34「僧侶候補の家」
「あ! お帰り、ルド君!」
戻って来たルドを見て、ラリサが破顔して駆け寄って来る。
「大丈夫だった?」
「ああ。……ただ、理想的な状況とは言い難いけどな」
ルドは、何があったかを説明した。
「そうだったのね……」
「すまん、何とかストーキングを止めさせたかったんだが、ここで戦闘になる事を避けるだけで精一杯だった」
「ううん、私たちのために頑張ってくれて、ありがとう! それに、誕生日を迎えるまでは、ワンちゃんも仕掛けて来ないんでしょ?」
「恐らくな。まぁ、確証は無いが……」
「だったら、取り敢えずは問題ないじゃない! 良かったわ!」
朗らかな笑みを浮かべるラリサに、胸の痞えが下りるルド。
と、その時。
ここまで話を聞いて漸く、路地裏からこちらの様子を窺っているワンレイ――相も変わらず、身体が半分以上見えてしまっている――に気付いたマリリナは――
「斬るか?」
「もう、直ぐ斬っちゃダメだってば!」
魔剣の柄に手を当てながら、いつも通り殺伐としていた。
「待たせてしまったが、じゃあ、僧侶候補の所に行くか」
「うん!」
こうして、ルドたちは、僧侶の才能を持つ少女の下へと向かった。
※―※―※
「おっき~!」
「壮観だな」
帝都に入った直後から見えていた巨大噴水に辿り着いた一同。
ただ水が勢い良く噴き出しているだけなのに、それを美しいと感じてしまうのは、不思議なものだ。
目に見えないはずのマイナスイオンが、この場所には豊富にある――ようにすら感じてしまう。
「ラリサ、腹減った」
「もうちょっと待ってね、マリちゃん。この用事が済んだら、お昼ご飯にしようね」
本人が作るにしろ作らないにしろ、食事と言えばラリサ、という強い印象がついたらしく、マリリナのボヤキに、ラリサが反応する。
時刻はとっくに正午を過ぎており、途中で串焼きを食べたとはいえ、やはりきちんと食事をしたいという気持ちは、ルドにも分かる(つい先日まで〝一日一食〟だったのに何を言っているんだ、という思いも多少あるが)。
左へと進路を変更した一行は、帝都中央北部へと向かっていった。
※―※―※
帝都中央には巨大噴水があったが、帝都中央北部――より正確には〝帝都北部〟には、巨大噴水など比較にならない程の高さの建造物――〝異常に高い城壁〟がある。
ただ、北の城壁であり、真っ直ぐ聳え立っている事もあり、東から南、そして西へと移動する太陽の進路を全く遮っていないため、本来ならば、〝そんな風〟には見えないはずだが――
「ここだ」
「やっと着いたわね!」
帝都北端にあるその小さな平屋は、〝どんよりと淀んだ雰囲気〟に包まれていた。
日が当たらない――という訳でもないのに、何故か〝暗い印象〟を与えるのだ。
この辺りは住宅街となっているにも拘らず、何故か一軒だけ、ポツンと離れた場所に建っている、というのも一つの理由ではあるだろうが、外観はごく普通であり、立地だけでは説明出来ない〝何か〟があるような気がしてならない(敷地内は、これでもかと言う程に雑草が繁茂しており、それも原因となっている可能性はあるが)。
そのせいか、その家――どころか、この近辺にすら、近付く者はルドたち以外は皆無だった。
「これだけ生えていれば、食事には困らないな」
「〝雑草〟を〝食糧〟として捉えるの、もうやめて!」
まだ極限状態での生活が抜け切っていないのか、ポツリと呟くマリリナに、ラリサが勢い良く突っ込む。
「行くぞ」
「うん!」
(雑草だったら、勝手に処分しても別に良いだろう)
そう判断したルドが、土魔法で〝地面の表面〟と〝その下〟を入れ替える事で、雑草を土中にしまって、格段に歩きやすくした上で、家の玄関へと近付いて行く。
「本当、便利よね! ルド君の魔法」
「まぁな」
難無く玄関へと辿り着いた後、ルドが扉をノックしようとした――
――次の瞬間――
「うんしょ、うんしょ」
「「「!?」」」
――毛糸のパンツ――を穿いた少女が、捲れ上がったスカートに気付かず下着を晒したまま、家の右側にある窓から後ろを向いた状態で現れた。




