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35「仲間になれない理由」

 着地した少女は、自分が毛糸のパンツを晒している事に気付くと同時に左を向き、ルドたち来訪者の存在に気付き――


「きゃあああああああ! エッチなの!」

「いや、自分でやったんでしょ、それ!」


 勢い良く突っ込みつつ、ラリサが、「ルド君! 見ちゃダメよ!」と、ルドに鋭く告げる。


 素直に視線を逸らすルドだったが――


(ビキニアーマーと何が違うんだ?)


 パッと見は下着のように見えるマリリナの装備に対しては何も言わないのに、何故なのだろう、という疑問が湧くのを止められなかった。


(まさか、異世界に来てまで、〝水着と下着って同じじゃね? 問題〟に直面するとは思わなかった……)


 何がどうして盛大に捲れていたのかは謎だが、スカートを慌てて下ろした〝町娘然〟とした布の服を身に纏った、金髪ボブヘア且つ額を覆うバンダナをした小柄で可愛らしい顔立ちの眼鏡少女に対して、ラリサはビシッと指を突き付ける。


「あなた、泥棒ね! 観念しなさい、この〝痴女泥棒〟!」

「誰が〝痴女泥棒〟なの!? あんたたちこそ、ケイティのあられもない姿を見たくてやって来た変態泥棒に違いないの!」


 罵り合う二人の少女。


(あの子が〝痴女〟なら、マリリナは〝ド痴女〟だろ)

 

 と、そこに、ルドの脳内で密かに〝ド痴女〟認定されたマリリナが、横から口を挟む。


「斬るか?」

「ええ、〝痴女泥棒〟だもの、斬って良いわ!」

「いやいやいやいや、駄目だろ。ちょっと待て、二人とも」


 どこまでも好戦的なマリリナと、そんな彼女の燃え盛る心の火に油どころかガソリンをバシャバシャと注ぐラリサに対して、慌ててルドが止めに入る。


「ルド君、止めないで! 〝泥棒〟は勿論、〝痴女〟も立派な犯罪よ!」

「そうだ、ルド。あたしが〝痴女(犯罪者)〟を斬る所を大人しく見ていろ」

「いや、お前、よくその格好でそんな事言えるな」

「ケイティのあられもない姿と財産のみならず、ケイティの命まで欲しいだなんて、欲張りな変態泥棒なの! いやああああ! 誰か助けてなの!」


 何だか訳の分からない混沌カオスな状況になっており、これ以上事態が悪化する前に、ルドは三人の争いに終止符を打つ事にした。


「そいつが〝僧侶の才能を持った少女〟だ」

「え? この〝痴女泥棒〟が?」

「だ・か・ら! ケイティは〝痴女〟でも〝泥棒〟でもないのおおおおおおおおおお!」


 ――ケイティの叫び声が近辺に響いた。


※―※―※


 その後。

 改めて話し合い、お互い、疑いは晴れた。


「で、ケイちゃん。ここがケイちゃんの家で、ただ買い物に出掛けようとしていただけ、っていうのは分かったけど、何でわざわざ窓から出て来たのかしら?」


 小首を傾げて訊ねるラリサに、眼鏡の位置をクイッと直しながら、ケイティが答える。


「ケイティは本が大好きなの! だから、少しずつ本を買い集めていたんだけど、()()()()()()に、突然、『()()()()()()()()()()の、長髪で、()()()()()()()()()()()()()を持つ怪しげな年齢不詳の女性がやって来て、目の前に魔法陣を展開して、そこから大量の本を出現させて、それを全てプレゼントしてくれたの! 基本的に家の中はその本で一杯で、玄関まで積み重なってるの。もしも玄関の扉を開けたら、大変なことになっちゃうの!」


(三週間ほど前? 『マホマホマホ~』? 四重の円を描く立派なアホ毛?)


 時期と、どこかで聞いたような特徴的な口癖と、四重アホ毛。

 それらを聞いた瞬間に、つい最近出会ったとある人物がルドの脳裏を過ぎる。


「またまた~、そんな事言って~! 『大変なことになる』だなんて、大袈裟なんだから!」


 ラリサは本気で受け取ってはおらず、「はぁ。分かったの」と、溜息を一つついたケイティは――


「仕方が無いから、玄関の扉を開けてあげるの。目ん玉引ん剝いてよく見るの!」


 そう言って、スカートのポケットから鍵を取り出すと、扉の鍵穴に差し込んで解錠して、扉を引っ張って開けると――


「きゃあああああ!」


 ――中から茶色と黒の波が出現、ラリサは押し流された。


 ――否、よく見るとそれは、夥しい数の〝本〟で――


「本当、だったのね……」

「だから、最初からそう言ってるの!」


 ルドに引っ張り上げて貰って、何とか本の洪水から救い出して貰ったラリサは、「疑ってごめんなさい」と頭を下げた。


「分かれば良いの。でも、こうなったのはあんたのせいなんだから、責任取って、元に戻すのを手伝うの!」

「それは、勿論やらせて貰うわ!」


※―※―※


「ルド君とマリちゃんまで、ごめんね……」

「問題ない」

「そうだ。気にするな。そんな事より、腹減った」

「ああ、そうよね。もうちょっと待ってね……」


 ルドたちは、再び雪崩が起きないようにと、一旦玄関周辺の本を全て屋外に出して、玄関の扉を閉じて、その上で、窓から出入りしつつ、家の中へと本を搬入する、という事を繰り返していた(尚、家の中は文字通り〝足の踏み場もない程に〟本が散乱して積み重なっており、踏んだり蹴ったりすることに対して容赦して欲しいというラリサの懇願は、すんなりと受け入れられた)。


「そう言えば、あんた――確か、ルドって言ったの。さっきあんた、〝僧侶の才能を持った少女〟を探して、ここに来たって言ってたの。あれ、本気なの?」


 どこにどう本を運び込むかを指示しながら、ケイティが問い掛ける。


「ああ。本当だ」


 流石に本を運ぶのに土魔法は使えないと、黙々と手作業をこなしながら、ルドが首肯する。


「でも、こんな事言うのもアレだけど……ケイティの回復魔法は……微妙なの」

「微妙?」

「うん。その……小さな擦り傷や切り傷を、かさぶた状態にする程度の回復魔法しか使えないの……」


 俯くケイティの表情が翳る。


「問題ない。お前の才能は、これから開花する」

「……本当なの?」

「ああ、本当だ」


 然も当然のように――まるで未来を知っているかの如き態度で断言するルドに、ケイティが驚く。


「ルド君ってば、すごいんだから! 目の前の相手の才能が分かっちゃうし、開花する事も見抜いちゃうのよ! 私も、マリちゃんも、ルド君が言った通り、才能が開花したわ!」


 自慢顔のラリサだったが、マリリナが「そうだったか? ルドには恩義があるが、才能開花って何の事だ?」といまいちピンと来ていない様子だったので、「ほら、何年掛けても引き抜けなかった魔剣を抜けたでしょ!」と説明すると、「ああ、その事か」と、漸く合点がいった様子だった。


 そして――


「ケイティ。俺たちの仲間になれ」

「……え?」


 ――ルドが手を伸ばすと――


「ケイちゃん。良かったら、私たちと一緒に冒険しない?」

「ラリサの料理は美味いぞ」


 ラリサとマリリナからも、勧誘されて――


(ケ、ケイティが誘って貰えるなんて、夢みたいなの!)


 ――顔を綻ばせたケイティだったが――


(……でも……)


 ――唇を噛むと――


「嬉しいけど……でも、()()()()()()()()、無理なの……ごめんなさいなの……」


 ――目を伏せ、消え入りそうな声で、そう呟いた。


※―※―※


 その翌日。


「俺たちの仲間になれ」

「昨日のケイティの話、聞いてたの!?」


 ――ルドたちは、再びケイティの家を訪れていた。


「あはは。こう見えて、ルド君は頑固なのよ?」

「ラリサの料理は美味いぞ」


 明るくそう言い放つ面々に対して、ケイティは溜息をついた。


「だから無理だって言ってるの。諦めて帰るの」


※―※―※


 しかし、その翌日も――


「また来たの!?」


 更にその翌日も――


「もう、しつこいの!」


 ――ルドたちは、繰り返しケイティの家を来訪した。


 初日に冒険者ギルドに行って、マリリナの冒険者登録(Gランク、ちなみに少し前まで最低ランクだったラリサはEランクに、DランクだったルドはAランクになっていた)をした彼らは、その日から、〝午前中にまずはケイティを訪ねて、その後、近くのダンジョンへと向かって、依頼を達成して冒険者ギルドに戻って謝礼を貰い、宿屋に戻る〟という日常を送るようになっていった。


※―※―※


 そして――六日目。


「ああ、もう! 何度来るの!?」

「お前が承諾するまでだ」


 どこまでも頑ななルドに、今までで一番深い溜め息をついたケイティは――


「……ちょっと、家の中に入るの……」


 ――ルドたち三人を、以前同様窓から家の中に招き入れて――


「……ケイティが何で断っているか、その理由を説明するの……」


 ――そう言って、バンダナを解くと――


「これが、あんたたちの仲間になれない理由なの」

「「「!」」」


 ――その額には、巨大な()()()()があった。

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