27「ラリサの手料理」
「あんたも食べたいのか? クセがあって美味いぞ」
「そんな訳ないじゃない!」
勢い良く突っ込むラリサ。
そこに、ルドが横から口を挟む。
「以前から思っていたが、毒を持っているから、本来生では食べられないんじゃないか?」
「毒とか以前に、人間の食べ物じゃないわよ、あんなの!」
そんな二人のやり取りを見つつ、マリリナがボソッと呟く。
「そういや、昔一度死に掛けたが、何度も食べている内に慣れた」
「毒に耐性出来てるうううううううう!」
思わずラリサが叫び声を上げる。
「ねぇ、マリちゃん。お願いだから、ちゃんとした料理を食べよ?」
至極当然の提案だったが、マリリナは顔を背けた。
「いい。その辺にいる虫やカエルの方が、手っ取り早い」
「何でええええええええ!?」
※―※―※
その辺にいる虫やカエル、それに雑草などを適当に食べて栄養補給するマリリナだったが、野営二日目は雨が降っており、その際は、大口を開けたまま数時間の間ずっと上を向いて、雨水を飲み続けて――
「これであと一週間は水無しでも大丈夫だ」
「どんな身体の構造してんのよ!?」
――膨れ上がった自身の腹をポン、と叩くマリリナに、ラリサが鋭く突っ込んだ(ルドとラリサは、ルドが魔法で作った土製カマクラのような物の中で雨宿りしていた)。
そして、「お願い! 私の作った料理を、一緒に食べて!」と何度ラリサが頼んでも、マリリナは「必要ない」と、首を縦に振らなかった。
※―※―※
そして、三回目の野営時、林の中にて。
本当は、二回の野営のみでローズベネット帝国に到着する事も可能だったのだが、どうしても、大切な仲間であるマリリナと一緒に食事を共にしたがっているラリサを見て、ルドが土魔法での移動速度をわざと落として、ギリギリもう一度野営が必要な距離にまでしか、日中に進まなかったのだ。
「どうしたら、一緒に食べてくれるのかしら?」
別に、同じ冒険者パーティー仲間だからと言って、必ずしも食事を一緒に取る必要は無い。
(分かってるわ。だから、これは私のワガママ……)
(でも、折角こうやって仲間になったんだもの!)
(一緒に食べたいじゃない!)
そんなラリサを気遣って、火を起こしながら、ルドが声を掛ける。
「俺が頼めば、きっとマリリナも聞くだろう」
そう。
「ルドの剣になる」と宣言したマリリナならばきっと、ルドの言う事には従うであろうと予想された。
――が、ラリサは首を振る。
「ううん、大切な仲間だもの。ちゃんと納得して貰った上で、一緒にご飯を食べたいわ。でも、気遣ってくれてありがとうね、ルド君」
「ああ」
(そうよ、そのためには、まずはマリちゃんの事を、もっと知らなきゃ!)
ラリサは、〝今日はどんな虫を食べようか〟と、周囲の地面や木々を観察しつつ吟味しているマリリナに、語り掛けた。
「ねぇ、マリちゃん。……マリちゃんのお母さんって、どんな料理を作ってくれてたの?」
すると、マリリナは振り返り、「そうだな」と、思案する。
「よく覚えているのは、肉と野菜が汁に入ったものだ」
「肉と野菜が汁に……それって、シチュー? それとも、ポトフとか?」
「分からん」
「じゃあ、どんな色だった?」
「分からん」
「匂いは?」
「分からん」
「味は?」
「分からん」
(〝よく覚えて〟ないじゃない!)
全力で突っ込みたい気持ちを、グッと我慢するラリサ。
「何でそんな事を聞くんだ?」
「え? えっと……それは……」
〝このままでは一生食べて貰えないかもしれない〟と思ったラリサは、ここで賭けに出る事にした。
「そう! マリちゃんのご家庭で作られていた料理の作り方が、どんな味かが分かったの! だから、私の料理、食べてみて欲しくて!」
滅茶苦茶な事を言っていると自分でも分かった。呆れられるかもしれない。
だが、そこまでしてでも、ラリサはマリリナと一緒にご飯を食べたかった。
すると――
「母さんの料理の作り方が分かった……?」
「そうなの! どう? 食べてみない?」
「……そこまで言うなら、頂こう」
「! 分かったわ!」
意外にもラリサの博打は成功、マリリナの気を引く事が出来たようだ。
それから、暫くして――
干し肉、人参、玉ねぎを、塩胡椒とハーブのスープで煮込んで作ったポトフ。
それが、ラリサが作った料理だった。
味は保証するが、これがマリリナが生まれ育った家庭の味であるという確証は、正直全くない。
ルドが土魔法で創った陶器の椀(本来は窯で焼く必要があるが、〝恰も焼いた後であるかのような状態〟へと魔法で変化させたもの)と鉄製スプーンを手に持ったマリリナは、ポトフを一口食べて――
――心の中で――
(ほんの少しだけ期待したが……)
(やはり、そんな訳は無かったか……)
――そう思考すると、〝全然違う〟と言おうとした。
――が。
「どう? 美味しい?」
「!」
穏やかで優しい――温かい微笑を浮かべたラリサによるその一言に――
――気付くと――
「えっ!? どうしたの、マリちゃん!?」
――マリリナの頬を涙が伝っていた。
その脳裏を過ぎるのは――
――在りし日の――
――優しい声――
※―※―※
『どう? 美味しい?』
『うん、おいしい!』
『フフッ。それは良かったわ』
※―※―※
突然の落涙に戸惑っていたラリサだったが、一つの可能性に思い至り、明るい声を上げる。
「あ、もしかして、私の料理、奇跡的にマリちゃんのお母さんの料理と、味が似てたとか!?」
「……全然違う。母さんの料理の方が美味かった」
「違うんか~い!」
ビシッと手の甲で叩くジェスチャーをするラリサ(本当に叩くと、料理を叩き落としてしまうので)。
「もう、期待しちゃったじゃない! じゃあ、何でそんな反応なのよ? 泣くほどマズかったって事!? 失礼しちゃうわ!」
頬を膨らませてプンプンと御冠な様子のラリサだったが――
――マリリナは――
「……だが、これはこれで美味い。……ありがとう」
「!」
――初めて見る、柔らかい笑みを浮かべており――
「それなら良かったわ」
――ラリサも満面の笑みを返した。
その日以来、マリリナは一緒に食事をしてくれるようになった。




