っただけさ。でも、お望みなら反撃に移るとしようかな」


 風太は振り返り、炎の翼を振るう。たったそれだけで、彼を追尾していた全ての火球が消滅した。


『なっ……!?』


「『(あか)()()』」


 翼から、火の粉が地上に降り注ぐ。それらは的確にぬいぐるみを貫き、一瞬で灰へと化した。


『あんまり調子に乗らないでよね!』


 メイコ本体から、黒光りする五つの尻尾が分離する。そして、火球と同様に風太へと飛来した。


「『朱の羽根』」


 風太は飛行を再開しつつ、迫っていた尻尾の一つに向けて火の粉を放つ。確かに命中させて焼き尽くすことができたが、直後、予想外の出来事に襲われた。


「およ?」


 翼が、消滅してしまったのだ。準備などしているはずもなく、風太の体は自由落下を始める。


『土壇場の逆転は主人公の特権でしょ!』


 どうやら、メイコの魔法による現象らしい。魔力自体が消えたわけではないことから、恐らくは魔法を封じる類のものだろうと推測できた。


「……でも、こうとも言うだろう?」


 逆転の芽を摘まれたはずだが、風太は狼狽えない。微笑みを浮かべながら、彼は言葉を続けた。


「正義は必ず勝つ、ってね」


 再び、風太の背に翼が顕現する。先程のものとは異なる、翡翠の翼が。


『そんな不死鳥がいてたまるか!』


「幻覚使いの割に頭固いんじゃない? もっと柔軟にいこうよ」


 そう返しながら、風太はメイコへの接近を試みる。尻尾の破壊が先の魔法を誘発することは既に理解できていたため、本体だけを狙うことにした。


「『(みどり)()()』」


 火の粉を連続してメイコに直撃させる。だが、彼女の本体が燃え上がることはなかった。


(先に尻尾を潰さないと、決定打にはならない感じかな……そうだとしたら厄介だ)


 仕方なく、尻尾へと照準を修正する。四つ残っているそれらは尚も風太を狙っていたため、苦労せずに攻撃を与えられそうだった。


「『翠の羽根』」


 また一つ、尻尾を破壊する。それと同時に、翡翠の翼も消滅した。


(()()先生……力を貸してください)


 風太が宿している火属性の魔力は、火野(あおい)から分け与えられたものだ。故に、彼が得意としていた力を使えてもおかしくはないはずだが、風太は未だにその高みへと至れていない。

 ただ、この空間なら、あるいは。その希望を、彼は現実へと引き寄せることに成功する。

 落下していた彼の背に、今度は群青の翼が顕現した。


『これは……そうか、君の魔力は、あの男から……』


「『(あお)()()』」


 何かに納得した様子のメイコを他所に、風太は三つ目の尻尾を破壊する。目指していた力を行使できた事実に感動を覚える暇もなく、三度翼が消滅した。


『今度こそ……』


「まだだよ」


 今、風太が使える魔力の種類は三つだけではない。彼がどのようにして限界を超えた力を引き出しているかに着目すれば、四つ目の選択肢を想像することは難しくないだろう。

 次に顕現したのは、闇を連想させるような漆黒の羽根だった。


『これは、アタシの……!?』


「正解」


 続けて尻尾を破壊しようとしたが、間一髪で躱されてしまう。

 どうやら、静観しているのは悪手だと判断したらしい。メイコは自らの分身を二つ作り出し、風太のもとへと向かわせた。


(強い敵って、わけもなく分身作れたりするよね……いや、彼女の場合は納得できるけど……)


 そんなことを考える余裕がある程度には、風太は落ち着いている。分身による突進や火球を躱しつつ、羽ばたきや火の粉で着実に処理していった。


「『(くろ)()()』」


 さほど時間をかけずに、四つ目の尻尾を破壊する。これで、残りは一つ。


『今度こそ……!』


 風太自身の魔力も、与えられたものも、この場にあるものも、全て使い切った。だが、メイコの期待に応えるわけにはいかない。

 ある少女の姿を脳裏に思い浮かべながら、彼は黄金の翼を顕現させた。


『ご都合主義にも程があるでしょ……』


 メイコがそう不満を漏らすのも、無理はない。風太自身、この力には驚いているのだから。

 三種の神器、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を入手した際、前の所有者だった(かね)()さりの魔力が、僅かに流れ込んだ────そう思い込むことで五つ目の翼を作り出したのだが、まさかここまで上手くいくとは彼も思っていなかったのだ。


(ありがとう、さりちゃん)


 この場にはいない彼女に感謝しつつ、風太は新たに現れた分身を即座に消滅させる。数多の妨害を受けながらも、逃げ惑う最後の尻尾へと接近した。


「『(きん)()()』」


 これで、全ての尻尾が消滅する。この空間に残っているのは、風太と、メイコの本体だけだ。


『……まさか、ここまでやれるとはね。でも、さすがにもう厳しいんじゃない?』


 メイコの読みは正しい。どれ程屁理屈を並べようと、風太が他に使える魔力など存在しなかった。

 だが、ここまで来て諦めるわけにはいかない。存在しないのならば、新たに生み出してしまえばいいと────風太は虹色の翼を顕現させた。

 五種類の魔力を混ぜ合わせた、眩い輝き。

 これが、正真正銘、最後の翼だ。


『な、なんで……? ここは、アタシの世界だよ……? アタシの、アタシだけの……』


「ごめんね、嫌な思いをさせて。でも、僕も負けるわけにはいかないんだ」


 メイコを見下ろしながら、風太は魔力を高めていく。それに倣って、翼も輝きを増しながら広がっていった。


『こんなこと……あってたまるかああっ!』


 狐を模したメイコの本体。その口から、紫色の炎が放出される。その一撃には、空間を破壊しかねない程の魔力が込められていた。

 ここまで戦闘の流れを掌握していた自分でも、油断をすれば容易に押し負ける。そう理解した風太は、全身全霊で迎え撃つことにした。

 虹色の炎を纏い、更に増幅させていく。上空で揺らめくそれは、さながら不死鳥のようだった。

 そして、迫る相手の炎に、彼もまた向かっていく。


「『()()(ちょう)(こう)(りん)()』」


 不死鳥と狐による、炎のせめぎ合い。空間を焼き尽くす程の熱が、両者を襲う。

 互角に思われたが、風太が徐々に相手の炎を押し返していった。一度崩れた均衡が戻ることはなく、次第に二人の距離が詰められていく。

 そしてついに、その嘴がメイコの本体に風穴を開けた。


「がはっ……!」


 負傷によってか、メイコの姿が人間のそれへと戻る。ただ、狐の状態で受けた傷がそのまま残るわけではないらしく、彼女は吐血しながらも五体満足でそこに立っていた。


「……君、わざと急所を外したでしょ」


「そんな余裕はなかったよ」


 風太は振り返り、メイコと目を合わせる。

 全身傷だらけの彼女に対して、彼は無傷だ。だが、余裕があったわけではない。その証拠として、翼は消滅してしまっている。維持できるだけの魔力が、残っていないことの表れだ。


「ははっ、食えない奴だね、本当に……まあ、なんにせよ、アタシはここまでだけど」


 そう語るメイコの体が、黒い粒子へと変化していく。それを自覚しているはずだが、彼女は何故か笑みを浮かべていた。


「敗北した時点で『あのお方』に還元されるよう、魔法を発動しておいたからね……君がアタシを気遣ってたところで、なんの意味もないってわけ……ああ、そうだ。アタシが消えたら君もここから脱出できるから、心配しなくていいよ」


「『あのお方』って、いったい……」


 風太の問いかけに対し、メイコは血を吐き出しながら笑う。


「それは、君の大好きな、『お友達』に聞いてみなよ」


 メイコの、不気味な笑い声。それは彼女が消滅した後も残り、空間が崩壊するまで響き続けた。

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