45「紅」
眩い光――最上級回復魔法の輝きに包まれたルドは――
――抉り取られた胸部に――
――血管が、心臓が、肉が――
――そして骨が修復されていき――
――命を司るポンプにより――
――瀕死だった全身へと、再び血液を送り出され始めると――
「? これは一体……? 俺は……?」
「「「!」」」
――ルドは、徐に目を開けた。
「ルド!」
「ルド君!」
「ルド!」
感極まり目に涙を浮かべるマリリナの眼前、上半身を起こしたルドの胸に、ラリサとケイティが飛び込む。
「ルド君の嘘つき! もう無茶はしないって言ったのに!」
「バカなの! 自分を犠牲にして助けようとか、本当にバカなの! 大バカなの!」
泣きじゃくる二人に、「一体何が……?」と、戸惑った様子のルドだったが――
「ケイティが回復魔法を掛けたんだ」
涙を拭いながらマリリナがそう告げると、ルドは、改めて縋り付く二人の少女たちに向かって――
「心配掛けて悪かったな、ラリサ。そして、俺の命を救ってくれてありがとう、ケイティ」
「すごく悪いわよ! メチャクチャ悪いわよ! 反省してよね!」
「〝ありがとう〟じゃないの! あと一歩遅かったら、死んでたの! 〝ありがとう〟で済む話じゃないの!」
――穏やかにそう語り掛けて、彼女たちによる涙声の集中砲火を浴びせられるのだった。
※―※―※
一方その頃、ケイティの家では――
「アイツら、何なんだくま!? 揃いも揃って邪魔してくれたくま!」
――ケイティの魂を奪うためにまずはその肉体を殺すという計画が、台無しにされた悪魔が、暗闇の中で一人憤慨していた。
怒りに任せて、暫く空中で地団駄を踏んでいた悪魔だったが――
ふと、動きを止めると――
「でも、無駄なことくま。呪いはまだまだ有効くま。何度だって攻撃して、殺してやるくま!」
――口の両端を吊り上げて、邪悪な笑みを浮かべた。
――次の瞬間――
「別に何をしようが構わないけど。アレは良くなかった」
「! 誰くま!?」
――何の前触れもなく、突如背後から聞こえた声に、悪魔が慌てて振り返る。
そこにいたのは、四重の円を描いている立派なアホ毛を持つ女性だった。
悪魔が、(空間転移魔法くま! ……となると、かなりの使い手くま……でも――!)と内心で思考していると――
「よくもルドを傷付けてくれたね。しかも、あんなにも大きな傷を」
掴み所の無かった女性の声から、明らかに〝怒り〟と〝殺意〟が滲み出す。
「何馬鹿な事言ってるくま!? あれは、アイツが勝手にやった事くま!」
嘲笑う悪魔が、女性を指差して告げた。
「棲み処としている〝本〟を触らなければ悪魔は無力だとでも思ったくま? 腐っても悪魔くま! 人間を呪い殺すくらい、本に触れられなくても出来るくま! 『呪殺』!」
悪魔の指先からどす黒いオーラが噴き出して、女性を包み込む。
「くまーはっはっは~! 仕返しに来たつもりだったくま? 相手が悪かったくま! ザマァ見ろくま! 鮮やかに返り討ちくま! くまーはっはっは~!」
腰に手を当てて哄笑する悪魔だったが――
「はっはっ……は?」
――気付くと――
「な!? 足が無いくま!」
――悪魔の両脚が消えていた。
「あれだけルドを傷付け、苦しめたんだ」
「!?」
死の呪いを受けたはずの女性は、何故か傷一つ負っておらず――
「それ相応の罰は受けてもらう」
――女性が手を翳すと、虚空に浮かぶ悪魔の両腕が消えて――
「死ぬのはお前くま! 『呪殺』! 『呪殺』! 『呪殺』!」
――必死に抵抗する悪魔の攻撃を――
「覚悟は良いかい?」
――まるでそよ風でも浴びているかのように、物ともせず――
――胴体と首が消された悪魔は――
「何でくま!? どうなってるくま!? お前は一体何者くま!?」
――魔力の流れと残滓が、先刻、全く無かった事から――
「あ」
――眼前の人間の女が――
「お、お前は……!?」
――空間転移魔法を使っていなかった事に気付き――
「ま、まさか……!?」
――本来、魔法を使わなければ決して成し得ない空間転移を――
――魔法抜きで行ったという事実から――
――一つの答えに思い至り――
「最期に正解に辿り着けて良かったね」
「!!」
――驚愕に目を剥く悪魔に――
「さよなら」
「待――」
――女性がそう告げた直後――
「………………」
――悪魔は、完全に消滅していた。
一人、闇の中に佇む女性は――
――そのまま暫し、微動だにしなかったかと思うと――
「ルド。今回の冒険も、と~っても面白かったよ」
――この世の物とは思えない程に白いその肌に映える、鮮やかな紅を乗せた形の良い唇を微かに歪めて――艶めかしい笑みを浮かべた。




