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ようこそ異世界

目を開けると、黒髪の女性が俺を覗き込んでいる。

 綺麗な女性だ。


(たしか俺は赤ん坊に…。ならこの人は母親か?)


 俺は恐ろしく冷静に判断した。中身は前のままなのだから当然ではあるかもしれない。

 その横に明らかにゲームでいう所の戦士みたいな筋肉質な若い男が居た。

 厳しい表情で俺を見ている。


(ならこっちは父親か…随分筋肉があるなぁ、おい)


 そんなことを考えていると、女性の方が指を伸ばしてきた。俺は小さな手を伸ばし指を掴む。女性は微笑んで俺を抱き上げた。


「良かった。この子は無事みたい。フラメル神の加護のおかげかもしれないわね」

(ん?無事?それにこの匂いは…)


 そういえばさっきから濃い血の匂いがする。

 横の男はふぅと息を吐き出し、安堵した顔になった。

 ふと横に目をやると、壊れた馬車のようなモノが地面に転がっていて、そこに二人の若い男女と数匹の狼みたいな何かの死体があった。


「ぁうー…」

(まさか…)


 最悪の考えが頭に浮かぶ。


「フラメル神に感謝しなければな。子供だけでも助けられたのは感謝すべきなのかもしれない」


 若い男がぽつりとつぶやいた。


「大丈夫、大丈夫だからね…」

(本当の親は死んでいるってことか?)


 女性は横を向いた俺の顔を自分の顔の方に向け直す。

 どうやらそこに転がっている死体が俺の本当の親らしい。

 そう考えた瞬間、突如として悲しみが全身を支配して、俺は声をあげて泣いた。

 この涙がどうして俺から出てくるのかは分からなかった。ただ、悲しかった。


「大丈夫だからね…」


 俺を抱きしめる女性の力が少しだけ強くなった。

 俺は相変わらず涙でいっぱいの顔のまま、ただ泣いていた。




 それから一か月の時が流れた。



 あの靄が最後に言った通り、俺は転生したらしい。しかも日本でもない。異世界にだ。言語が違っているが不思議と何を言っているのか理解できたのはあの靄の力だろうか。

 そして親が最初から死んでいるという最悪のスタートを切った俺を待っていたのは、あの女性と若い男、そして何人もの強者の集まり。つまりはある集団に助けられたようだ。

 みな同じゲームみたいな簡素な服装をしている。だがどの服にも決まって同じ刺繡が施されている。白い花の模様だった。


 この集団の名は『ツヴァルヘイグ猟兵団』


 ゲームでいう所の所謂、ギルドってやつかもしれない。


 団員は全て把握しているわけではないが、俺を世話する人は大体覚えた。

 まず、最初に俺を抱き上げた女性、ユノ。

 黒髪で異邦人らしい。刀のような武器を帯刀しているところを何度か見た事がある。

 年齢的には二十代後半くらいだろう。

 そして、無表情でまな板ようなの胸が特徴的な、メリル。

 俺に食事を食べさせてくれるのは決まってメリルだ。いつも無表情だが、俺が指を握ると、微かに微笑むこともある。年齢的には二十代前半だと思う。

 それと、白銀の髪のおっさん、ゴード。

 このおっさんは時折俺の頬をつついたり手に触ってみたりするくらいだが。

 見て分かることは、相当の戦いを経験しているだろうってことくらいだ。体じゅうに傷痕があって、いつもでかい大剣を背負っている。年齢は五十くらいだ。

 それ以外の団員たちはたまに俺が寝かされているベッドを覗きに来るくらいだ。

 今の俺の一日は大体、泣いて、食事して、寝る。この三パターンだけである。




 それからさらに数か月の時間が過ぎた。




 ようやく這って移動できるようになった俺は、昼間は基本的に猟兵団の訓練場のようなところにいた。正確に言うとユノに連れてこられるのだが。

 訓練場では団員達がペアになり、武器を振ったり、組手をしたり、ランニングしてたりと、様々な訓練を行っている。

 大体は座っているユノの膝の上に座らされ、ひたすらに訓練を見続けている。不思議と飽きはしなかった。中でもゴードの力はすさまじく、訓練用のでかい藁人形みたいなやつをあのでかい大剣を片腕で振るい、一刀両断するのだ。圧巻としか言いようがなかった。

 他の団員達も徐々に覚え始めた。訓練場に来ている者限定ではあるが。

 因みに恐らくゴードと同レベルの使い手は、ラージュ、ベルベット、アクラの三人だろうか。

 ラージュは青い髪の少年兵で長さの違う双剣を扱う。優しそうな顔からは想像できない様な苛烈な斬撃を訓練相手に繰り出しているのが印象的だった。

 ベルベットは槍術の名手であり槍術に関しては猟兵団では右に出る者はいないだろう。見た目はユノの短髪にした感じだ。和装のような服装を着ている。

 アクラは弓の使い手でどんな距離からでも、的の中心に矢を放つことが出来る化け物だ。金髪の逆髪が印象的だ。


「良いですかクラウス。貴方は我々ツヴァルヘイグ猟兵団の団員の一人。いつかは貴方にも幾つもの試練が立ちはだかるでしょうが、あの者たちの様に適切な訓練を行えば、きっと天位にもたどり着ける可能性があります。貴方にはその才能があるのですから…」


 ユノはいつもこんな事ばかりいう。正直俺にそんな才能何てないと思うのだが、なぜかワクワクしてしまう自分が居た。

 人の身でありながら神にも届きうる力を持つとされる天位とやらに少しでも近づけると思っていた。この猟兵団に居れば、確実にそこまではいかなくてもその下くらいには行ける気がしてならなかった。


「うあー…うー」

「大丈夫、貴方ならきっと目指す場所へ行けるはずです。フフ、まだこんなにも幼いクラウスに言っても分からないかもしれないですが…」

「…うん」

「大丈夫、大丈夫です。私たちがついていますからね」


 ユノの言葉に、俺はいつも胸を躍らせていた。いつか強くなって俺を助けてくれた猟兵団の役に立ちたかったし、世界を旅してみたいとも思っていた。


 今は流れに身を任せるしかないが、いつかは自分の足で歩きたいとそう思っていた。

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