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13「マリリナの過去と現在」

 口から大量に溢れたそれが、床に血溜まりを作り――

 頬に掛かる美しく長い金髪には、血液がこびり付いて――

 薄っすらと開かれたままの虚ろな瞳が、こちらを見ていた――


 メイは、盗賊に襲われたらしい。


 後から分かった事だが、母親は、舌を噛んで自害していた。

 強姦されそうになって、犯されるくらいならと、自決したのだろう。


 誇り高き行為だ。

 相手に好き勝手させず、最後まで自分を貫いて死んだ。

 称賛する者もいるかもしれない。


 が、それが何の慰めになるだろうか。

 父に続き、最愛の母までもを失った。

 幼子にとって、これ以上の絶望などありはしない。


 マリリナは、既に冷たくなっていた母親の亡骸に縋り、ただただ泣き続けた。


 尚――モンスターの時と同じく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


※―※―※


 その後。

 マリリナの祖父母は、父方も母方も、どちらも死んだ子どもの事を思い出してしまうため、その悲しみに耐えることが出来ず、この村にはい続けられないと、出て行ってしまった。


 たった二ヶ月弱の間に最愛の両親を失ったマリリナは――

 ――家のリビングにて、盗賊に割られたままの窓から外を――庭を見て――


(もう、あたしには、これしかない……!)

(父さんが人生を掛けて、母さんが応援していたこと……!)


 ――庭に出ると――


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ――父親の遺志を継ぎ、狂ったように〝聖剣〟を抜こうとし始めた。


 そして、現在に至る。


※―※―※


 宿屋の主人の説明を聞いた後。

 一階の小さな食堂で、ルドとラリサは夕食を食べた。

 ――が。


「………………」

「………………」


 ――先刻の話がずっと頭に残っていて、何を食べたのか、どんな味だったのかも分からない程だった。


 無言で食事を終えた二人は、そのまま自分の部屋へと向かった。


 余りにも重く苦しい過去を背負った少女。

 たった一つ残された希望の光が、あの剣で。

 だが、父親が人生を掛けて挑み、母親も全力でサポートしていた、その剣すらも――

 ――実は、聖剣ではなく、魔剣で……


(救いが無さ過ぎるな……)


 遣る瀬無い思いを抱えたまま、ベッドに腰掛けたルドは――

 

(しかし、だからこそ……!)

(アイツに〝目標達成〟させてみせる!)

(何としても! 絶対に!)


 ――拳を強く握り締め、決意を新たにした。


※―※―※


 翌日の早朝。


「ふぁい……おはよう~、ルドく~ん……」

「悪いな、朝早……きゅっ!?」


 ――まだ日が昇る前に、ラリサの部屋の扉をノックしたルドの目の前に、目を擦りながら扉を開けて、ラリサが現れた。


「んん? どしたのぉ?」

「いや、別に……」


 まだ半分微睡んでいるのか、とろんとした半覚醒状態のラリサは、ネグリジェ姿で、思わず奇声を上げてしまったルドは、視線を逸らしたまま、まともに彼女を見られない。


 「コホン」と咳払いして仕切り直すと、顔を背けたまま、ルドは言葉を継いだ。


「悪いが、今からマリリナの所に行く」

「ふぇっ? 今からぁ~?」

「ああ、大事な事を確認しないといけない。朝食も、その後に食べる予定だ。だから、直ぐに準備してくれ」

「ん~、ルドく~んがそう言うならぁ~、分かったぁ~」


 ふにゃふにゃの状態だったが、何とか会話が成立した事に安堵したルドは、扉を閉めた。


 ――数分後。


「さぁ、ルド君! 行くわよ!」

「……あ、ああ……」


(切り替えエグいな……)


 いつものローブに身を包み、黒帽子を被ったラリサが、元気潑溂といった様子で魔法の杖を高々と掲げた。


※―※―※


 日の出前のまだ薄暗い中、村を抜けた二人は、マリリナの家に辿り着いた。


「ここから観察するぞ」

「うん、分かったわ!」


 ギリギリ敷地内に入った辺りでしゃがむと、ルドたちは、相変わらず大きな鼾を掻きながら大の字で地面に寝転び爆睡している筋肉少女に目をやった。


 すると、東の空から太陽が顔を出し、世界が白み始めると同時に――


「あ! 起きたみたい!」


 ――鼾が止まり、マリリナがむくりと上半身を起こした。


「って、可愛い! マリちゃん、すごい美人さんだったんだね!」

「……ああ、そうだな」


 剣を引き抜こうと顔を歪めている時は全く気付かなかったが、改めてまじまじと見てみると、とても整った顔立ちをしている。

 きっと髪は父親似で、顔は母親似なのだろう。


「美少女剣士って、絵になるわよね!」


 〝凛々しい表情をしたマリリナが剣を高く掲げる構図〟を想像したラリサが、胸の前で両手を交差させて、うっとりとした表情を浮かべるが――


 まだぼんやりとした意識の中、マリリナは、手を伸ばすと――


「ケロッ!?」

「モグモグモグモグ。ごくん」

「……え? 嘘……よね?」


 ――近くを跳躍していた()を捕まえて、一瞬の躊躇もなく口に放り込むと、咀嚼して飲み込んだ。


 立ち上がったマリリナは、素早く周囲数メートル以内に生えている草を千切っては口に入れて、食べて行く(引っこ抜くともう生えて来ないので、工夫しているのかもしれない)。


 両親の墓の周りの雑草も綺麗に平らげた彼女は、最終的に、〝常に外に置いておいて、雨水を溜めている複数の大きな木製コップ〟の一つに手を伸ばして、そこに半分ほど残っていた雨水を飲んで、食事を終えるのだが――


 その少し前――デザートとばかりにマリリナが捕獲して口にした――


「無理無理無理無理無理いいいいいい! やめてええええええええええええええ!!」


 ――()()()を目撃したラリサは、この世のものとは思えない悍ましいものでも見たような表情で、絶叫した。

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