11「宿屋での冷や汗と情報収集」
村に唯一あった、食堂付きの小さな宿に宿泊する事になったルドたちは――
「長丁場になりそうだな」
「そうね。どのくらい泊まる?」
「……取り敢えず一週間だな。その後は、その都度延泊しよう」
――まずは、受付で料金を先払いする事にした。
〝マリリナの手助けをして、あわよくば仲間になって貰うため〟と、〝魔剣の刀身にルドの姿が映らないかを試してみるため〟に、この村に滞在するのだ。
「おう、坊主たち、一週間とは長いな。素泊まりで一晩大銅貨一枚だ。朝晩食事付きだと、更に大銅貨一枚加算、朝晩のどちらかのみだと、銅貨五枚分追加だ」
「すごいわ、ルド君! 王都で一番の安宿に泊まってたのに、もっと安い宿があるだなんて!」
王都の宿で目にした洗練された所作に比べると、凡そ接客業とは思えない、髭を蓄えた宿の主人のぶっきらぼうな説明だが、ラリサが感動の声を上げて、瞳をキラキラと輝かせる。
名家の生まれのはずだが、冒険者になってからの貧乏暮らしがすっかり染み付いてしまったらしい。
王都でラリサ――と途中からルドも――が泊まっていた宿は、一泊大銅貨三枚(食事をせずに、素泊まりの場合)だった。
尚、この世界には、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の計六種類の通貨があり、人間の住む三ヶ国では共通して使える。
現代日本で言うと、それぞれ、百円、千円、一万円、十万円、百万円、一千万円の価値がある。
現時点でのルドたちの所持金は、大銀貨三枚、銀貨五枚、大銅貨二枚、そして銅貨六枚だ。
(まぁ、ド田舎の木造安宿だからな)
心の中でポツリと呟きつつ、ルドは――
(そんな事よりも、確認しなければ)
――もっと重大な事柄を問い質す。
「それよりも、主人……勿論、別々の部屋だよな?」
「は? 一部屋じゃないのか?」
「違う。別々の部屋にしてくれ」
「二部屋だと、料金が二倍掛かるが、良いのか?」
「全く問題ない」
(危なかった……!)
額の冷や汗を拭うルド。
「また別々にするの? 私は別に、一緒でも良いわよ?」
清流の如く綺麗な瞳で見詰めるラリサに――
(いや、こっちが困るんだよ……!)
(そんな事になったら、恐らく一睡も出来ない……!)
(〝目標達成〟のためには、睡眠確保は重要項目だ!)
――女性に免疫のない自身の内心を伝える事も出来ず、ルドは、「コホン」と咳払いすると、答えた。
「……冒険者ギルドの依頼で貯めた金が結構あるから、暫くは持つ。問題ない。別々の部屋の方が、しっかり休めるしな」
「そう? なら良いけど」
ルドは、改めて宿屋の主人に向き直ると、告げる。
「二部屋で、まずは一週間。朝晩食事付き。その後も延長するかもしれないが、その場合は、その都度払う事にする」
「分かった。銀貨二枚と大銅貨八枚だ」
背負っている革袋から、更に小さな革袋を取り出して、そこから料金を支払ったルドは、情報収集する事にした。
「村の外れ――囲いの外にある一軒家に住んでいる少女の事だが、あの子は何をしているんだ?」
「私も気になってた! マリリナちゃん――マリちゃんのこと、教えてください!」
主人は、髭を弄りながら、「ああ、アイツか……」と呟くと――
「〝聖剣狂い〟の親父と、そんな男に惚れちまった哀れな女……そんな二人が、それぞれモンスターと盗賊に殺されちまってな。一人残された不幸なガキが、アイツさ」
――淡々と、そう告げた。




