44「光」
「いやああああああああああああああ!」
ラリサの悲鳴が周囲に響く中――
――ルドは、ブチブチと強引に血管を引き千切って引き抜いた自身の心臓――まだ脈動を続けるそれを手に、ふらつきながら膝をつき、生気のない虚ろな目で横たわるケイティの顔の真上で心臓を握り潰して、大量の血をケイティの口内に流し込むと共に、小さく切った心臓の一部も、〝僅かな魔力〟を纏わせる事でその動きを操作して、強引にケイティに飲み込ませる。
これが、〝特別な存在〟である自分の体内で、〝最も生命力に満ち溢れた特別な場所はどこか〟と考えたルドが出した結論だった。
――ルドが取り出した心臓の一部と大量の血液を飲んだケイティの全身が――
「「!」」
――眩く、しかし優しく穏やかな光に包まれて――
――文字通り〝命懸けの賭け〟は――
「ゲホッ! ゲホゲホッ! ああもう! 飲ませ過ぎなの! 陸上で溺れる所だったの!」
「「!」」
「って、あれ? 何か、ケイティ、立ち上がれてるの! 傷が全部塞がってるの……! もう、どこからも血が出て来ないの……!! 治ってるの……!!!」
――ルドの勝利に終わった。
「ケイちゃん! 本当に良かった!」
――血塗れのケイティを、ラリサがそっと抱き締める。
「うん、ありがとうなの!」
笑顔でそう答えたケイティは、「でも、ルドにはちょっと文句を言いたいの! あんだけドラゴンの血を飲ませれば、そりゃ治るかもしれないけど、あれは流石に飲ませ過ぎなの! ルドはどこにいるの?」と、身体を離して、血だらけの顔を袖で拭いつつ、ルドの姿を探す。
「………………」
その問いには答えず、ただ目を伏せるラリサ。
どうやら、朦朧とした意識の中で、〝ウォータードラゴンの血を大量に飲ませられた〟と勘違いしていたらしいケイティは――
「ルド! ルド!!」
「……?」
――痛々しいほどに必死に呼び掛けるマリリナの声に反応して、視線を向けると――
「!!!」
――そこには、胸部を大きく抉られて、大量に吐血・出血し、地面に倒れたルドの姿があった。
「なっ……!? 一体どうしたの!?」
ケイティが動揺しつつ問い掛けるも、ラリサとマリリナからの答えは無く――
「まさか、ドラゴンが動いたの? それとも、別のモンスターが?」
慌てて周囲を見渡すも、二匹のウォータードラゴンは氷漬けになったままで、他にモンスターの姿も、死体も見当たらない。
と、その時――
――血塗れのルドの右手の傍に、強い力で潰された臓器が転がっている事に気付いたケイティは――
「まさか……心臓を自分で抉り取って、握り潰して……ケイティに血を飲ませたの?」
――漸く何が起きたのかを理解した。
ルドが何故そんな事をしたのかは分からない。
ドラゴンでもない、普通の人間であるルドがそんな事をした所で、何か効果があるとは到底思えない。
が、あの憎き悪魔は、一方的に契約を取り付けて〝死の呪い〟を相手に掛けることが出来た。
その逆に、〝自分の命を犠牲にする事〟で、〝相手を助ける事〟が出来る方法だって、この世界にはあるのかもしれない。
「そ……そんな……何でなの……?」
――膝から崩れ落ちるケイティ。
「何でケイティのために、そこまで……? まだ、会ってそんなに時間も経ってないの……」
――呆然とし、ただそう呟く事しか出来なかったが――
――ふと、ルドの顔を見て――
「………………」
――目を閉じたその顔が――満足気に笑みを浮かべている事に、気付いて――
「何なの、その顔……!?」
――怒りが込み上げて来た。
フラフラと立ち上がったケイティは――
「勝手に助けて、勝手に死んで、満足そうな顔してるんじゃないの!」
「……ケイちゃん……?」
――ポロポロと大粒の涙を零し、そう叫び――
「そんなの、絶対に許さないの!」
――両手を翳すと――
「許さないのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
――勢い良く放たれた光の奔流が、ルドの身体を包み込んだ。




