61「外界」
森羅万象全てを斬る魔剣〝バルヴィング〟による一閃。
万感の思いを込めて、その赤き刀身を結界に叩き付けたハルドレは――
「あぁ……ぁ……!」
――声にならない声を上げた。
嗚咽と共に、その頬を滴が伝う。
二千年間もの間、巨大樹と外界を分断していた結界が切断されて。
光る扉が、開かれて。
外に見えるのは――
「……これが……〝世界〟なんだね……」
――抜けるような青空だった。
魔剣を手にしたまま、フラフラと外界に――〝世界〟へと足を踏み出したハルドレが、溢れる涙もそのままに、つぶやく。
頬を撫でる風が、温かく、優しい。
降り注ぐ太陽光は、三百年間ハルドレが浴びてきた〝茸の光〟とは全く違った。
力強く、生命力に満ち溢れた光。
どこまでも続く青空は、その果てに想いを巡らすだけで、気が遠くなりそうになる。
その雄大さは、町を丸ごと一個内包出来る程の巨大樹ですら、比較にならない。
「どうだ、ハルドレ。〝外の世界〟は?」
ルドの問いに、振り返ったハルドレは、涙を拭いながら答える。
「……言葉にならない……最高だよ……ありがとう……」
満面の笑みを浮かべる彼女につられて、ラリサ、マリリナ、そしてケイティも笑顔になる。
「良かったわ……」
「ハッ! 憑き物が落ちたみたいな顔して! 斬って良かったな!」
「これで美味しいご飯のお礼は出来たの!」
ハルドレが再び背を向けて、目を閉じる。
海岸沿いであることから、潮風だが、その湿気は、巨大樹内のひんやりとした空気とは全く別物だ。
目を見開いたハルドレが、希望に満ちた表情を浮かべる。
「……僕は、この〝世界〟をもっと知りたい! そして、今までずっと独りぼっちだったから出来なかった夢を――子どもを作りたい!」
そう告げた直後。
「何か来るまお!」
――ルドに肩車されたマオコが、突然鋭い声を上げた――
――次の瞬間――
「がはっ!」
「「「「!?」」」」
――ハルドレの身体に、無数の氷柱が突き刺さった。




