#2 卒業
今日のリビングはいつもより騒がしい。それもそのはずだ。この施設では、月の頭に何人かの子供が施設を卒業し、また新しい子供が入ってくる。ここを去って行く子供たちは寂しさや悲しさで駄々を捏ねたり、友達と別れを告げたりしている。大人たちによると、里親が見つかり新しい生活をするために施設から離れるそうだ。やはり、ここにいる子供は親に捨てられら身寄りのない者が集められている。
各々が別れを惜しむ中、僕のところにもスキップをしながら同い年の女の子のが近寄ってきた。
「仁。今まで仲良くしてくれてありがとう。8歳になって焦ってたけど、ようやく私も引き取られることになったわ。寂しいけど、新しい環境でも頑張るよ。」
この元気が有り余ってるやつは、僕と同じ時期に施設に入ってきた親友の優奈だ。8歳で里親が見つかるの遅いほうかもしれない。他に出ていく子供は優奈より年下ばかりだ。しかし8歳で遅いとは言ったものの、僕も8歳だし、いつも一緒に検査を受ける他の3人はおそらく僕より年上だろう。そこまで親しくないため、年齢まではわからない。というか、名前も曖昧なくらい関わりが少ない。
「おう。良かったな。行き先が決まって。向こうでも、その無駄にある元気で迷惑をかけるなよ。」
優奈は、「無駄は余計。」と言い返し、大人たちに呼ばれたため、僕から離れていった。親友がいなくなることは寂しいが、その感情を表に出していしまうのは男として恥ずかしい。もっと、彼女と一緒に遊んだり、お話がしたかった。そして大人になったら、この「好き」という気持ちを伝えたかった。今は一緒には居られないが、きっと、僕にも里親が見つかれば優奈ともまた会えるだろう。
この施設では外部との接触は不可能で、欲しいものは施設の大人に言わなければならない。外に繋がるドアがどこにあるかも分からず、外といえば施設内にある天井だけが開いたグラウンドくらいだ。だから優奈と会うことは、僕が外に出ない限り叶わない。
僕は零れそうな涙を拭って、日課の検査を受けるためにリビングを後にした。