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50「怪しい幼女(前)」

「あ、また来やがったなクソガキ! こら、肉から離れろ!」

「まおっ!」


 いかつい店主が幼女の首根っこをむんずと掴み、天井からぶら下がっている羊肉マトンから引き剥がして、店の前へと放り投げる。


「ぶべっ!」


 顔面から落下した幼女は、すかさず立ち上がり、鼻血を垂らしながら「何するまお!」と抗議するが、「それはこっちの台詞だ! 懲りずに盗みに来やがって!」と、腕捲りして筋肉質な腕を剝き出しにした店主が、店の外へと出てくると、指をボキボキと鳴らしながら近付いて来る。


「まおーはっはっは~! 愚かな人間どもからこの()()()()へと、食料を献上させてやろうとしただけまお! むしろ、献上品がこのマオコ様の一部となれる事を有難く思うまお!」

「何意味分かんねぇ事言ってんだ、この()()泥棒クソガキ!」


 そのやり取りを無言で見守っていたルドだったが――

 

「ルド、何かやばそうなの! どうするの!?」

「………………」


 ――幼女マオコに対して、密かに横から手を翳すと――


「――――ッ!」


 ――瞠目して――

 ――次の瞬間――


「どうか落ち着いてくれ、店主」

「あ? 何だてめぇ? 邪魔すんじゃねぇよ!」

 

 ――二人の間に入って、止めようとした。


 突然現れた少年に対して、明らかに気分を害された様子の店主だったが――


「まぁまぁ、相手はまだ幼い。それくらいにしてやってはどうだ?」

「…………ふ~ん」


 ――ルドが、さり気無く店主の手に()()()()()()()()()()()そう呟くと――


「……しょうがねぇな。ま、兄ちゃんに免じて見逃してやる。だが、今回だけだからな、クソガキ」


 手中を確認した店主は、一応怒りは収まったらしく、最後にマオコを一瞥した後、店の中へと戻って行った。


「まおーはっはっは~! 所詮は矮小な人間まお! このマオコ様に恐れをなして逃げて行ったまお!」


 この場にいる誰よりも〝矮小〟なマオコが、薄い胸を張って、高笑いした。


 ――直後。


「きゃああああああああ! 可愛いいいいいいいいいい!」

「むぎゅっ!?」


 ――ラリサが屈み、マオコを思い切り抱き締めた。


「な、何するまお!? 離すま――」

「可愛い可愛い可愛い可愛いいいいいいいいいい!」

「もがっ!」


 ――藻掻くマオコだったが、体格の差は歴然。

 ラリサの腕の中から逃れる術はなく――


「おい、ソイツ白目剥いてるぞ」

「きゃああああああああ! ごめんねマオちゃん! 大丈夫!? しっかりしてえええええええ!」


 ――圧迫と酸欠で、マオコは白目を剥き、泡を吹いていた。


(今まで全くそういう素振りを見せなかったが、可愛いものには目が無いのか?)

(まぁ、末っ子で妹も弟もおらず、兄二人が血も涙もない奴らだったから、その反動かもしれないが……)

(それにしても、美幼女の可愛さにメロメロになり過ぎだろ)


「『セイクリッドヒール』!」

「ふぅ、死ぬかと思ったまお!」


 ケイティの最上級回復魔法で一命を取り留めたマオコは、口許を拭う。


「このマオコ様の尊い命を救った事、褒めて遣わすまお! まおーはっはっは~!」

「そりゃどうもなの」


 尋常では無い膂力を誇るマリリナならともかく、身体能力としてはごく平均的であるラリサに腕力で到底敵わないマオコだが――


(こんな言動をしているが……)

(名前が名前だし)

(喋り方も喋り方だし)


 ――()()()という名前に、語尾が〝()()〟であり――


(見た目が見た目だし)


 ――緑色セミロングヘアの彼女は、褐色の肌を漆黒の服で包んだ、吊り目美幼女で、血のように赤い目をしており、角・牙が二本ずつあり、耳は尖り、背中には一対の黒翼、そして尻尾まである。


 その背丈は幼稚園児程度しかなく、〝モンスターのコスプレをしている幼女〟にしか見えないが――


(さっき、()()()()()()()()()()からな、コイツ……)


 ――何より、〝無力ですよ〟〝人畜無害ですよ〟と言わんばかりの言動に反して、先刻ルドの魔法を容赦なく弾いていたのだ。


 しかも――


(何度も繰り返し人間の国々に対してモンスターの軍勢を嗾けて来ていたにも拘らず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(仮に、魔王に()()あって、急激に若返ると同時に、記憶を失い、空間転移魔法または空間転移魔法陣等で人間の国に飛ばされて、一人彷徨っているとしたら……?)


 ――ルドの推測が正しかった場合、〝最悪の相手〟と遭遇した事になる。


 そう。

 先程ルドが金の力に物を言わせて店主を丸め込んだのは、〝マオコのため〟ではなく、〝店主――とこの町にいる人間たちを守るため〟だった。


(出来れば、今すぐにでも殺した方が良い)


 ――ルドは、その双眸に冷たい殺意を宿した。

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