14「二人の助力、深夜の会話、予期せぬ来訪」
庭にて、自分の周囲数メートルで食事を終えたマリリナは――
「ふぐおおおおおおおおおおおおおおおお!」
――眼前の聖剣――に見せ掛けた魔剣――の柄を勢い良く握ると、爽やかな朝の陽光の中、暑苦しい声を上げて、踏ん張り始めた。
「よし、戻るぞ」
「……え? あ、うん」
先程のムカデのインパクトが大き過ぎて、心ここに有らずといった様相だったラリサは、ルドの声に数瞬遅れて反応して、慌ててその後を追った。
宿に戻ると、朝食を食べながら、ルドが口を開く。
「恐らく、マリリナの食事は朝の一食のみで、日中は休みなく剣に挑み続けているのだろう」
「え!? そんな無茶してるの!? 倒れちゃうわ!」
手で千切ったパンを口許に運ぶ直前で止めると、ラリサがマリリナの身を案じた。
「倒れないから、今までやって来られたんだろう。……いや、もしかしたら、過去には倒れた事もあったのかもしれない。だが、それでも立ち上がり、決して諦めなかったんだ」
「そこまでして……」
壮絶な過去を持つマリリナ。
一体、どんな思いで、剣と向き合い続けて来たのだろうか。
「どうにかして、力になれないかな……?」
ラリサの口から零れた言葉。
それはまるで、祈りのようだった。
自分が〝氷魔法〟をきちんと使えるようになったのは、ルドの協力――かなり荒療治ではあったが――のお陰だ。
だが、〝戦闘による実戦訓練〟が奏功した前回と違い、今回は、〝剣を抜く〟という、その前段階の話だ。
力になりたい、されど、何をすれば良いか分からない。
そんなラリサに対して、ルドは――
「勿論、俺たちに出来る事はある」
「! 本当?」
――力強く頷いた。
「私、何すれば良いかな? 私に出来ることなら、何でもするよ!」
(何でも……)
出来ればその言い方はあまりしないで欲しいと内心で思いながら、ルドは告げた。
「差し入れだ」
「! 差し入れ! 気持ちが大事って事ね! 分かった! 私、差し入れする!」
(否定しないって、すごいな……とことん前向きだな……)
まだ差し入れの〝詳細〟を全く話していない段階で温かく受け止めてくれるラリサにちょっとした感銘を受けるルドだったが、それが他ならぬルドの発言であるために、絶対の信頼を寄せている、という点には、思い至らない。
※―※―※
その日から、ルドとラリサは、差し入れをするようになった。
「差し入れを夜の間に、アイツの周りに置いておくんだ。そうすれば、アイツが朝起きた時に、それが〝食べられるもの〟であれば、勝手に食べるだろう」
ムカデですら〝食べ物〟として判定されるのだ。
かなり緩い判定であるだろうし、食べさせるための敷居は大分低いと思われた。
ちなみに、〝差し入れ〟の内容だが――
――肉や野菜――ではなく――
――甘いもの――でもなく――
――パンや米などでもなく――
ラリサが、「あ、そういう事ね!」と、思わず膝を叩いたのは――
「シャクッ。むしゃむしゃむしゃむしゃ」
「あ! 食べてくれてる! 良かった~!」
――〝魔草〟と呼ばれる〝マンドラゴラ〟や、薬草や、薬に使われる非常に珍しい花など、〝筋力アップ〟のために役立ちそうな植物たちだった。
尚、マンドラゴラは、抜く際に、〝人間が聞くと死んでしまう〟という、〝致死性の悲鳴〟を上げるのだが、何故か「多分俺は大丈夫だろう」という、根拠のない自信を持っていたルドは、村人たちにマンドラゴラの群生地を訊ねて、大体の場所を聞き出した後は、感知魔法で感知して、正確な場所を把握して、ダンジョンそのものを近くに移動させるのと同様の方法で、群生地そのものを大地ごとある程度村の近辺まで移動させた上で、その時だけはラリサは置いて自分一人だけで現場に行ったところ、実際、引き抜く際に耳を劈くような悲鳴を聞いたのだが、何ともなかった。
二人の献身の甲斐があって、元々十分に逞しかったマリリナの肉体は、尋常ではない程に仕上がり、恐ろしい程の膂力を身につけていった。
――が。
「う~ん。今日もダメだったわね……」
――そこまでしても、魔剣を抜く事は叶わなかった。
※―※―※
マリリナと出会ってから、丁度一週間後の深夜。
「………………」
一人宿を抜け出したルドは、マリリナの家へと向かった。
「……ぐがー、ぐがー、ぐがー……」
世闇に鼾を響かせるマリリナの傍に近付いたルドは――
「話がある」
――そう切り出して、少し待った。
「……ぐがー、ぐがー、ぐがー……」
――だが、相も変わらずマリリナは熟睡中で、反応はない。
「……なぁ、聞こえているんだろ?」
確信を持ってそう問い掛けたルドに対して――
「……何用だ?」
――返事があり――
「やっぱり聞こえていたな」
――その晩、ルドは、何者かと会話を交わした。
※―※―※
その後――
村での滞在が二週間を越えた、ある日の昼下がり――
「お! いたいた! ハッ! 噂通り、本当にあの剣を抜こうとしてやがるとはな!」
――マリリナの両親の幼馴染であり、現魔法騎士団団長である男――ウェザビーが、白馬に跨り、部下数名と共に現れた。




