46「寒気」
死の淵から生還したルドは、水竜の湖の湖面を覗き込んでみたが、自身の姿は映らなかった。
その後、野営したルドたちは、翌日の朝、往路と同じく、ルドの土魔法で土製の椅子に座ったまま下山して、そのまま帝都へと高速で戻って行った(いつも通り、マリリナだけは自分の足で走っていたが)。
そして、同日昼下がり。
ルドたちは、ケイティの家に集まった。
尚、相変わらず本だらけで足の踏み場もない家にて出迎えたケイティだが、眼鏡を掛けていない。
実は、九死に一生を得た後、彼女は視力が回復して、眼鏡が要らなくなったのだ。
それが、ドラゴンの血のお陰か、はたまたルドの血と心臓の一部を飲み込んだお陰かは分からないが、皮肉なことに、願いの一つであった〝視力回復〟が、悪魔によって一方的に契約を取り付けられて殺され掛けた事で、叶った形となる。
そんなケイティを含む全員の前で――
「悪魔が宿っていた魔法書から、悪魔が消えている」
「「「!」」」
ルドがそう告げると、彼女らは驚愕に目を瞠った。
「どういう事なの!? 姿を隠して、油断させて襲おうとしてるの!?」
「いや、多分アイツはもう死んでいる」
「え!?」
戸惑うケイティに対して、ルドは説明を続けた。
「お前の最上級回復魔法で助かった後、俺は密かに感知魔法で、この家の事を探っていた。すると、悪魔が、何者かに向かって何度も呪術魔法を発動した後、急に消滅した」
「消滅……?」
「ああ」
ラリサの声に、ルドは頷く。
「そこから推測されるのは――」
「悪魔は誰かと戦い、殺された、という事だな?」
「そうだ」
言葉を継ぐマリリナと、首肯するルド。
「誰なの? 誰がやったの?」
「分からない。俺の感知魔法が弾かれたからな」
「ルド君の魔法が!?」
仲間たちの戸惑いが不安に変わり、ともすれば今後の旅に影響を及ぼしかねないと判断したルドは――
「まぁ、それが誰であろうが、どんな意図があろうが、良いじゃないか。これでケイティの呪いは完全に解けた。もう怯える必要は無くなったんだ」
「確かにそうなの! やったー! なの!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねようとして――本だらけと言う不安定な足場のせいで、見事にバランスを崩して本で出来た海にダイブするケイティを見て、「もう、ケイちゃんったら!」と、ラリサが笑い、「ぷはぁ! えへへ、なの」と、大量の本の中から顔を出したケイティも笑い返し、「ラリサ。腹減った」と、マリリナが通常運転に戻るのを見て、ルドは安堵した。
――が。
(〝どんな意図〟かは分からないが、〝誰〟かは分かる)
ルドは――
(〝俺の魔法を弾ける〟という事から、逆に特定出来る)
(そんな事が出来るのは、あの女――ネックしかいない)
――そう結論付けると――
(前回に引き続き、今回も正直助かったが……)
(この暗躍の仕方……ちょっと寒気がするんだが……)
――言い知れぬ不気味さを感じて、心の中でそう独り言ちるのだった。




