54「巨大樹(前)」
空を〝緑〟が侵食し――
雲を貫き、天を穿つ――
余りの雄大さに、その壮大さに、〝木〟の概念が壊れそうになる。
これに比べれば、〝ローズベネット帝国の帝都キンティス北側の城壁〟の方が、まだ可愛く思える。
首が痛くなる程の角度で見上げて、ただただ遥か高空へと伸びる巨大樹に圧倒され、一同が静まり返る中――
「あ!」
――口を開いたのは、ケイティだった。
「そう言えば、本に書いてあったの! 二千年前まで、この辺りにすっごく大きな木が生えてたって!」
その書物によると、二千年前、その大木は雷で焼失したとの事だった。
実際には、この通り、無くなってはおらず、その半分が海岸線に沿う形で削られている訳だが――
(雷、か……)
ルドが訝しむ。
通常の雷の何倍もの威力があるクレアの『神の鉄槌』でさえ、このような光景を作り出すのは不可能だ。
巨大樹は、その高さも然る事ながら、横幅も異常に広く、町を丸ごと一個内包出来る程の大きさを有している。
そんな巨大樹の半身をどうやって奪ったと言うのだろう。
まるで、途方もなく大きな巨人が、人智を超えた大きさのスコップで、強引に削り取ったかのような――
(いや、流石に妄想が過ぎるな)
ともあれ、切り立った断崖の上に聳え立つ巨大樹は、恐らく元々は、ただの町どころではなく、この世界に於いて最大規模の都である王都や帝都と同じくらいの大きさであったであろう。
そして、その余りにも太い幹を、〝何らかの圧倒的な力〟によって半分ほど丸く抉り取られた巨大樹だが、そんな状態でも、未だに枯れずに雄々しく聳え立っている。
陸地側の上部には、豊かな緑が生い茂る。
また、海岸線沿いを少し歩いて、離れた位置から見てみると、海側には、分厚い幹の茶色い切断面が見える。
巨大樹の近くへと戻って来ると――
「ドアがあるまお!」
ルドに肩車されたマオコが、巨大樹の幹を指差した。
一見すると、何も無いが――
(いや、確かにある……)
感知魔法を使ったルドが、そう思考していると。
「きっと中に食い物があるまお!」
――マオコは、制止する間も無く、自身の小さな黒翼でパタパタと飛んでいってしまい――
「食い物、寄越せまお!」
マオコが幹の一部に触れると、そこに光り輝く扉が出現――
――すると同時に――
シュルシュルシュルシュル。
「まお!?」
「「「!」」」
――巨大樹から蔓が伸びて来て、マオコの全身に巻き付きながら上空へと持ち上げ、捕縛した。




