25「世界地図の違和感(後)」(※世界地図(一部追記)アリ)
マリリナの指摘を意にも介さず、魔剣は滔々と語り始める。
「二千五百年前の事っす。ドワーフとモンスターのハーフである男と、モンスターであるダークエルフとエルフのハーフである女がいたっす。二人はそれぞれ、モンスターとドワーフ、そしてダークエルフとエルフの双方から虐げられていたっす。そんな二人が、ある日出会って、お互いの境遇が似ていた事もあり、恋に落ちて、結婚したっす。彼らはデホティッド皇国にある森の中――ドワーフとエルフの二つの集落から少し離れた場所――で、静かに暮らしていたっす。そして、子どもが出来た際に、その子どものために、〝運命を切り拓く事が出来るように〟と、ハーフドワーフの男が全生命力を注ぎ込んで、命懸けで剣を創り上げて、その刀身に対して、ハーフエルフが同様に全魔力を注入して、同じく生命を賭して魔法を掛けたっす。それがおいらっす!」
仲間たちにその声を伝える役目を負うルドだが、その役目を放棄して――
(どういう事だ? 明らかに海だが――)
(ここに、〝森〟があった? 二千五百年も前だから、地殻変動が起きたか?)
(いや、そんな二~三千年程度じゃ目に見えて変化するような地殻変動は起きない)
(海底火山が噴火して、海だった場所に突如島が出来たりする例はあるが、大陸だった場所が海になるって、一体何があったんだ?)
――混乱する頭で、何とか考えを纏めようとする。
「あなたの故郷は、海の中なの?」
ラリサの問いに、自分語りを終えた魔剣が、漸く彼女らが何に戸惑っているのかに気付いた。
「あれ? おかしいっすね。確かにここら辺だったっすけど」
首――があれば傾げていたのではないかと思われる声色で魔剣が呟く。
「島があったんじゃないか? どうだ、バル?」
そんな彼を手に握るマリリナが、魔剣〝バルヴィング〟の事をバルと呼びつつ、もう一つの可能性を指摘するが――
「海の中でも、島でもないっす! 大陸っす!」
何で分かってくれないのだと言わんばかりに、魔剣が答えた。
その声を仲間たちに伝えたルドは――
(海中でもない、島でもない。じゃあ、一体どういう事なんだ?)
――更に思考を重ねようとするが――
ギュルルルルルルルルルルルルルルルル!
――地獄の底から響くような――
「腹減った」
――轟音が、マリリナの腹部から聞こえたため――
「ご飯にしましょ!」
――ラリサがそう提案して、魔剣の故郷に対するルドの思考は途切れた。
「いや、それよりも、直ぐにこの村を去ろう」
「え? ルド君、何で?」
「コイツらが意識を取り戻すと、ややこしい事になるからだ」
「そうだった! 忘れてたわ!」
ルドの視線の先に目をやったラリサは、少し離れた場所に倒れているウェザビーの部下たちを見て、最優先事項に思い至る。
ここで起こった事を忘れているとの事だが、マリリナを含む自分たちがここにいて彼らと鉢合わせする事は、危険過ぎる。
ネックの事をどれだけ信頼して良いかは未だに未知数だが、〝ネクロマンサー〟である彼女による〝記憶操作魔法〟がもし不完全なものだった場合、自分たちを再び目にする事で、失われていた記憶が蘇る可能性は大いにあるだろう。
「という訳で、悪いが、マリリナ。今直ぐ旅立つぞ。急いで荷物を纏めてくれ」
「承知した」
「……? どうした、早く荷物を纏めてくれ」
「は? もう準備出来てるぞ」
魔剣を掲げてみせるマリリナ。
どうやら、彼女は、〝この身一つ――と魔剣――があればそれで事足りる〟らしい。
「マリちゃん、すごい!」と、ラリサが目を丸くする。
「そうか、じゃあ行くぞ」
「うん!」
「承知した」
こうして、三人パーティーとなったルドたちは――
「父さん、母さん……行ってきます」
――マリリナの家を後にして――
――一旦村の宿屋へと戻って、ルドとラリサの荷物を纏めて――
――村を出た。
※―※―※
ルドたちが出立した直後。
氷塊から解放されたのが一番遅かったにも拘わらず――
「……あれ? ここは……?」
――獣人少女であるワンレイが、ウェザビーの部下たちの中で一番早く意識を取り戻した。
「何でワンはこんな所で寝てるのだ?」
立ち上がったワンレイに対して――
「おう、やっと目が覚めやがったか。って、他の奴らはまだおねんねしてやがるし。揃いも揃ってよぉ、集団で貧血で倒れて気絶とか舐めてんのか? てめぇら、俺様の足を引っ張ってんじゃねぇよ。今度から遠征に行く前には、ゴブリンの血でも啜って精をつけておきやがれ」
――ウェザビーが近寄って来て、悪態をついた。
虚ろな瞳でぼそぼそと喋る彼を真っ直ぐに見据えたワンレイは――
「団長、いつの間に死んだのだ?」
――首を傾げた。
「あ? 何言ってんだてめぇ? ふざけてんのか?」
ウェザビーが怒気を孕んだ声で脅すが、ワンレイは微動だにしない。
鼻をスンスンとさせる彼女は、どうやら、匂いで〝ウェザビーの生死〟を一瞬で嗅ぎ分けたらしく――
生前と同じ顔且つ同じ声で話してはいるが、肉体が死んでいるウェザビーと、気絶させられているその他の面々。
彼らを一瞥したワンレイは――
「ここで誰かが、何らかの方法で団長を殺して、他の奴らを気絶させたのだ。具体的に何が起こったのか、ワンは覚えていないのだ。でも――」
――ルドに羽交い締めにされた自身の身体の匂いを嗅ぐと――
「見付けた! コイツなのだ! 記憶は消せても、匂いは消せないのだ!」
――尻尾をピンと立て、茶色のセミロングヘアを逆立て、鼻の上に皺を寄せると、その口から獰猛な獣の牙を剥き出しにした。




