第六幕 『真』
あのの出来事から丸2日の年月が経った。
あれから一度も 『大小野柚葉』 を目にしていない。
恐らく彼女は何らかの理由でいじめを受けているのだろう。
千草に 『尾長巴』 について聞いてみたが、
「巴ちゃんは乱暴だけど、理不尽に他人を傷つけたり、ましてや、いじめなんて
するような人じゃないと思ってた」
っと言っていた。
千草が言うのだから間違いないのだろう。
ではなぜ彼女は大小野柚葉にあのような嫌がらせをするのだろうか・・
卓は、良くも悪くもない中途半端な脳を回転させようとするが、
所詮、定期考査で真ん中ぐらいの順位を取る人間の脳みそなんてこれっぽっちも役に立たない。
事を考えるには、情報が足りなすぎる。
俺はシャーロック・ホームズでもなければ、ジョン・フォン・ノイマンでもないのだ。
彼女に直接聞くしかないな・・
廊下に響く足音が早くなっていくのを感じる。
陰キャの卓は常に廊下の内側を歩いている。今日は日直なので、課題プリントを職員室まで運ぼうとしていたのだった。職員室に続く一本道へと角を曲がる。
― ドンッ
ぶつかった衝撃で宙へと舞うプリント達。ワックスで輝く廊下の床へ尻もちを突く。
「痛ってぇ・・曲がるときは注意しなよ!!どこを見ているんだ!!」
彼女が痛がる素振りを見せる前に腰を上げ、手を差し伸べる卓。
「すいません!大丈夫ですか。。って蓮じゃんか。」
「おお!卓!ていうか、プリント持ってんならもっと注意して歩けよ!」
「すまんすまん、立てるか?」
蓮は差し伸べられた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「しょうがないな、プリント拾うの手伝うよ」
「あ、サンキュー」
宇尾蓮。
彼女は親戚みたいな感じだ。
小さい頃は、よく家で遊んだり、勉強したりしていたが、最近はあまり話さなくなっていた。
俺が陰キャだってのもあるが、家の事情で会うのを少し避けていたってのもある。
蓮はスクールカーストで言うと、千草には僅か及ばない上の下といったところか。
とはいえ、人望も厚く、努力を惜しまない性格からか、クラスのリーダー格的人存在だ。
クラスは違うが、連の話はよく耳にする。
連なら彼女のこと知っているんじゃないか?
そう考えた俺はプリント拾いのついでに彼女について問いてみた。
「蓮ってさあ 『大小野柚葉』 って女の子知ってる?」
彼女の手がほんの少し硬直した。
「・・・・知ってる。そういえば先日、大小野柚葉のクラスでもめ事があったらしいな
卓、そこにいたでしょ・・」
「・・・・ああ。そこにいたよ」
彼女は冷静な顔でプリントを僕に手渡し、こう言う・・
「悪いことは言わない。彼女だけには近寄るな・・」
そう言い残し、彼女は意味ありげな背中でその場を去っていった・・