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10「聖剣の正体」

「え? だって……石碑だって立ってるのに……」

「あの剣をあそこに突き刺した奴によるフェイクだろう」


 この世界は、分かりやすい真実のみで構成されている訳ではない。

 宝箱に擬態するモンスターもいるし、人間だって、他者を欺く為にわざと嘘を吐く者もいる。


 〝目に見えている物が真実である保証〟など、どこにも無いのだ。


「まぁ、どんな意図があったかは分からないが」

「あの子、あんなに頑張ってるのに……酷い……」


 「うぎいいいいいいいいいいいいいいいい!」と、相変わらず吼え続ける筋肉少女を、やるせない表情で見詰めるラリサ。


 言われてみると、少女が引き抜こうと必死になっている剣の柄は漆黒で、その刀身は血のように赤い。


 あれでは、まるで――


「あの剣って、聖剣じゃないなら、もしかして――」

「ああ。あれは魔剣だ」

「!」


 事も無げにルドが、ラリサの言葉を継いだ。


「そんな……」


 魔剣は、聖剣とは対の存在だ。


 無論、王都の武器屋に並んでいるような平凡な剣に比べれば、その切れ味・硬度・耐久力、全てに於いて格段に勝り、特別な力を有するものも少なくない。


 だが、〝魔〟の剣であるため、〝使用者に力の代償を支払わせる〟事が多いのだ。

 冒険者の中には、魔剣を〝呪われた武具(カーストウェポン)〟と呼んでいる者たちもいる。


「ぐぼおおおおおおおおおおおおおおおお!」


(本来なら、()()()()()()()()なんだが……)


 咆哮を上げる筋肉少女は、全身から活力が溢れ出しており、健康そのもので、病人にも、怪我人にも見えない。


(まだ抜いていない――使用していないから、代償を支払う必要が無いのか?)

(それとも――)


 ――と、その時。


「見ろよおい! またマリリナがバカやってるぞ!」


 ――村の子どもたち三人が、獣道を掻き分けてやって来た。


「本当だ! もう何年やってんだよ! アホくせー!」

「そんな事やったって、無駄なのに!」

「バカのマリリナ~! バカリナ~!」


 変顔をして、臀部をこちらに向けて、自分で叩いて挑発する子どもたち。


「ちょっと! この子は、真剣に頑張って――」


 頬を膨らませたラリサが、身を乗り出して抗議しようとするが――


「って、ルド君!? 何で止めるの!?」


 ――ルドが手で制止した。


「恐らく必要ない」


 ただそう呟くルドが視線を向けるのは、子どもたちではなく――


「うがああああああああああああああああ!」


 ――揶揄された事にすら気付いていなさそうな、筋肉少女――マリリナだった。


 子どもたちは、少しすると――


「ちぇっ! 帰ろうぜ!」

「ああ、つまんねー!」

「帰ろ帰ろ!」


 ――興味を失って、村へと帰って行った。


 夕闇が迫る中、ルドは、顎を触りつつ、思考に耽る。


(さて。どうしたものか)

(『それは聖剣じゃない。魔剣だ』と伝えるのは簡単だが――)

(いや、止めておこう)

(それよりも――)


 徐に手を翳して、感知魔法で探ると――


(やっぱりか……)


 魔剣が突き刺さっているのは、〝地面に埋まっている巨大な岩の表面〟だった。

 凄まじい膂力を持っているマリリナが何年掛かっても引き抜けない剣――しかも、持ち主を選びそうな聖剣ではなく、魔剣――となると、何かカラクリがあると予想していたのだ。


(俺が、土魔法で岩ごと掘り起こして――)


 と、そこまで考えたルドは、かぶりを振った。


(いや、それじゃあ、これまでのアイツの努力を無駄にしてしまう)


 そうこうする内に、完全に日が暮れて――


 辺りはすっかり暗くなり――


「――ああああああ……ああ……あ……」


 魔剣から手を放したマリリナが、まるで電池が切れた玩具のように、パタリと後ろに倒れると――


「……ぐがー、ぐがー、ぐがー……」


 盛大にいびきを掻き始めた。


「よっぽど疲れていたのね……そりゃ、あんだけ頑張ったんだもの……」


 〝睡眠〟という形で初めて〝休息〟を取っている所を目撃したラリサはそう言うと――


「ねぇ、ルド君。家の中に運ぶの、手伝ってくれる?」


 ――ルドの方を向いて、そう語り掛けた。


 ルドは、もう一度注意深く周囲を観察すると――


「いや、恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え?」


 ――そう告げた。


「でも……」

「大丈夫。コイツはこれまで、この方法で何年もやって来たんだ。死にもしないし、病気にもならないし、体調不良になる事も無いだろう。〝鑑定魔法〟で健康状態も見たが、何の問題も無かった」

「うーん……まぁ、ルド君がそこまで言うなら……」


 〝外で寝ている少女をそのままにしておく事〟に対して後ろめたい気持ちを抱きつつも、渋々頷いたラリサは、ルドと共に、獣道を通って、村へと戻って行った。


 ちなみに、この時の〝外で地面の上に寝るだなんて、可哀想〟という、ラリサがマリリナに対して向ける視線は、翌朝に、()()()()()()、〝()()()()()()()()()()()()()〟へと変化するのだが、この時のラリサには、まだ知る由も無かった。

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