20「家」
「……クソが……! ……俺様……が……こんな……クソ……ガ……キ……に……!」
分断された半身で、吐血しながらウェザビーは――
「……だが……魔法……騎士団……団長を……殺した……てめぇは……これで……立派な……御尋ね……者……だ……! ……この……国の……最高……戦力を……手に……掛けた……てめぇは……勿論……死刑だ……! ……ザマァ……見やがれ……! ……ギャハ……ハ……ハ……ハ…………」
――顔を歪めて、笑いながら――息絶えた。
と同時に、マリリナの闘気が消滅、手から力が抜けて、魔剣が地面に転がり――
自分が守った両親の墓と、守れずに全壊させられてしまった生家に目をやる。
ほんの短い期間だったが、優しく温かい両親と、幸福な日々を過ごした生家は、崩壊してしまった。
それはまるで、両親がもう一度殺されたかのような痛苦を彼女に与えて――
「……父さん……母さん……」
――膝から崩れ落ちるマリリナ。
「マリちゃん……」
ラリサは、何と声を掛けて良いものか分からず、その様子をただ見詰める事しか出来ない。
そんな中、ルドは、森の中から戻って来て、スタスタとマリリナに歩み寄ると――
「マリリナ。お前のその力が必要だ。俺たちの仲間になれ」
「ちょっと、ルド君!?」
――無表情でそう言った。
慌てて駆け寄って来たラリサが、ルドの腕を引っ張る。
「ルド君、空気読んで! 今マリちゃんがどんな気持ちなのか、少しは考えて!」
モンスターと盗賊に殺されたと思っていた両親が、実は幼馴染の男により、非常に身勝手な理由のために殺され、自害を選ばされていたのだ。
更に、両親との大切な思い出が詰まっている家が、あろうことか、その仇によって破壊されてしまった。
その悲しみは、怒りは、他者には想像すら出来ない程のものであろう。
すると、両膝をつき俯くマリリナが、虚ろな目で答えた。
「……断る……」
それを聞いたラリサが、溜息を漏らしつつ、ルドに語り掛ける。
「そりゃそうよ。誰がこの状況でそんな誘いを受けるって言うのよ?」
そして、「ごめんね、マリちゃん」と謝りつつ、「さぁ、行くわよ、ルド君」と、マリリナを暫く一人にしてやるために、その場を立ち去ろうと、声を掛けるが――
「その――剣を少し見せてくれ」
「ルド君!? 私の話聞いてた?」
――一応気を遣ったのか、〝魔〟剣とは言わなかったルドだが、ラリサは怒ってルドに詰め寄る。
「それがルド君の大事な事だってのは分かるわ。でも、今すべき事なの、それ? 後で良いでしょ!」
目を吊り上げるラリサだったが、ルドは意にも介さない。
「どうだ?」
「……別に構わない……」
「感謝する」
俯いたまま為されたマリリナの返事に対して礼を言うと、ルドは彼女の傍に転がっている魔剣を拾い上げた。
ずっしりと重く、軽々と振り回していたマリリナの身体能力の凄まじさが、それだけで窺い知れる。
ルドは、その血のように赤い刀身を覗き込んでみるが――
「……やはり駄目か」
――自身の姿を映す事は出来なかった。
「もう、ルド君ったら!」
頬を膨らませてプリプリと怒っているラリサを放置しつつ、ルドは、「ありがとうな」と言うと、マリリナの傍に魔剣を置いた。
そして――
「礼と言ってはなんだが――」
――と呟くと、両手を翳した。
ルドが発動した土魔法によって――
――とある〝変化〟が生まれて――
――次々と成し遂げられて行くその光景に――
「!」
――つい先程まで怒っていたラリサも、息を呑み――
「………………?」
異変に気付いたマリリナが、顔を上げると――
「! これは……!」
――そこには――
――〝彼女が生まれ育った家〟があった。
粉々に破壊されたはずの、生家が。
両親との思い出の場所が。
――否、よく見ると、元に戻った訳では決してなく――
「砂・泥・土・粘土・石・岩を使って、木材と木材を、出来るだけ元の形に沿うようにくっつけた。まぁ、完全に元通りとは行かないが、大分マシになっただろ?」
土を接着剤のように使う事で、修復されたらしい家を見たマリリナは――
――もう二度と見ることの出来ないと思っていた光景に――
――感極まり――
「……ありがとう……! ……ありがとう……!! ……ありがとう……!!!」
――大粒の涙を零すと、何度もそう呟いた。




