3話 七不思議の先にあるもの
この話で完結です。
私達の他に誰もいなくて、肖像画にも変化がなかった音楽室を後にする。
「美夜、次はどこ?」
「図工室のモナ・リザの絵ー」
「また特別教室かよ!」
3階に上がり美術室の前に立つと美夜が入口の扉に手をかける。
「あ、また鍵開いてましたー」
「七不思議より鍵が開いてる方が怖いな」
「かげゆっちがるなっちの為に開けておいてくれたんじゃないー?」
「あの女王がそんな面倒くさい事するワケないだろう」
「お金の力でー」
「お前はもう少し頭を使って喋ってくれよ。
かげゆが他人に金を使うヤツだと思うか?」
「るなっちがぁ~小さくてぇ~可愛いすぎてぇ~お金を~、痛いーつねらないでー」
「バカ言ってないで早く入れ!
『頭使え』は、首を振って喋るって意味じゃねーし!
……で、このモナ・リザの絵で何が起きるの?」
「夜に女の子が前に立つとモナ・リザがさらっていきまーす」
「……なあこの学校、共学だよな」
「私もビックリー!」
「驚愕じゃねえよ!
男子生徒もいるのになんで女のお化けが女子ばっかり狙うんだよ!」
「あー……それはアレじゃないー。
怪談とか女子の方が好きな人多いしー」
「そんなもんか?」
「そんなもんですよー」
モナ・リザの絵の前に立って、撮影を開始。
特に何も起きない。
「次行こうか」
「次は東校舎の廊下。
ボロボロの服を着て人形を引きずる女の『ひきこさん』」
「ふーん……それ、怖いか?
ただの人形を持ってる女の人じゃねえかよ」
「実はその人形はよく見ると、女の子の死体でしたーってオチー」
「オチてねえよ!
ソイツがお化けじゃなくて普通の女だった方が怖いな。
イカれた殺人鬼だよ!」
「あー確かにー」
「私は妖怪や幽霊より人間の方がはるかに怖いよ」
「なになにー?
イジメられたりでもしたのー」
「背が低いって事で時々イジメられる」
「えー、ひどーい!」
「お前だよ、お前!」
美夜の脇腹を指で高速連打する。
「わーやめてー!
私はるなっちが小さくて可愛いって思って言ってるんだから!
出来るなら私も小さくなりたーい」
「お前はデカ過ぎるからな」
「あ、でも今日はデカいお陰でるなっちのお尻触れたー、えへへー」
とりあえず軽く美夜を蹴飛ばす。
渡り廊下を過ぎて東校舎3階へ移動。
「そのナントカさんは何階に出るとかあるの?」
「さぁ~?
東校舎としか聞いた事がないよー」
「そっか。
とりあえずこの階の廊下の端から端で撮っとけばいいか」
廊下、異常無し。
「はい次」
「定番の2階女子トイレの『花子さん』」
2階女子トイレ異常なし。
「次!」
「グラウンドから美少女が出てきて女の子の足を掴むー」
「なんて言うか、それはただの変態だな」
「でも美少女だよー?」
「美少女なら女の子のお尻を触っても良い、とでも言いたいのか?」
「背の低い女の子ならポイント高いですー! ――痛い痛い足踏んでる、踏んでる!」
「何の話をしてるんだ、お前は!」
自分が美少女って点は訂正しないんだな、この女は!
グラウンド異常無し。
「次は体育館でー。
振り向いて美少女の幻覚が見えたら、異界に引きずり込まれまーす」
「やたら美少女が出てくるのは気のせいか?」
「気のせい気のせいでーす」
「ウソつけ!」
さすがに体育館の正面扉は鍵がかかって入れなかった。
ダメ元で入れる所が無いか確認すると、裏の扉の一つが開いた。
「もうなんか、かげゆが全部開けてくれた説が濃くなった」
「うんうん」
靴を脱いで上がり込む。
ツルツルの木の床を靴下で歩くと滑りそうになる。
スマホを顔の前に固定するように持って、ビデオ録画ボタンを押して振り返る。
「ほらー。
美少女の幻覚が見えたでしょー」
「撮影の邪魔だ、どけ」
振り向くと美夜が後ろに立っていた。
今度は美夜が後ろにいない場所で撮影。
振り返ると。
わざわざ走って私の後ろに立つ。
「いえーい!」
「お前は私を異界に引きずり込みたいのか?」
「私はいつでもカモーンですよー」
「行きたいなら美夜一人で行ってよ」
三回向きを変えて再撮影を行ったが、その度に美夜が必死に走って後ろに立つ。
四度目で美夜が転んだ。
「いつつつーっ!
……あー足の皮がちょっと剥けたー、トホホー」
「天罰じゃ。
これに懲りて邪魔するなよ!」
クソッ、こいつは背が高いのにドジると子犬みたいにしょげる姿が可愛い。
美人は得だな!
懲りずに美夜は私の後ろに回り込もうとするので、私はそれを避けるために体育館を一周走る事になった。
「ハァハァ……お前は何がしたいんだ!」
「痛い!
グーで殴らないでくださいー」
「馬鹿やってないで次行くぞ。
次はどこよ?」
今幾つ目の七不思議だろう。
撮影したファイルの数を数えてみる。
「おい。
七不思議が八つあるぞ」
「あはー。
学校の七不思議なんてそんなものでーす。
次で最後だよー」
「あーもう、早く風呂に入って寝たい……」
「うんうん、一緒に入ろー」
「お前は自分の家に帰れ!」
「次はねー、グラウンドの端にあるけやきの木だよー」
美夜はいつだってマイペースだ。
このマイペースっぷりに付いていけるのは私だけ。
そんな調子だからクラスで話をするのが私しかいない。
クラスで浮きっぱなしなのだ。
大きく立派なけやきの木の根元に二人並んで立って見上げる。
「この木はねー。
先生も街の人も知らないけど樹齢500年でねー……」
ふと気の根元を見ると、けやきの薄鈍色の表皮の一部が剥がれて白くなっている所があった。
まるで今しがた剥がされたかのように新しい傷。
「”伝説の木”と言われて、この下で告白すると恋が実るんだよ!」
「もう全然怪談じゃねえよ、それ!」
「一年前ねー」
「おい、なんか語り始めたし!
もう帰るよ、美夜」
幼馴染の顔を見上げる。
私のミニライトの光を反射して白く美しい顔が闇に浮かび上がる。
一年前?
そういえば何かあったような……。
「元気で明るい女の子に出会ったの。
その子は背が低いのをコンプレックスに持っていたけど。
そんなのを気にせず、向日葵の花みたいに笑顔の明るく可愛い女の子。
でも引っ越してきたばかりのその子は……」
引っ越し!
そうだ、私は一年前に親の仕事の都合で他県からこの街に引っ越して来た。
その後、今の6年に新しい転入生はいない。
だから。
1年から6年まで同じクラスの幼馴染が存在する筈が無い!
「クラスに馴染めないうちはよくこの木の陰で、不安な胸の内を明かしてくれたわ。
でも皆の前では男の子みたいに強がっちゃって」
ああそうだ、そんな事あったな。
あの頃の勘解由小路美琴は陰湿なイジメを繰り返していて、その度に被害にあった女の子をかばって対立してたっけ。
それより。
幼馴染じゃないこの女は誰だ!?
「そのギャップがたまらなく可愛かったの!」
腕がチクチクする。
見ると腕時計があった場所に木の枝が巻かれていた。
「大好きです、愛しています、星野 月菜ちゃん!
未来永劫付き合ってください!!」
首から下げたミニライトの光が消えた。
空から赤いものがハラハラと舞い落ちる。
けやきの緑葉が紅く染まっていく。
紅葉したけやきをバックにして美夜の瞳も同じ紅色に染まっていく。
その瞳の中心にピンクのハートが輝いていた。
「美夜ーっ!
お前が一番怖いわーっ!!」
◇◆◆◆◇
~~ 〇×小学校 6月保護者会だより メール版 ~~
【月菜さんの情報求む!】
先月の△△日夜から行方不明の6年生、星野月菜さんの当日の情報を求めています。
△△日に彼女が一人で校舎に忍び込む姿を中庭の監視カメラが捕らえています。
それを最後に行方不明となりました。
当日は西校舎の各教室のセンサーと特別教室の鍵が壊されており、警察は事故・事件の両方で捜査しております。
些細な情報でもかまいませんので、保護者の皆様には警察の捜査にご協力頂きますようお願いします。
※※注意喚起をお願いします※※
在校生およびその保護者であっても夜の学校への立ち入りは禁止です。
(夜間は警備会社に警備を一任しております)
保護者の方はお子様へ注意喚起を兼ねて説明をお願いします。
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※興味を待たれたら 他作品も見ていってくださると嬉しいです。
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