4話 『V-21』
V-21が告げる。
「ここは逃げましょう。パイロット。新型機3機に集結された場合の勝算がありません。現在地より少し離れたところにデブリ帯があります。そこに逃げ込んで1対1に持ち込みさえすれば、少しばかりは勝算が上がります」
かなり無茶な提案に、僕は驚いて言い返す。
「デブリ帯!?危険すぎる!!そこで新型機とのスピード勝負をするのか!?」
V-21は続ける。
「敵の新型機の速度は7世代機の最高速を遥かに凌駕しています」
「ですが、先ほどの新型機の動きを見るに、速度のコントロールが難しいと判断しました。デブリ帯の中でなら計算上、少しだけこちらの方が動きやすいかと思われます」
「それは最高速度での話だよな……?」
「もちろんです。パイロット。ですが、あなたならやれると信じています」
V-21はプランを変える気は無いようだ。それに加えて、敵機はもうこちらに向かってきている。
「ちくしょう!やるしかないのか!」
「メインブースター、点火。デブリ帯に突入します。細かい姿勢制御はこちらでサポートします。頑張ってください。パイロット」
アースゲート基地から少し離れたところにあるデブリ帯の中、ひたすらに逃げ続ける。
それを追う敵の新型機3機。
「V-21!どれほどで追いつかれる!?」
「速度を落とせば10秒も持ちません。耐えてください。パイロット。ワタクシの計算ミスでもあるのですが、新型機の速度調整は思った以上にスムーズに行われています。さすが、最新鋭の機体ではありますね」
「V-21!敵の機体を褒めてどうする!」
「それだけでなく、搭乗者も相当な手練れのようです。気を付けてください。パイロット」
「クソッ!」
と言いながらさらにブースターの出力を上げる。
この速度でデブリや小惑星にぶつかったら僕もひとたまりもない。集中し、デブリをギリギリでも避けながら進んでいく。
「しかしパイロット、このままですと……」
「わかってる!推進剤がなくなるんだろう!」
作戦が始まってからもうかなり時間が経っている。推進剤もなくなりつつあるのもわかっている。ただ、この状況を打破する方法がないから、逃げるしかないのだ。
「パイロット、前方に大きめのスペースデブリがあります。おそらく轟沈した地球軍の戦艦の一部分だと推測されます。ここに隠れてステルス機能を展開し、敵を撹乱しましょう」
「了解した!勝算はあるんだな?」
「パイロット。それは『カミサマのみが知るモノ』という計算結果です」
「どう言う意味だ。意味がわからない」
「わかりやすく言っても難しいので、今はワタクシを信じ、そして自分を信じてください」
「あぁもう!答えになってないぞ!」
そう言って僕はデブリの中に身を潜め、グラディエーターのステルス機能を展開させる。
そうすると敵が分かれて行動を始めた。おそらくレーダーから消えた僕を探すためだろう。そして1機がこちらに向かってくる。
「1対1ならば、勝算はあるんだな!?V-21!」
「はい。ライフルでは撃墜できませんでしたが、あの状態から計算すると、対アームド用ミサイルならば、大きなダメージを与えられる結果が出ています」
「ならば…!」そう言ってミサイルポッドのハッチを展開する。
「V-21!ロックオンを頼めるか!?」
新型機が近づいてくる。
「了解です。任せてください、パイロット。対アームド用ミサイル全弾ロックオン……完了。発射タイミングはそちらに委ねます」
おそらく新型機はロックオンに気付いただろう。逃げられる前にミサイルを撃ち込む。
タイミングは……今だ!!
「当たれ!!」
敵の新型機に向けてミサイルを5発放つ。
新型機はミサイルを振り切ろうと回避行動を取るが、ここはデブリ帯。思うように身動きが取れないようだ。そのままミサイルを避けきれず、全弾命中。
動力源、エーテライトエンジンも誘爆したらしい。凄まじい閃光、爆発と共に新型機1機は木っ端微塵となった。
「やった……!この調子で後2機も……!」
そう思った瞬間、ロックオン警報。
「パイロット、危険です。2機からロックオンされています。」
「戦術データリンクであの一瞬のうちに僕の位置座標を転送したのか……!?」
「やはり敵のパイロットもそうとう手練れでしたね」
「クソ……ッ!」
敵機が2機向かってくる。
「パイロット。この状況下でパイロットが助かる方法がありました」
敵機はもう白兵戦の準備をしている。対アームド用ダガーではなく、長剣、ヒート・ブレードを装備している。
「策があるのか!?V-21!?」
「しかしこの提案を話した所で、パイロットには確実に反対されると思います。ですのでここからは、ワタクシに任せて下さい」
「どう言う事だV-21!?」
「パイロットリンク遮断。AI自動操縦に切り替え完了」
「何をしているV-21!?」
「パイロット、あなたは生きてください。あなたはおそらくクローン兵の中でも特別な存在です。あなたと言う存在はここで失ってはいけないとワタクシの"何か"がそうワタクシに告げています」
「オーダー000自動入力。パイロット強制ベイルアウトまで5秒。」
「V-21やめろ!!」
「ありがとうパイロット。あなたと歩んだ3年間はワタクシにとっても大義なものでした」
「さようなら。パイロット。いや、相棒。決して諦めるな。その命、大切にしてください」
モニターにありがとう、さようならと言う文字が映し出されたと同時に背面ハッチが空き、コックピットブロックの一部ごと射出される。
「相棒ーーッ!!」
僕がそう叫ぶ頃には
乗っていたグラディエーターが敵機1機に組み付き、それに近づいてきたもう1機を巻き込んでエーテライトオーバーロードを行っていた。
エーテライトオーバーロード、それはエーテライトエンジンを最大稼働させ臨界させる。自爆とも言うらしい。
閃光、そして轟音、そして爆発。
V-21が計算して射出してくれたのだろう。それに巻き込まれる事なく、僕はその光景を目の当たりにする。
冷たい宇宙空間。僕は座席からシートベルトを取り外し、力なく漂う。
「相棒……」
僕は目から溢れる熱いモノを止められずにいた。
これは……
この正体はなんだろう。教えてくれる相手はもう、いない……
5話へ続く。