8「剣士の少女が住む村」
街道から外れ、左手――北に見える森の中に入り、小さな道を頼りに進む事、三十分。
突如、鬱蒼と生い茂る木々が途切れて、開けた場所に出たルドとラリサは――
「ここだ」
「うわぁ~! こんな所に村があったのね!」
――目的地へと到着した。
小ぢんまりとした村の周囲は、木製だが意外と頑丈そうな、二メートル程はある塀に囲まれている。モンスターまたは獣を警戒しての事なのかもしれない。
入口には、粗末な銅剣を腰に差した以外は村人然とした布の服を身に纏っただけの男性が立っている。
「こんにちは!」
ルドと違い、積極的に他者とコミュニケーションを取るラリサが、大きな黒い三角帽子を取り、ここでもにこやかな笑みを浮かべて、見張りの男に話し掛ける。
「おや、こんにちは、若い冒険者さん。旅の途中かな?」
「はい、そうなんです。中に入っても良いですか?」
「ああ、良いとも。どうぞ」
「ありがとうございます!」と、ぴょこんと御辞儀しながら男性の脇を通るラリサに続いて、ルドも、「どうも」と、会釈しながら村の中へと入る。
(すごいな……! 俺には到底真似出来ない!)
前世では自他ともに認める陰キャであったルドにとって、ラリサの行動は全て、己と対をなす〝陽キャ〟そのものだった。
村に入った後も、ラリサは村人たちと挨拶を交わし、ルドはその後をついていきながら、観察する。
石造建築の王都と違い、木造の家が建ち並ぶ村の中。
そろそろ夕刻という事もあり、森の中にて狩猟や山菜採りに勤しんでいた者たちが戻って来て、それぞれの家の入口で家の者たちと言葉を交わしている。
そして、まだ仕事に従事出来ない年齢の子どもたちが、日が落ちるまではと、ギリギリまで走り回って遊んでいた。
一見すると――
(何の変哲もない、ごくごくありふれた平凡な村だな)
――そう結論付けたくなる。
ルドも、内心でそう思い――
(こんな所に、剣士の少女なんて本当にいるのか?)
――自身の〝感知魔法〟の精度に対して疑念を抱いた――
――次の瞬間――
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「「!?」」
――突然響いた〝獣の咆哮〟に、思わずルドとラリサは、足を止める。
「何、この声……?」
「……獣……モンスター……いや、違う……。これは……」
――良く聞くとそれは――
「うがああああああああああああああああ!」
――人間の――少女の叫び声だった
「行ってみよう」
「う、うん!」
村人たちは慣れているのか、誰一人として動揺していない中、ルドとラリサは、北東へ向かって走っていった。
「んぎいいいいいいいいいいいいいいいい!」
小さな村であるため、北東の端には、直ぐに辿り着けた。
――が。
「この向こうの方から聞こえるわ!」
――声は、村の〝囲いの外〟から聞こえてくる。
「行ってみよう」
「うん!」
塀には、村の子供たちが攀じ登ったのか、足跡が幾つかついているが、ラリサにそんな事はさせられないため――
「『土階段』」
眼前の地面を段差を付けて隆起させて、囲いの手前側と向こう側の両方に、即席の階段を生み出した。
「ルド君、ありがとう!」
頷きつつルドが上ると、ラリサが続いた。
村の外には、辛うじて道と呼べるものがあり、辿って行くと、森の中へと入って行った。
街道から村へと続いていた道も狭く小さかったが、今踏み締めている獣道の頼りなさに比べれば、まともな部類だったと言えるだろう。
「ごばああああああああああああああああ!」
そんなか細い道を、転ばないように注意しながら、しかし出来るだけ急いで走って行くと――
「「!」」
――一軒家があった。
もう何年も手入れされていないであろう、蔦塗れで、汚れて、窓も割れている、ボロボロの家が。
そして、庭では、一人の長身少女が――
「うぐわあああああああああああああああ!」
「「!?」」
――地面に刺さった一本の剣を抜こうとして、吼えていた。




