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39「水竜の湖」

「あ、明日……!?」


 ラリサが愕然としていると、ルドが横から口を挟む。


「〝悪魔が宿った魔法書〟を破壊したら駄目なのか?」


 ケイティは悲しそうに首を横に振った。


「調べてみたけど、それは無理そうなの。悪魔の魔法書を燃やす、または破壊すれば、もしかしたら悪魔は倒せるかもしれないの。でも、それと同時にケイティも一緒に死んじゃうの。何故なら、一方的とはいえ、既に〝契約〟が交わされているからなの」


 顔を上げたケイティは、「でも」と、言葉を継ぐ。


「大丈夫なの! この呪いを解く方法は、ここにある大量の本を片っ端から読んで、何とか見付けたの。満月の夜に、帝都の北にある〝水竜の湖〟の湖面に、この第三の目を映すの。そうしたら、呪いは解けるの!」

「そうだったのね! 良かったわ!」


 胸を撫で下ろすラリサを見て、ケイティは息を一つすると――

 ――何やら緊張している様子で、意を決して懇願する。


「……実は、お願いがあるの。一人だと不安だから、その……あんたたちについて来て欲しいの!」


 真っ直ぐ見据えるケイティに、ラリサは――


「良いわよ!」

「!」


 ――あっさりと承諾した。


「ルド君も、マリちゃんも良いわよね?」

「ああ、問題ない」

「腹減った。ラリサ、飯」


 頷くルドと、通常運転のマリリナ。


「ありがとうなの! 恩に着るの!」


 顔をパァッと明るく輝かせたケイティだったが、目を伏せて、声を落とした。


「……本当の事を言うと、ケイティは、偶然あんたたちと知り合って、ラッキーって思っちゃったの。〝呪いを解く〟っていう、凄く自分勝手な理由のために、利用出来るって思っちゃって……ごめんなさいなの……」


 頭を下げるケイティに、ルドが口を開いた。


「謝る事は何も無い。俺たちだって、自分たちの都合のためにお前を仲間にしたいと思って行動しているだけだからな。恩に着せておけば、それだけ仲間になる可能性は高まる」


 その言葉に、ケイティが顔を上げる。


 ラリサが、「だから、ルド君、言い方!」と目くじらを立てるが、穏やかな表情に戻ると、ケイティを見詰めた。


「でも、私たちは私たちの〝目標達成〟のために動いているのは確かよ。そりゃ勿論、ケイちゃんにも才能開花して欲しいし、〝目標達成〟して欲しいと思ってて、ケイちゃんみたいな素敵な仲間が欲しいなっていう思いもあるけど、回復魔法を使える仲間がいたら心強いし戦闘が大分楽になるなっていう気持ちがあるのは否定出来ないもの」


 「ね、マリちゃん」「そうだな」と、ラリサの問い掛けにマリリナが頷く。


 そんなルドたち一人一人の顔を見て――


「みんな……ありがとうなの!」


 ケイティは笑みを浮かべて、再び頭を下げた。


 そんなケイティたちを――


「………………」


 ――家の外から凝視している者がいる事に、彼女たちは気付かなかった。


※―※―※


 翌日の夕方。


「うひょおおおおおおおおお! なのおおおおおおおおおおお!」


 「もっと早く出発した方が良いんじゃないの?」というケイティの心配を吹き飛ばす程の猛スピードで、ルドによる〝椅子付き移動土魔法〟は発動していた。


 以前よりも更にスピードは上がっており、目に映る景色がどんどん変わっていく(尚、マリリナだけは、「うおおおおおおおおおお!」と、やはり走っていた)。


 僅かな時間で山岳地帯に到着したルドたち一行は、そこからも、相変わらず〝椅子付き移動土魔法〟によって、山を登って行った(ちなみに、マリリナだけは(以下略))。


 以前は平地でしか使えなかった〝移動土魔法〟だが、どうやら進化したようで、山の中でも使えるようになったらしく、木々の間を縫うようにして移動していく。


 事前に聞いていた「大体の場所」に辿り着いた後、「正確な場所」を目指すため、ルドたちは初めて、魔法ではなく、自分たちの足で歩く事にした。


 大自然の中を歩きつつ話を聞くと、どうやら、帝都の〝北側だけ異様に高い城壁〟は、水竜の湖に生息する水竜ウォータードラゴンが遠距離から放つ〝水のドラゴンブレス〟から都を守るために設けられたらしい。


 「遠くから、そんなに威力のある攻撃が出来ちゃうって事!?」と、いくらドラゴンとはいえ、人智を遥かに超えた脅威にラリサが瞠目するが、バンダナを巻き直して再度額を隠したケイティは、眼鏡の位置を直しながら、「大丈夫なの!」と、得意顔で答える。


水竜ウォータードラゴンは、一年周期で活動と休息を繰り返すの。去年は起きて活動していたから、今年は湖の底でずっと眠っているの!」


 ドラゴンと聞いて、「斬るか?」と、魔剣の柄に手を掛けていたマリリナは、残念そうな顔をするが、ラリサは、「良かったぁ~」と、深い安堵の溜息を漏らし、ルドも、「障害は少ないに越したことはない」と、頷いた。


※―※―※


 その後、暫く歩き続けて、夜の闇に包まれた頃――


「うわ~! おっき~!」

「綺麗なの!」

「これだけあれば、暫く飲み水には困らないな」


 山の中腹辺りに、突如開けた広大な場所が現れて、その中心に巨大な湖が見えた。


 夜闇で黒く染められた世界の中、満月によって照らされた湖は、キラキラと輝いており、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 感銘を受けるルドたちだったが――


 ――彼らがいるのとは反対側の湖の端にて、密かに――


「寝てんじゃねぇよ、クソドラゴン! さっさと起きやがれ!」


 ――()()を湖に入れて水を掻き回しながら、()()が悪態をついていた。

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