ヒロインを襲おうとした? それは取り巻きが勝手にやったことですわ
「有罪…」
最近、どうも動きが妙だと思って探らせてみたら、私の取り巻きが暗躍していたようね。
私を売って王太子殿下に取り入ろうってところかしら。
あの娘はそのつもりとして、王太子殿下が婚約者である私を陥れる理由となると…近頃ご執心の男爵令嬢もどきかしらね。
貴族とは名ばかりの庶子でしかないのだけれど、あのもの知らずを王太子妃に据えようとか、殿下は頭のネジが飛んでいるわね。
狂言で誘拐…もっとも、破落戸をきちんと雇った上で、それに合わせて警備を強化して失敗させるっていうもっともらしいやり方しているところは高評価ね。
捕らえられた破落戸から雇い主を白状させたら私の名前が出てくる、というわけね。
そんなに私が邪魔なら、穏便に婚約解消すればいいのに。
無理よね。
私と婚約しているからこそ王太子でいられるんですもの。
私の罪をもみ消す代わりに、私を急病ということにして表舞台から消しつつ、引き続き我が家の後見を取り付けようってところかしら?
まあ、頭の軽い殿下にしては、考えた方ね。
早めに調べさせてよかったわ。
今なら巻き返せるもの。
「スウィーティー様!?
これは一体どういうことですの!?」
「あなたがよからぬ者を雇って罪を犯そうとしていると知ったので、止めに来たのです。
いくら男爵家庶子が気に食わないからといって、違法な手段に訴えるというのは感心しませんわね」
「そんな? 私はスウィーティー様のためによかれと思って…」
「私がいつそのようなことを命じましたか!」
“私のため”などと責任をなすりつけてこようとしたので、はっきり言ってやります。
「答えなさい! 私はそのようなことを命じましたか!?」
「いえ…それは…」
「それは、なんです! 命じたかと訊いているのです!」
「命じられてはおりません…」
そう。“命じたかどうか”と言えば、そうなりますよね。
嘘を言えば、私を陥れようとしたところまで追及されることになりますもの。
「では、あなたが勝手にやったことです。責任は自分で取りなさい」
私は、家を通じて彼女の父である子爵に処分を命じました。
子爵は、破落戸を始末するとともに、彼女を領地で静養させることとしました。
いずれほとぼりが冷めたら、復帰するのでしょう。
誰も傷つかない素晴らしい幕引きとなりました。
ところで。
件の男爵家庶子は、数日後に行方不明になったそうです。
不思議ですね?
男爵家に送り届けられたところまでははっきりしているらしいのですが、翌朝、どこにもいなくなっていたとか。
まるで男爵家の中で誰かに攫われたかのようです。
殿下、どうされます? 男爵令嬢を守れなかった男爵を処罰しますか?