28「追跡者」
その翌日。
ルドたちは、ローズベネット帝国の帝都キンティスに到着した(キングカプート王国の王都同様、国土の丁度中央に位置している)。
帝都の城壁は、王都のそれと色も材質も似ている。
――が、一点だけ、大きく違っている。
それは――
「何か、あの壁……左側だけすごく高いわね……」
左側――北側の城壁のみ、異常に高くなっているのだ。
(人類が戦争を度々行っていたという昔の名残か?)
(確かに、北の隣国であるデホティッド皇国からの攻撃を防ぐ為、という事なら、分からないでもないが……)
(もし、それ以外の理由があるとしたら……?)
思考を重ねるルドだったが、彼にはもう一つ、懸念があった。
それは――
(まだついて来ているのか……)
マリリナの村の森で戦った、ワンレイ――銀鎧はもう装備しておらず、布の服のみを身に纏った犬の獣人少女――が、ルドたちを追跡して来ている事だった。
それに気付いたのは昨日の事だ。
ワンレイは、攻撃してくるでもなく、ただただルドたちを尾行している。
それも、余りスマートとは言えないやり方――直線的に追い掛け、ルドが振り返ると、慌てて周囲にある木や岩に隠れる、という方法――で(何故か、ラリサとマリリナは気付いていないが)。
今も、少し離れた所にある木の陰に隠れてはいるが、ルドたちの動向が余程気になるのか、こちらを常に監視しようとしてしまう余り、幹から身体の半分程が出てしまっている。
(何故俺たちを追跡する……?)
(記憶が戻ったのか?)
(いや、そうとも限らない)
(犬の獣人……まさか、身体についた〝匂い〟で、〝俺〟の存在に気付いた……?)
(そして、〝記憶を失っている際に起こった事全て〟が俺によるものではないかと推測した……?)
そこまで考えを深めたルドだったが――
「ダメよ!」
――ラリサの声で、思考を中断した。
現在、城門前で、プレートアーマーに身を包んだ門衛二人に対して、〝冒険者〟という身分を名乗り、〝冒険の旅に出ている〟という目的を告げ、身分証明となる冒険者カードを提示している所だったのだが――
既に冒険者として活動していたルドとラリサはともかく、冒険者ギルドに行った事すら無いマリリナは、そのようなものを所持している訳もなく――
「何度も言わせるな。身分証明が無いなら、帝都に入れる訳にはいかない。帰れ」
淡々とそう告げる、中年の門衛に対して――
「斬るか」
「だからダメだってば!」
――左の腰に差した魔剣の柄に手を当てて殺気立つマリリナを、ラリサが必死に止める。
(さて、どうしたものか……)
(強行突破……はマズいな)
(土魔法で階段を創ったりして、北側以外の低めの城壁を乗り越えて侵入するという手も無くはないが……)
ルドが、無法者への第一歩を踏み出そうかと考えていた、その時――
「あ、貴方は!」
――門衛たちが驚愕の表情を浮かべて見詰める先――ルドたちの背後から現れたのは――
「御機嫌よう。四柱の神の御加護があらんことを」
――白馬に跨がった、光輝教〟の最恐最悪の幹部である美少女――〝武力衝突を防ぐ為には武力行使も辞さない〟という〝歩く正義〟――クレアだった。




