#5 真実
気が付いた時には、辺りは瓦礫の山となっていた。ボロボロな体を起き上がらせ、適当な方角へと歩き出す。全身は血だらけだが、能力のおかげで死なずに済んだ。僕の能力は、自己強化だ。身体能力や治癒能力を常人より引き伸ばすことができる。僕は何とかなったが、他の人は無事だろうか。そもそも、なぜこの施設が襲われたのか理由が分からない。
とにかく、外を目指して歩いていると足元に固いものがあたった。下を見ると、誰かを判別すことができないほど顔がえぐれた人が転がっていた。身体の大きさからして、大人だろう。必死に吐き気を堪えて、別の方へ視線を向けると、そこには子供や大人の死体が複数あった。その中には、僕がよく知る人がいた。急いで、駆け寄り名前を呼ぶ。
「おい。しっかりしろよ。優奈。」
何とか意識がある優奈は口をパクパクさせ、掠れた声を必死に出そうとしている。
「仁。三時間ぶりかな。大丈夫?」
僕は、優奈を腕に抱えて叫ぶ。
「僕は大丈夫だ。優奈の方は大丈…」
優奈の足を見た途端、僕の言葉は途切れてしまった。なぜなら、優奈の右足と胴体は完全に切り離されていたからだ。
「よく聞いて。仁。ここの施設の大人たちは嘘をついている。里親も全部嘘で、本当は私たちみたいに身寄りのない子供を集めて実験を行っていたの。もし、実験体として使えなかったら、里親に引き取られるという体で処分されるらしいわ。さっき、建物が崩壊する前に大人達が楽しそうに話していたよ。」
優奈はゆっくりと、僕に話しかける。僕は焦りながら、必死に叫ぶ。
「どういうことだよ。大人は嘘をついていて、僕たちは実験体って。しっかりしろよ。優奈。」
すると優奈は涙をボロボロと流し始める。
「仁、私は悔しいよ、ずっと信じていた大人に騙されて。」
優奈はグショグショに濡れた顔を隠すように、右腕を目元に乗せた。その姿を見ると、優奈が嘘をついているようには見えない。
「仁、私のことは放っておいて早く逃げて。」
僕も堪えきれず大量の涙を優奈の顔に落としていた。
「嫌だよ。優奈も一緒に逃げよう。優奈一人を置いて行けるか。だって、僕は出会ったときから優奈のことが好きだから。」
しかし、優奈の顔見ると既に死んでいた。僕の告白を聞き取ることもなく、彼女は悔しさと苦痛と共に死んでしまった。
僕は、彼女の手を握りしめながら、嗚咽が混じった叫び声を吐き出した。その叫びは、誰もいない瓦礫の山に響き渡り、消えていった。