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雑草君は目を覚ます  作者: 安倍剛志
9/10

第八幕 『真実の』

 俺の一番初めの記憶は6歳の頃のものだ・・


 俺は病院で目覚めた。一番最初に目にした生き物は 『人間』 ではなく、

 水槽の 『魚』 だった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「目覚めましたか・・気分はどうですか?体で痛いところはありませんか?」


 その時、自分は何者なのか、何処から来て、どのようにして育ったのか。何一つとして

わからなかった。ただ、目の前にいる生き物が 『人間』 であるということ。

 そして、質問攻めにされているということは理解できた。


 「気分は多分良いと思います。特に体の痛みはありません」


 自分自身が何を言ったのか。どういう心理で言ったのかは理解できた。


 でも、この人間が質問するように、自分も自分自身に聞きたいことは山ほどある・・


 「君は自分の名前がわかるかい?」


 「わかりません・・」


 「どこから来たかわかるかい?」


 「わかりません・・・・」


 「ここがどんな場所かわかるかい?」


 「・・・・・・」


 「記憶喪失か・・珍しい例だな・・」


 この男は何を言っているんだ。記憶喪失??


 何も思い出せない。俺は一体誰なのか。


 「ここはどこなんですか?」


 「ここは警察病院だよ。君は心臓発作を起こしてここに運ばれたんだよ」


 心臓発作?情報が多すぎて頭が追い付いていない・・


 「ご両親なら心配はいらない。今呼んでくるよ」


 そう言って、男は座椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。


 

 心臓発作に記憶喪失・・最初は冷静でいられたが、ここまで情報が追いすぎると

 事の整理が追い付かない・・


 でも、


 両親はいるみたいだ。何があったかは両親を見れば思い出すかもしれない。

 聞いたら教えてくれるかもしれないし、ゆっくりでいいから情報を整理していこう。


 ―数分後―


 ―トン、トン


 扉がゆっくりと開く、そこには両親がいた。


 母は、少し痩せていた。小柄ではあるが、きれいな顔立ちの女性だった。


 父は、かなりがっちりしている。背が高く、目元がクッキリしている。


 「卓!!目が覚めたのか!心配したんだぞ!!」


 二人の瞳はとても優しかった。自分の手を包む母の温もりは暖かく、自分を抱きしめる父の胸は

とても頼もしかった。何よりも安心した。俺は一人じゃない。


 その後、退院した俺は、家族の勧めで学校に通い始めた。


 話すのが苦手な俺に出来た最初の友達が 『千草』 だった。


 彼女は俺にだけでなく、誰にでも優しかった。


 彼女は 『卓は昔から変わらないね』 とよく言っていた。


 俺はある日千草に質問をしてみた。


 「昔っていつの話?」


 俺の質問に対して、彼女は俺の顔を見て、躊躇なく答えた・・


 「幼稚園の頃によく家で遊んでたじゃん。あの子のこと覚えてる?」


 「あの子って誰の事?」


 「名前は忘れちゃったけど、卓、その子をすごく仲が良かったよ!」


 この他愛のない会話をよく夢に見る。


 両親に昔の俺について聞いたこともあった。


 「お母さん、昔の俺ってよく公園行ってた?」


 「そういえば行ってたわね。それがどうかしたの?」


 「俺ってどんな遊びしてた?」


 母は考える素振りをみせ、一息置いて話し始めた。


 「鬼ごっことかしてたわね。お友達とたくさんで!かくれんぼとかもしてたわ。

  お母さんも一緒にやってたんだけど、卓すごく見つけるの上手だったのよ!」


 

 嘘だ・・



 俺は家族以外の人と話すのが苦手だから、たくさんの友達なんていない。


 千草はよく()で遊んでたと言っていた。


 その出来事をきっかけにこの家族について疑問を持つようになった。


 お父さんは滅多に家に帰ってこない・・


 家を探してみても、昔の俺の写真が一枚も見つからない・・


  お母さん、お父さん、僕は二人の子供なんだよね?

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