48「理性と感情」
その後。
ルドたちは冒険者ギルドに行き、ケイティが冒険者――僧侶として登録した。
そして、そこから数日間掛けて、Aランクダンジョンに何度も潜り、クエストと依頼をこなす事で、金を貯めた。
全ては――
「じゃじゃ~ん!」
「……え? これ、何なの?」
「俺たち三人からのプレゼントだ」
「受け取れ。あたしの魔剣の次に良い装備だ」
「! ……ありがとうなの!」
――ケイティのために銀杖とローブを贈るためだった。
四人で四等分した冒険者ギルドの謝礼の内、ルド・ラリサ・マリリナが金を出し合って買う事にしたのだが、銀杖は魔法の効果を高めると同時に、魔力消費を少なくしてくれる優れもので、ローブは全属性に対して魔法耐性が付与された特別製だ。
こうして、彼らは旅立つための準備を整えた。
※―※―※
その翌日。
ルドたち一行は、ローズベネット帝国帝都を出て、水竜の湖がある山脈を西側から迂回する形で北上して、デホティッド皇国領土へと入った。
デホティッド皇国の南部は、灼熱の砂漠地帯だ。
本来ならば、大袈裟でなく〝命懸け〟の旅の道中、その暑さにどう対処するかを常に真剣に考え、実践すべき所だが――
「ルド、暑いの! もっとくっつくの!」
「一瞬で言動が矛盾してんじゃないわよ! 離れなさい!」
――ルドを挟んで火花を散らす彼女たちは元気潑溂としており、砂漠のど真ん中とは思えない程に余裕がある。
それもそのはずで、そもそも、いつものようにルドが生み出した〝走る土製椅子〟に座る彼女たちは、自分の足で歩く必要も無く、椅子の上部に土製の〝屋根〟が出来たことで、強烈な日差しも防ぐ事が出来て、更に、ラリサが椅子のあちこちに無数の氷を埋め込んで維持し続けているお陰で、火照った身体を常に冷やしながら旅をする事が可能となっていたのだ(ちなみに、マリリナは「うおおおおおおおおおお!」と、相も変わらず、修行のために走り辛い砂の上を一人走っていたが、ラリサの氷魔法によって、その身体が常時薄い氷で覆われており、適宜その氷を剥がして食べて水分補給もしている)。
身体的余裕が出来た彼女たちは、代わりに〝口論〟で脳をヒートアップさせていた。
尚、ケイティは、事あるごとにルドに身体を密着させて上目遣いで見詰めて来るため、彼女の瞳に自分の姿が映らないかと、その綺麗な瞳を覗き込んでみたものの、結果は芳しくなかった。
さて。
言い争いをする美少女二人に――
(付き合い切れんな……)
やはり、どれだけケイティに言い寄られても、何故か嬉しくないルドは、げんなりとした表情で手を翳すと――
――一瞬の隙を突いてケイティの肩を押して身体を引き離した後――
「俺は一人で移動する。『離脱』」
「ルド! そんなの寂しいの! ケイティもそっちに行くの!」
「ちょっと! 危ないから止めなさい!」
自分が座っていた部分のみ分離して左側に離れて、三分の一ずつとなったラリサとケイティの〝走る土製椅子〟を一つに接合した。
飛び移ろうとするもラリサに羽交い締めにされて止められているケイティを見たルドが、「ケイティ……一つ聞きたいんだが……」と、真剣な声音で訊ねる。
「お前の両親の命を奪ったミノタウロスに、復讐したいか?」
「!」
一瞬、瞠目するケイティだったが――
――胸に手を当てて、目を瞑り――
――開くと――
「ケイティは僧侶なの。人の命を救うために回復魔法を必死に練習したの。誰かを傷付けるためじゃないの。たとえそれが、仇のモンスターであったとしても」
――穏やかにそう告げた。
「ケイちゃん……」
思わず身体を離すラリサ。
「パパとママに助けられたあの時、ケイティはただの足手纏いだったの。そんなケイティが、魔王を倒す冒険者パーティーの一員になって、仲間の命を救いながら魔王討伐を達成する。復讐と言うなら、それこそが、この〝ケイティを無力な悲劇のヒロインにしようとした〟〝世界〟に対するケイティの復讐なの!」
胸を張るケイティを見て、眩しそうに目を細めるラリサだったが、ルドは――
(何故だ? 別に普通の言葉なのに……)
――〝世界〟に対する復讐、という言葉に、どういう訳か、胸がチクリと痛んだ。
(いや、特に意味は無いだろうし、気にしないでおこう)
「分かった。じゃあ、お前の両親を襲ったミノタウロスは、別に殺さなくても良いって事だな? 実は、ずっと感知魔法でローズベネット帝国国内を探していて、デホティッド皇国領土に入る少し前に、国境近くの森の中で見付けたんだが」
そう言ってルドが手を翳すと――
「グオオオオオオオオ!」
「!」
――背後から猛スピードで、ルドの土魔法によって拘束されたミノタウロス――牛の半獣人のモンスター――が、ルドの直ぐ後ろへと運ばれて来た。
両手両足が土に減り込むようにして、巨大な土製十字架に磔にされたそれは、何とか拘束から逃れられないかと、雄叫びを上げ、必死に藻掻いている。
「グオオオオオオオオ!」
「コイツだよな? 右目も無いし」
涎を撒き散らしながら足掻き続けるミノタウロスを見たケイティは――
「その傷……間違いないの……。ケイティを守るために、ママが命を投げ打って、剣で貫いたものなの……」
燃えるように暑い砂漠地帯で、底冷えする殺気を帯びた双眸で獲物を見詰めるケイティは――
「ラリサ……お願いがあるの。ナイフが欲しいの。ありったけのナイフが……」
「……分かったわ」
――憎きモンスターから決して目を離さず――瞬きすらせずに、そう呟くと――
ラリサが魔法で目の前に用意した氷製台の上に並べられた氷で出来たナイフ(持ち上げると、下からまた新たな氷製ナイフが生み出されて浮き上がって来る)の一つを手に取ると――
「食らえ! 食らうの!」
「グ……グオオオオオオオオ!」
――ミノタウロスに向かって投げ始めた。
ケイティの腕力では、浅くしか身体に刺さらず、いつまで経っても致命傷を与えられないであろう事を一瞬で見抜いたルドが、無数の氷製ナイフの全てに魔力を掛けて強化、攻撃力を格段に上げる。
「パパとママの仇なの!」
「グオオオオオオオオ! グオオオオオオオオ!」
「死ぬの! 死ぬの!! 死ぬの!!!」
「グオオオオオオオオ! グオオオオオオオオ! グオオオオオオオオ!」
ルドの魔力を帯びた氷製ナイフが、次々とミノタウロスの身体に突き刺さり、血が飛び散り、その命を削り取って行く。
先刻、〝別に殺さなくても良い〟という旨を告げたケイティだったが――
「そりゃそうよね……」
(まぁ、そりゃこうなるか……)
――仇が眼前に現れたならば、話は別だ。
先程も、別に嘘をついたわけでは無く本心だったのだろうが、心に刻み込まれた恨みは、そんなに簡単に消えるものではなく、また、理性と感情とは別物であるからだ。
「キャハハハハハハハ!!!」
「グオオオオオオオオ! グオオオオオオオオ! グオオオオオオオオ!」
砂漠に甲高い哄笑とミノタウロスの悲鳴が響く中――
「ラリサ。今日の夕飯は、牛肉ステーキか?」
「少しは空気読んで!」
――マリリナのみ、通常運転だった。




