59「二千年前に何が起こったか(4)」
「その後。エルフ族は、緩やかに滅びの道を辿って行った」
今度は感情を押し殺した声で、ハルドレが呟く。
族長がエルフたちをこの巨大な檻に閉じ込めた理由。
それは、〝エルフの血が他種族と交わる事〟を極端に嫌っていたからだ。
彼は、長命種であるが故に子どもが出来にくいエルフが、生き残りの数の少なさから、危機感を持ち、他種族と交わろうとするのではないかと恐れた。
それ故、その時点で既に両の手で数えられる程に数を減らしていた彼ら彼女らを、族長は外部から完全に遮断した。
※―※―※
超巨大光線から生き残った九名のエルフの内、既に五百歳と高齢だった族長が、数年後に死んだ(が、〝結界〟は、彼の膨大な魔力を注ぎ込んで為されたもので、その後も残り続けた)。
実は、九名の中に、二千五百年前に魔剣〝バルヴィング〟を創ったドワーフとモンスターのハーフである男性と、モンスターであるダークエルフとエルフのハーフである女性の子孫――孫がいた。
ちなみに、その祖父母――ハーフドワーフとハーフエルフたちに子どもが出来た際に、その子どものために、〝運命を切り拓く事が出来るように〟と、ハーフドワーフの男が全生命力を注ぎ込んで、命懸けで剣を創り上げて、その刀身に対して、ハーフダークエルフが同様に全魔力を注入して、同じく生命を賭して魔法を掛けて創った一振り――それが〝バルヴィング〟だった。
そして、〝バルヴィング〟の作成者、それが――
「どうやら、僕の八代前の御先祖様が、ハーフドワーフとハーフエルフだったらしくてさ」
――ハルドレの八代前の祖先だった。
「しかも、どちらもモンスターとのハーフだったらしくて。でも、それがバレてさ。この巨大樹の中で暮らし始めた当時の族長は、僕の六代前の御先祖様にモンスターとドワーフの血が流れている事に気付いていて、御先祖様と他のエルフが子どもを作る事を固く禁じたんだ。でも、その族長が数年後に死んでからは、誰も咎める者がいなくなって、他のエルフと子作りする事が出来て、そのまま僕へと命が受け継がれて行ったんだ」
今現在ルドが対峙するハルドレは、純血エルフにしか見えない。
恐らく、八代も前の話であり、そこからはずっと純血エルフと子どもを作ってきた事もあって、今ではモンスターとドワーフの血はすっかり薄れてしまった、という事だろう。
「六代前の御先祖様から、五代前、四代前、と、時代が進むにつれて、エルフたちは一人、また一人と、数を減らしていった。一度極端に数が少なくなってしまった事が、子どもが出来にくいエルフによっては、やはり致命的だったんだ」
少し落ち着きを取り戻したハルドレが、話を続ける。
「そして、僕が生まれた。それからもまた、エルフの数は減っていってね。ただ、百年前くらいまでは、もう一人、男性のエルフが生き残っていたんだけどね。別に好きでは無かったけど、嫌いでもなかったから、エルフが滅びないためにって言うなら、僕は彼と子作りするのは、全然大丈夫だったんだけど。でも、代々族長を担ってきた一族の末裔である彼は、彼の父親や祖父とは違って、この巨大樹内での初代族長と同じように、僕にエルフ以外の種族の血が流れている事が嫌だったらしくて、僕との子作りを拒否して、そのまま死んでいったんだ」
寂しさと悲しさが綯い交ぜになったかのような、複雑な表情を浮かべるハルドレ。
ルドは、ポツリと聞いた。
「外に出たいか?」
その問いに、目をパチクリした後、ハルドレは苦笑する。
「そりゃ出たいさ。僕は生まれてこの方、ずっとこの巨大樹の中で生きて来た。世界はもっと広いんだって言うのは、知識としては知っていても、実際に目にした事は無い。出来れば、死ぬまでに外の世界を見てみたい。そして、可能なら……他の種族と恋に落ちて、子どもを作りたい。子孫を残したいんだ」
どこか遠くを見詰めるようにして、ハルドレは、まだ見ぬ未知の世界へと想いを馳せた。
が、頭を振る。
「でも、無理なんだ。この結界がある限りはね。御先祖様たちから聞いた話も含めて、この二千年で外からやって来たのは、君たちが初めてで、ビックリしたけどさ。でも、この結界は、元々、外敵から守るためでは無くて、エルフを外に逃がさないためのものだからね。君たちがどれだけ強かろうが、この結界を破壊する事は不可能だよ。あ、でも心配しないでね。この結界がその効果を最大限に発揮するのはエルフに対してのみで、エルフじゃない君たちは〝鍵〟があった出入口から、また出て行けると思うから。君たちが出ていったら、間も無く、自動的にまた〝鍵〟が掛かるようになっていると思うから」
「一緒に出ていくのは無理なんですか?」
問い掛けるラリサを、ハルドレは悲しみを湛えた瞳で見る。
「自分で言うのも何だけど、僕は結構魔法の才能があってね。回復魔法以外なら、大抵は扱えるんだ。でね、君たちがやって来た光の扉の場所も既に特定して、無理矢理〝開ける〟所までは辿り着いたんだよ。でも――出れなかった。恐る恐る、幹に開いた〝光り輝く穴〟に手を突っ込もうとしたら――弾かれたんだよ。恐らく、想像を超える程の強力な魔法障壁に、最上級雷魔法による雷撃が張り巡らされていたんだろうね。それも、〝エルフ限定〟で反応するように」
「そっかぁ……良い案だと思ったんだけどな……」
ラリサが肩を落とす。
そんな彼女たちのやり取りの間も、ずっと――
「………………」
――魔剣〝バルヴィング〟の声は聞こえない。
(きっと、ショックを受けているんだろうな。自分の故郷が消滅したのみならず、自分を創ってくれたエルフ族が、緩やかに、しかし着実に、滅びの運命を辿って来たんだから)
(※諸事情により、これ以上の更新が難しくなってしまいました。大変申し訳ありません)




