9「聖剣」
「あの子が……?」
「ああ、間違いない」
手を翳して〝鑑定魔法〟を使いつつ、ルドがラリサの問いに頷く。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
地面に突き刺さった剣を抜こうと、雄叫びを上げながら踏ん張る、赤色のショートヘア少女は、身に付けているのは襤褸切れで、胸と腰回りのみを辛うじて覆っている。
その結果、〝矢鱈と肌の露出が多い年頃の少女〟という光景が出来上がるのだが、うら若き乙女とは思えぬ野太い叫び声と、般若もかくやという程に歪められた顔、そして、大量の汗が滴る肢体は、筋骨隆々ここに極まれりといった風情で、一分の隙もない程にビルドアップされており、世の男たちが妄想する色香とは対極に位置する存在だ。
「おごわあああああああああああああああ!」
ルドたちに気付かず、ひたすら眼前の剣のみに集中する少女に、何とか話を聞いてもらおうと、ラリサが遠慮がちに――
「えっと……お邪魔します」
――敷地内――村の囲いの外であり、尚且つ、この家を取り囲む塀などは一切無いが――に入って行く。
息を一つすると――
「こんにちは! 私は、ラリサ! はじめまして!」
いつもの太陽のような笑顔で、ラリサは近付いて行った。
その後ろから、ルドもついていく。
「いきなりごめんなさい。でも、あなたに、大切なお話があって」
「があああああああああああああああああ!」
「あ、こっちはルド君。私たちは、見ての通り冒険者なんだ」
「ごぶおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「それでね、私たち、〝目標達成〟を大切にしていて。自分のは勿論、仲間の〝目標〟も応援したいって思っているんだ」
「どわああああああああああああああああ!」
「でね、あなたの〝目標〟も応援したいって思っているの。そして、もし出来たら、仲間になってくれたら嬉しいなって」
「ぶぎいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「えっと……どうかな?」
「ぎゃばあああああああああああああああ!」
横から語り掛けるラリサに、気付いているのかいないのか、少女は見向きもしない。
ただ、咆哮を上げながら、ビクともしない剣を、全身に青筋を立てながら、全力で引っ張り続けているだけだ。
「……どうしよう、ルド君? 全然話を聞いて貰えないわ……」
「………………」
ルドは、少女の背後に回って、少し距離を置いて、周囲を観察する。
左手――少し離れた場所には、何故か大きな木製コップが幾つか並んでいた。
少女の真後ろに当たる後方には、二ヶ所土が盛り上がっている箇所があり、それぞれ上に少し大きめの石が置いてある。最低限の手入れはしてあるのか、雑草に埋もれたりはしていない。
少女が一人でいる事と、荒れ放題の家、そしてその中に人気が無いことから導き出されるのは――
(両親の墓、か……)
どうやら、彼女の親は、既に他界しているらしい。
視線を戻すと、少女が引き抜こうと一心不乱に挑戦し続ける剣、その右側、少し手前には――
(〝聖剣〟か……)
――〝聖剣〟と書かれた細長い石碑が立っている。
すると、ラリサもルドの直ぐ傍に歩み寄って来た。
「あの子、勇者になりたいのかな?」
耳元で囁くラリサに、ルドは、顎を擦りながら思考を重ねる。
筋肉少女はルドよりも少し背が高く、鍛え抜かれた肉体が生み出すであろう膂力は、男女問わず、大抵の冒険者たちを遥かに凌駕するだろう。
だが――
「仮になりたがっているとしても、無理だ」
「え? 何で?」
ルドの呟きに、ラリサが目を瞠る。
〝目標達成〟を何よりも重んじるルドらしからぬ物言いだったからだ。
が、ラリサが何か言うよりも早く、ルドが発言の真意を伝える。
「勘違いするな。アイツは〝剣士〟であって、〝勇者〟じゃない。〝勇者〟の方が〝剣士〟よりも優れている、なんて事は誰にも言えない。もし〝世界を救う〟という〝目標〟を持っているなら、〝剣士〟であっても、別に達成は不可能じゃない」
「それはそうかもしれないけど……。でも、あんなに必死になって、聖剣を抜こうとしてるのに……」
切なそうな表情で、ラリサが呟く。
そんなラリサを一瞥しつつ、ルドは言葉を継ぐ。
「アイツが剣を抜いたとしても、勇者になれる可能性は皆無である理由が、もう一つある」
一つは、先述のように、ルドの〝鑑定魔法〟によって読み取った彼女の情報は〝剣士〟であって、〝勇者〟ではなかったから。
そして、もう一つは――
「必死に引き抜こうとしているアレは、聖剣なんかじゃないからだ」
「!?」
――もっと根本的な問題だった。




