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望まぬ邂逅

 ベルベットが奴隷商を始末した、その夜。

 俺達は宿で、ハルカが助けようとした魔族の子の処遇をどうするか話し合っていた。

 魔族は長命が多いらしい。

 同い年位に見えたが、実際は二十四歳だった。

 そこそこ良い歳で、なぜハルカに縋りついたのかは分からないが。


 そしてこいつは今、ベルベットの前に座らされていた。

 こいつの名前はラキャイスペータ。長すぎるから俺たちはラキとよんでいる。

 改めて姿を見る。

 黒い髪の毛に色黒の肌。紋章のような痣があり、一見すると美少女にも見える。

 ラキは夜族と呼ばれる人型の魔族で、暗殺者の家系に連なる家の出らしい。

 だが、ラキは暗殺者の修行を受ける前に家を出て一人旅をしていたようだ。その折に紛争に巻き込まれ、奴隷として運ばれてきたようだった。

 夜族は一度主を決めたらその主を決して裏切らないという誓約を結ぶらしく、今はベルベットは誰の眷属にするか迷っているようだった。


「助けてくれた恩は必ず返します。どうか僕を旅に同行させてください」

「そう言われてもな……。クラウスお前が責任を取って眷属にしろ」

「俺がですか?」

「置いていったらまた奴隷になるかもしれんし、エンデ大陸まで連れて行くには時間がかかりすぎる」

「私は王国にいっぱいいるからね…」

「分かりました。で、だ…ラキャイスペータって言ったな。それでいいか?」


 ラキは頷き、俺の方に向き直った。そして何かを捧げるように手を出した。


「どうか少し血を頂戴出来ないでしょうか…誓約を結ぶのに必要なのです」

「…分かった」


 俺はベルベットから受け取ったナイフで親指を少しだけ切って、差し出された両手に血を付ける。

 ラキは神に祈る様に両の手を合わせ、深く俺にお辞儀している。


「…今ここに永遠の契約を誓う。我が主の血において、絶対の服従をここに…」


 ぶつぶつと呟き終えて立ち上がったラキは、もう一度俺に深くお辞儀した。


「誓約はここに完了しました。我が主は貴方だけです。クラウス様」

「ラキは何が出来るんだ?」

「夜族は名の通り、夜を好む性質を持っています。影に溶け込んだり、影を操ることも出来ます。このように…」


 ラキが手を振ると、ラキの影が伸びてきて、俺の足に絡みついた。

 影は、どうやら実体があるらしく掴まれている感触があった。


「影を使い周囲の索敵も出来ますが、基本的には夜の方が力が得られるでしょう」

「分かった。教えてくれてありがとう」

「お言葉を有難く頂戴いたします」


「クラウス、今度からはお前とラキでハルカを守れ。いいな。お前だけでは不安だしな」

「……分かったよ、ベルベット」


 失敗を帳消しには出来ない。それは分かっている。だから次は失敗しないようにしなければならない。

 一度失った信用を取り戻すのはすごく時間がかかるし難しいことも分かっている。

 どう挽回していくかは、今後の行動次第だ。


 ラキは俺の影で休むといって、俺の影に吸い込まれるように入っていった。

 俺はそのままベッドに横になる。

 明日からまた三人とプラス一人でマンデット大陸を目指すことになる。

 俺は、なんとか奮起し眠りについた。



 朝。俺はラキに起こされた。俺が寝坊助なのは相変わらず変わらないらしい。

 ベルベットとハルカは既に外で待っているそうだ。

 急いで支度を済ませ外に出る。ハルカが腕を組んで待っていた。


「相変わらずの遅さね、クラウス。ラキに起こされたの?ラキもあんまりクラウスを甘やかさない方がいいわよ」

「私の仕事はクラウス様の生活をサポートすることも誓約に入っていますので…」

「そう。まあいいわ。じゃあ行きましょう」


 ハルカの機嫌は悪く見える。何となくイライラしている。

 昨日の夜、ベルベットに叱られていたからかもしれない。それとも俺のせいだろうか。俺が不甲斐ないばかりに、皆の足を引っ張っている。

 そんな気がした。



 荷物の大半はラキが影に運ばせている。だから道中は楽である。

 次はゴースティア大陸の中心部にある都市「スルドレア」を目指す。

 そこなら、新しい馬も馬車も買えるだろう。

 先ほどの寂れた名もない町からスルドレアまでは徒歩なら約四日くらいで着く様だ。


 ハルカは相変わらず俺を見ない。ずっと、ベルベットかラキと喋っている。俺は後ろの方に居て、周囲を警戒しながら進んでいた。

 正直に言えば寂しい。前の様にもっと話をしてほしかった。

 不意に、前世を思い出す。そう言えば昔も、こういう風に最後はなるのだ。

 結局作った友達は、皆俺を嫌っていき、俺はいつも一人になる。

 俺は努力しているつもりだった。でも、周りはソレを認めてはくれないのだ。

 でもここでは違う。何とか表情に出さない様にして、意識を別の方に飛ばしてどうにか平静を保っていた。


 野宿の時もそうだ。ハルカは俺を無視しているわけではないのだが、心ここにあらずと言った風で、俺の話は聞き流されていた。

 俺はと言うと大分ショックで、泣きそうになっていた。


 寝ずの番をしている時にラキが話しかけてきた。

 他愛のない会話だ。その中に一つ気になるものがあった。


「クラウス様は好かれているようですねハルカ様に」

「はぁ?そんなわけあるわけないだろ」

「いえいえ、ハルカ様はいつもクラウス様を心配してらっしゃいますよ」

「でも、だって…それだったらどうして…」

「合わせる顔がないと言っていました。自分達を助けてくれたのに、自分は何もできていないと」

「本当か?」

「はい」


 ハルカは俺を心配してくれているようだが、先の件で何もできなかった自分を不安に感じていたのかもしれない。

 俺は、少しだけ安堵した。完全に嫌われているわけじゃないと分かったからっていうのもある。


 そのまま、俺とラキは焚き火を眺めていた。今までの思い出が頭を巡る。

 短い期間だが、やけに記憶に残っているものばかりだ。

 まだまだ旅は続く。これからも記憶は上書きされていくだろうが、ソレに少しだけでも楽しい思い出が混じっていることを俺は願っていた。



 遂に四日経って、ゴースティア大陸の中央都市スルドレアに辿り着いた。

 都市の周りは小麦畑が広がっている。

 俺自身拠点よりでかい都市は初めてだったから結構ワクワクしていた。

 どうやらハルカも同じらしい。ベルベットの手を引っ張って、入り口まで駆けていた。

 入り口の憲兵はベルベットの鎧の胸にあるツヴァルヘイグ猟兵団の紋章を見ただけで、何も言わず通してくれた。

 ベルベットの情報だとこのスルドレアは聖神フラーマ派であるらしく、紛争を終戦に導きかけているツヴァルヘイグ猟兵団は都市のヒーロー扱いらしい。


 ベルベットは素早く宿を取り、俺達はそのまま、食料や医療品を買うために市場へと繰り出した。

 ラキは都市に入る前から影の中にいる。

 魔族はあまり好かれないという理由だった。このゴースティア大陸では特に。


 市場は繁盛していて、多くの人々、多くの種族が行きかっている。

 魔族はいないことはないのだが、大体路地裏からこちらを見ている者が多い印象を受けた。

 ハルカは楽しそうに屋台を見て回っている。ベルベットがその後を追っていて、俺は相変わらず少し離れた場所からハルカを目で追っていた。


 不意に袖を掴まれ、立ち止まる。ラキが影の中から腕だけを伸ばして俺を止めたようだ。


「クラウス様、敵です。数は二。気配からして暗殺者です。少しずつですがこちらに詰めてきています」

「!、ベルベットは気付いているのか?」

「分かりません。どうされますか?」


 俺はベルベットに合図を送ろうとしたが、行きかう人々に隠れてしまった。


「ここで仕留める。手を貸してくれ、ラキ」

「了解です。相手はちょうど路地裏からこちらを見ているようです。今が好機ですね」


 俺はベルベットの後を追うのをやめて、静かに路地裏の方へと移動した。

 路地裏は暗く、何処かと言えば貧民街のようにも思えた。大振りのダガーを付けた覆面の男がハルカに狙いを定めている。どう見てもこいつが暗殺者だ。


「ラキ、足を止めろ」


 俺の命令にラキは影を伸ばし、暗殺者の足に絡みついた。

 暗殺者が驚いてこちらを向こうとした瞬間、後ろから俺は心臓を一突きし、一人目を仕留めた。

 もう一人が物音に気付いてこちらに駆け付けた瞬間、ラキの影が鋭利にとがり、もう一人を串刺しにして、暗殺者は絶命したと思う。


「よくやったラキ、ありがとう」

「…もう一人、います!」

「えっ…!?」


 鋭い弓矢が何本も飛んできて、ラキは器用に影を操作し、全て叩き落した。

 ラキはいつの間にか影の外に出ており、姿を見せている。


「遠目からの攻撃です、どうされますか?」

「近づいて片付ける!防御は任せた!」


 俺は言うが早いか、矢が飛んできた方向に駆け出した。

 走っている間も絶え間なく矢が飛んでくるが、ラキがすべて弾き落としている。

 そして俺は一本道の路地裏を抜け、表に出た。でかい時計塔の上に人影が見える。

 俺はその姿を見て、息を呑んだ。


 逆髪の男。髪の色は火に照らされて輝いている、金髪だ。

 俺はその姿に、顔に見覚えがあった。


「アクラ…」


 不思議と時計塔の周りには人が全くいない。人払いの魔法だろうか。


「久しぶりだな、クー坊。元気だったか?」

「どうして…」

「お偉いさんの依頼でな。仕方なくってやつだ」


 意味が分からなかった。ツヴァルヘイグ猟兵団経由の仕事ではないのかもしれないが、それでもアクラがハルカを狙う理由は分からない。


「どうして…!どうして、アクラ!」

「簡潔に言う。俺はスパイだ。ある所に雇われている。平凡なスパイだよ」

「スパイ?アクラが?何を言っている?!」

「お喋りは終わりにしないか?そろそろ殺し合いの始まりだからな!」


 信じられない。信じたくない。

 周りからどこに隠れていたのか分からぬ程の男たちが現れた。

 もう、やるしかない。躊躇いを捨てなければ殺される。


「クラウス様!指示を!」

「……敵生体を殲滅する、力を貸せ、ラキ!」

「了解!」


 影が俺の体を覆った。影は騎士鎧の形になる。力が湧いてくるのが分かる。


「行くぞ!アクラ!!」

「来いよクラウス、成長した姿を見せてみろ!」


 本当は泣きそうだった。

 それでも戦わなくちゃいけないのが今だ。

 俺は赤い剣、絶剣を構え、武器を持った男たちに突撃していった。

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