第四幕 『青春の地獄』
――おい、あいつ何考えてんだ。馬鹿にもほどがあるだろ。
先走った・・
完全に選択肢を間違えた・・
自分の可能性に自惚れていた・・
教室内は、極寒の北極よりも冷たい視線と、罵詈雑言が飛び交っている。
殺伐とした空気間を作り出したのは誰でもないこの俺だった・・・
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「柚葉さん、また背中に泥が付いてる・・」
今日も今日とて学校登校。
その風景に魔物の獣臭が漂っていた。
「すいません!背中にごみついてるので取りますね!」
千草がいつものように人に優しさを配る光景。
俺は嫌いじゃなかった。少し嫉妬心を持っているのも確かだ。俺には不幸しか与えることができない
のだから。でも、その優しさのおかげで誰かが笑顔になるのならそれに越したことはない。
そう思っていた・・・・
「いいから・・」(ボソッ
「このごみ取れにくいですね・・」
「いいから私に構わないで!!!!!!!!」
彼女は、千草の服を拭うハンカチを振り払った。
「えっ・・・・」
彼女の突然の行動にただ立ち尽くすばかりの千草。
彼女のつぶらな瞳には、一粒の涙がこぼれていた。彼女の美しい白髪に隠れている
彼女の感情が俺には見えた。
あの顔は・・・・
俺はあの時の彼女の顔が忘れられない。
あの時の千草の優しさは清くまっすぐな善意だった。
『泥』とは言わず、『ごみ』と伝える彼女の心の美しさに感動すら覚える。
そんな彼女の優しさには目もくれず、ただただ千草を突き放そうとする大小野柚葉の行動に
俺は怒りすら感じていた。
優しさを配ろうとするくせに、自分に対する優しさは受け入れない・・
かつての自分を見ているようで嫌気がさした。
俺は彼女の教室に行って、大小野柚葉という人間がとった行動を改めさせようと考えた。
教室を歩き、廊下へと足を運ぶ。卓には一切の躊躇が感じられなかった。
廊下に響き渡る足音とは裏腹に、彼の表情は今まで以上に静寂であった。
14HRの中を覗くとどこか不穏な空気を感じた。
人の笑い声と、物の落ちる音が聞こえる。
俺はその身に降りかかるであろう 『地獄の雰囲気』 を感じていた。
―柚葉ちゃん。急にごみをかぶるなんてどうしたの??
―気でも滅入っちゃったんじゃない?友達出来ないみたいだし(笑)
そこにいたのは大小野柚葉を囲むように立たずむ3人の女と、それを見る十数名の生徒だった。
―おい、あれは流石にやりすぎじゃないか?(ボソッ
彼女はごみ箱を頭上で返していた。まさに、自らの意思のようだった。
彼女は何も語らず、何も表情に示さない。背中には今朝見た泥が今朝以上に多くかかっている。
いや、かけられている。
おい、なんで見ている奴は助けようとしないんだ。
あれはどう見ても1対3のいじめだ。疑う余地もないだろう。
―柚葉さん。きれいな顔にごみが付いてるわ。取らないとね。これ使って!
女が差し出したのは 『雑巾』 だった。
「ありがとう・・・・」
彼女の儚い姿に周りの生徒も唖然としている。
そこに、たまたま千草が通りかかった。
「卓!何してんの?って、あれ大小野さんじゃない!?」
千草がいつもの優しさを見せようと駆けだした。
その時だった。
― パーン
3人の内の一人の制服に弁当箱が投げつけられた。
制服に付くソースと、マヨネーズの後は、絶望の臭いを漂わせている。
卵の破片、グラタンのエビが制服の美しい白色を一瞬のうちに汚した。
弁当箱を投げたのは紛れもない 『渡卓』 だった・・・・