6「仲間」
一瞬、何が起きたか分からず、唖然としたルドは――
――数瞬遅れて、頬に手を触れる。
叩かれたのだ。ラリサに。
ダメージは全くない。
むしろ、〝硬化を解いていない〟ルドの頬を平手で打ったラリサの方が、痛みがあるはずだ。
――が。
「何でそんな事したの!? 私のため!? そのために、わざと危険な目に遭ったの!? そんな事されても、嬉しくないよ!」
目に涙を浮かべ感情を爆発させるラリサの声に、痛みを感じないはずの頬に、鋭い痛みが走る。
「そりゃ、ルド君は滅茶苦茶強いよ! 分かってる! どれだけ強いモンスターに襲われたって、へっちゃらなのかもしれない! でもね、ルド君が言ったんだよ! 〝女神さまが言っていた大切なことを思い出せない〟って!」
(あ……)
「もし、ルド君が女神さまから貰った力が、何かしらの〝条件付き〟のもので、〝ある一定回数使ったら使えなくなる〟とか、〝ある条件下では能力が弱まる〟とか、そういうのだったら、どうするの!?」
零れる雫もそのままに、ラリサは激情をぶつける。
確かに、その可能性は否定出来なかった。
だが、不思議と、ルドは、〝そんな事はない〟という確信があった。
この力には、そんな条件は付いていないし、そんな事で無くなったり弱まったりする事もない。
しかし、問題はそこではないという事は、女心に疎いルドでも、流石に分かった。
嘘をついた事。
そして、〝自分を犠牲にする事で、ラリサの能力を開花させようとした事〟が、彼女を怒らせ、悲しませた原因だ。
気付くと――
「嘘をついて悪かった……」
――ルドは、頭を下げていた。
「それと、心配させた事も、謝る……。どうすればお前の能力を開花させられるかという、その点しか考えていなくて……俺の行動を見て、お前がどんな気持ちになるかという所に、全く思い至らなかった……」
素直に謝るルドに、ラリサは、涙を拭うと――
「これからはもう、こんな事はしないって約束してくれる?」
「ああ、約束する。二度とこんな事はしない」
――顔を上げ、強く頷くルドに――
「分かった! じゃあ、約束ね!」
――明るく念を押すと――
「改めて、ルド君ありがとう! ルド君のおかげで、初めて氷魔法をちゃんと使えたよ!」
――満面の笑みを浮かべた。
こうして、モンスターに攻撃が出来るようになったラリサは、冒険者ギルドの謝礼をルドと折半するようになり、名実ともに、冒険者パーティーの仲間となったのだった。