26「初めての野営」
ルドたちは、村を出た後に南下、森を突っ切って、国同士を繋ぐ街道へと戻った。
そして、現在――
「すご~い! 速~い!」
東の隣国――ローズベネット帝国に向かって、以前(馬車並の速さ)の倍以上のスピードで移動している。
前回と同じく、ルドの土魔法で足下の地面を隆起させて、それを前方へと高速でスライドさせる形で移動しているのだが、出発早々、ラリサが、「もしかして、ルド君、私の事を気遣ってくれて、ゆっくり移動してくれてる? もしそうだったら、もっと速くても大丈夫よ!」と、申し出たからだ(尚、〝感知魔法による仲間探し〟も並行して進めているが、慣れたのか、そのためにスピードを落とす必要は無くなっている)。
「しかも、快適~! ルド君、ありがとう!」
「ああ。それは良かった」
〝ずっと立ちっ放しだった〟前回の反省をして、迫り出させた地面の上に土魔法で椅子を創って、それに座ってルドとラリサは移動しているため、前回とは比較にならない程快適な旅になっている。
そう。
ルドとラリサは、だ。
マリリナはと言うと――
「うおおおおおおおおおお!」
――走っていた。
ルドたちと並走する形で。
馬車の倍以上のスピードで。ずっと。
どうやら、『魔王を倒して世界を救う』と宣言した事と、『ルドの剣として戦い抜く』と誓った事から、「修行してもっと強くなりたい!」と強く思ったらしい。
尚、百年前に復活してチェイフォレート共和国を滅ぼした魔王は、その後、度々人間の国々に対してモンスターの軍勢を嗾けて来たのだが、何故かここ十年ほどは、目立った活動をしていない。
だが、それまでの行いを見れば、悪逆非道である事は疑いようがないので、どう考えても倒すべき存在であろう。
ちなみに、ルドが、「もう一人か二人くらいは仲間が欲しい。だから、まずはローズベネット帝国へと向かい、その後北上してデホティッド皇国へ行く予定だ。魔王討伐はその後になるが、それでも良いか?」とマリリナに確認すると、「承知した。問題ない」と、どうやら急ぐつもりは無さそうだった。
「うおおおおおおおおおお!」
滝のような汗を掻きながら走り続けるマリリナ。
「マリちゃん、すごい!」
その姿に刺激を受けたらしく、ラリサは、「よ~し、私も!」と、立ち上がろうとするも――「きゃあっ!」――即座にバランスを崩し掛けて、断念すると、高速で移動する椅子に座ったまま、杖を構えて、叫んだ。
「マリちゃん、私も修行するわ! 氷魔法をそっちに飛ばすから、良かったら、それを剣で斬ってくれないかな? そしたら、お互いに修行になると思うの!」
「良いぞ! 来い!」
「うん! 行くよ! 『氷柱』!」
「おらあああああああ!」
ラリサが複数の氷柱を生み出して勢い良く飛ばすと、マリリナは、右斜め前方を猛スピードで駆けながら魔剣を俊敏に振るい、それら全てを両断して撃墜する。
「どんどん来い!」
「うん! 『氷柱』!」
「おらあああああああ!」
(俺に対して氷柱を放った時は、〝仲間を傷付けないか〟と心の底から心配していた気がするが……まぁ、良いか……)
正反対のタイプの美少女二人の激しい攻防に、心の中でそんな感想を呟きつつ、取り敢えずは土魔法での移動という自身の役割を全うしようと、ルドは思ったのだった。
※―※―※
ローズベネット帝国に到着するまでの数日間の間、ルドたちは、日が沈む度に街道を外れて手近な森の中に入って、野営した。
村を出発した際には、急いでいた事もあり、マリリナが身に纏っていたのは襤褸切れのままだったが、流石にそれでは今後困ると、最初の野営時に、ルドが土魔法で鎧を創った。
近辺から魔法で感知して取り出した、出来るだけ硬い岩と金属とを織り混ぜて、更にそれを圧縮して――という事を何度も繰り返した、かなりの硬度を誇る逸品だ。
防御力も相当期待出来る〝優れもの〟と言って良かった。
――〝限りなく小さい〟という点に目を瞑れば。
――何故そのような事態に陥ったかと言うと、マリリナが立て続けに――
「暑苦しい」
「もっと小さくしろ」
「動きにくい」
「もっと小さくしろ」
――そう要求し続けたからだ。
その結果――
「これで良いのか?」
「ああ、これが良い」
――〝ビキニアーマー〟のような防具が完成した。
ちなみに、色は赤だ。
尚、マリリナが持つ魔剣の鞘も、ついでにルドが土魔法で創った。
装備一式が揃ったところで、ラリサが二人に提案した。
「マリちゃんの瞳にルド君の姿が映らないか、試してみない?」
ルドとラリサの旅の目的は既に話してあったため、それが何を意味するのかを、マリリナは即座に理解した。
「承知した」
「分かった」
ルドとマリリナの顔が近付く――
――のを見たラリサは――
――何だか、胸がざわざわして――
「あ、待って!」
「どうした?」
――気付くと、二人を止めていた。
「え? あれ? えっと……ううん、何でもない。続けて」
「そうか」
「承知した」
その結果――
「映らなかった」
「そっかぁ、残念! でも、きっといつか、見つかるわ!」
「ああ、そうだな。ありがとう」
(さっきは、何で止めちゃったのかな、私?)
自分で自分の行動の意味が分からなくて、ラリサは首を傾げた。
※―※―※
夕食は、ラリサが担当する事になっていた。
――正確には、食事を作れるのが彼女しかおらず、必然的にそうなったのだ。
父親や兄たちと違い、氷魔法――どころか魔法すらまともに使えなかった幼少時代のラリサが、無力感に苛まれて心が折れないようにするために、何か一つで良いから自分にも〝出来ること〟があれば、と思って始めたのが、料理だった。
全く上手く行かない氷魔法の訓練の合間に、時に泣きながら、時に打ちひしがれながら、料理を作るようになった。
そして――気付いた時には、料理が得意になっていた。
いつしかそれは、彼女にとって、〝私にはこれがある。何も出来ない訳じゃない〟という心の支えになっていた。
無論、本当に出来るようになりたかったのは氷魔法であり、その代替にはならなかったが、大袈裟ではなく、〝自分が生きていて良いと思えるための、最後の砦〟にはなってくれていた。
そして、現在。
土魔法で人数分の椅子を用意したルドが、土鍋を創り、包丁も、土魔法で土中から鉄を掻き集めて創造、まな板も同様に創り、薄い鋼鉄片である火打ち金も創造しつつ、感知魔法で火打ち石に適した石を探し出して、火打ち金に打ち合わせて火花を生じさせて、集めた枯れ葉を燃やして火を起こし、枯れ枝を薪とする。
そして、村の宿屋で、主人から密かに色々と食材を貰って来ていたラリサが、革袋から取り出して、料理をしてくれた。
(あの短時間で、よくそんな事が出来たな! すごいな……)
どうやら料理することが好きらしく、鼻歌交じりに手際よく夕食を作ったラリサが――
「ルド君、マリちゃん、ご飯出来たわよ!」
――二人に呼び掛けつつ振り返ると、マリリナは――
「もぐもぐもぐもぐ……ん?」
「きゃああああああああああ!」
――またムカデを食べていた。




