表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/63

2「〝鏡〟を探す中での偶然の出会い」

 少し時間は遡って。


「なかなか〝鏡〟になりそうなもんは無いな」


 土魔法の応用か、眼前の地面・壁・天井を感知した上で、その範囲を広げて、〝ダンジョン全体の把握〟をする事が出来たので、入口に向かって戻って行くと同時に、遭遇するモンスターを土魔法で蹴散らしつつ、ルドは、〝鏡〟になりそうな物を探していた。


 が、そんな都合よくダンジョン内に落ちている、或いは設置されている訳は無く。


「〝鏡〟になりそうなもん、〝鏡〟になりそうなもん、〝鏡〟になりそうなもん」


 譫言うわごとのように繰り返す内に、ふと――


「って、〝もん〟? いや、別に〝物〟じゃなくても良いよな……?」


 そう気付いた彼は――


「モンスターの中に、いないか? 〝鏡形のモンスター〟が! もしくは、〝身体の一部が、鏡みたいになってるモンスター〟が! 『感知ディテクション』!」


 ――先刻〝ダンジョン全体に張り巡らされた道の把握〟をするために使った魔法を、今度は、〝ダンジョン内の地面・壁・天井に接しているモンスターを感知して、更にそれがどのようなモンスターかを把握する〟ために応用して使う。


 すると、ルドは――


「見付けた! 〝鏡〟背負ったモンスターとか、御誂おあつえ向きじゃないか!」


 ――鏡亀ミラータートルの群れを見付けた。

 そして――


「俺、走っても遅いんだよな……じゃあ、こうするか!」


 ――足下に手を翳して、今自分が立っている真下――地面の一部を迫り上げると――


「ひゃっほおおおおおおおお! 速い速い!!」


 ――まるで〝土の上で波乗り(サーフィン)を行っているかのように、前方へと一気にスライドさせて、高速で移動していった。


※―※―※


 そのような経緯で、鏡亀ミラータートルの軍勢に追い付いたルドは――


「ん? 何か、人間がいるな」


 『感知ディテクション』により、その先の広場に人間がいる事も、接している地面を通して把握しつつ――


「まぁ良いや。取り敢えず――『岩柱ロックピラー』!」


 ――天井から無数の岩柱を生み出して鏡亀ミラータートルたちの頭部を急襲して――


「これで良し。……よっと。さてさて、どうだ?」


 叩き潰して全滅させると、最後尾の鏡亀ミラータートルの背に飛び乗って、鏡を覗き込むが――


「映らないか~。よし、次だ! よっと。どうだ? ……駄目か~。じゃあ、その次!」


 次々と鏡亀ミラータートルの背から背へと飛び移って行き、試して行った。


 そして、つい先程――


「あ~あ。コイツも駄目だ。やっぱり映らないか~」


 ――群れの先頭に転がる鏡亀ミラータートルの死骸の上で、ルドは残念そうに呟いた。


「まぁ、しょうがないな」

「!?」


 それを目撃したラリサは、自分を死の淵にまで追い込んだモンスターたちを、どうやら一瞬で壊滅させてしまったらしい少年の姿に、唖然としていたが――


「はっ!」


 〝命を救って貰った〟事実に漸く思い至り、立ち上がったラリサは、少年に向かって歩いて行き、声を掛けて――


「あ、あの! 助けて頂いて、本当にありがとうござ――」

「わひゃっ!?」

「………………え?」


 ――頭を下げた所で、少年から予想外の声が上がり、思わず顔を上げた。


 先刻、ルドは、モンスターたちに対する『感知ディテクション』を優先していたため、広場にいる人間に対しては、詳しく探ろうとしていなかった。


 そのため、まさか美少女が現れるとは夢にも思っておらず、素っ頓狂な声が出てしまった。


 鏡亀ミラータートルの甲羅の上にいる自分を見詰める美しい円らな瞳に、「コホン」と咳払いをして仕切り直したルドは、「いや、何でもない」と言うと、跳躍して、地面に着地した。


 目をパチクリさせて、不思議そうな表情を浮かべる少女を、ルドは直視出来ない。


 前世では、自他ともに認める〝陰キャ〟だった彼にとって、美少女とのコミュニケーションとは、最上級モンスター且つ最強と謳われるドラゴンとの戦闘以上に難易度が高い。


(こんな可愛い子と二人きりで喋るとか、無理無理無理無理無理無理無理無理!)


 勇者パーティーにて唯一優しく接してくれたジェイミーも可愛かったが、いつも勇者や他のメンバーが傍にいたため、二人きりで話す場面など皆無だった。


 それに、ルドは、〝勇者パーティーに貢献する〟という目標を達成する事に集中していたため、変に挙動不審になる事も無かった。


(そうだ! あの頃みたいに、〝目標達成〟に集中すれば良いんだ!)

(今の俺の〝目標〟……それは、〝自分の顔を映すような鏡、もしくは鏡っぽいものを見付けること〟だ! それ以外の事は、些細なことだ! そう、これも、些細な……些細なことか、これ……? いや、些細なことだ!)


 無理矢理自分を納得させて、何とか平常心を取り戻すルド。

 そんな彼の心などいざ知らず、ラリサは、再び頭を下げた。


「改めて、先程は助けて頂いて、本当にありがとうございました!」

「え? あ、ああ。別に気にしなくて良いぞ」


 平静を装うも、やはり美少女との対話は想像以上に心をかき乱すらしく、一瞬何の話をしているのか分からなかったルドだったが、どうにか言わんとしている事を理解して、返事をした。


「えっと、お名前を聞いても良いですか? 私はラリサ……ラリサ・ローゼンブラットです!」


 一瞬躊躇した後、フルネームで名乗るラリサに、ルドも応じる。


「ルドだ」

「ルドさん、ですね!」

「いや、さん……はつけなくて良い。多分同い年くらいだし、タメ口で良い」

「そうですか……じゃなくて、うん、分かった! ルド君、助けてくれて、本当にありがとう!」


 満面の笑みを浮かべるラリサが眩しくて、思わずルドは目を細める。

 

 と、その時。

 今更ながら、ルドはこの状況の違和感に気付いた。


「こんな所に一人で、どうしたんだ?」


 自分の事を棚に上げてそう問い掛けるルドに、ラリサは――


「えっと、実はね……」


 ――表情を曇らせると、経緯を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ