9.悪役令嬢の祖父母③
「少しお話よろしいかしら?」
「全く、なんですの。」
部屋にいると思っていたおばあ様だが、実は庭に出て居たらしい。部屋の前でずっと声をかけ続けたお父様のことは今は置いとくことにしよう。
「まず初めまして、あなたの孫に当たりますノアです。」
「私は貴方のことを孫だと認めません。」
「それは、お父様が、自分の言うことを無視して結婚したお母様の子供という理由ですか?おじい様から少しお話聞かせていただきました。」
「馬鹿ランドリュー。余計なことをペラペラと。」
ランドリューというのは、どうやらおじい様の名前らしい。
「おばあ様は、お父様のことを嫌いになったのですか?」
「私には、息子なぞおりません。」
「では質問を変えます。先程、お兄様になんて仰いましたか。」
「さぁ。貴方のお兄様が誰のことやら…でも先程会った黒髪の子には穢らわしい子供と言ったかしら。」
「そう。お兄様はたかがそんなお言葉で傷ついてしまったのね、可哀想に。こんな弱者の言葉を真に受ける必要などありませんのに。」
「なんですか、その物言いは!」
「だってそうじゃありませんの。貴方はご自分の立場が分かっていないのかしら?」
驚いた顔を浮かべるが、感情のまま怒鳴ることはしなかった。
「ここを誰の屋敷だと思いですか。」
「おじい様の。ランドリュー=パンドュース様のお屋敷ですわ。そして、私達はおじい様からの招待状を受けて、わざわざ参りましたの。客人を不快にさせて、文句を言わせて貰うのは当然です!第1、貴方こそどこの誰でしょう。私達と関わりないということは、ここの使用人ですか?それとも、おじい様の愛人ですか?どちらにしてももう少し立場を弁えたほうがいいのでは??私達は現当主の血を継いだ正式な侯爵家の人間です。罰せられても文句は言えませんよ。」
「私を罰するなんて、ランドリューが許すはずが。」
「本当にそうでしょうか。
私のお願いをお父様はお優しいから叶えてくれますでしょう。なによりお兄様への暴言をお父様が許すはずがございません。それにもしおじい様が断っても、私は次期王妃になる者です。このことを王子や私を気に入って下さる王妃様や国王陛下にお願いすれば…おじい様も王命には逆らえないでしょう。」
王子や王妃様、国王陛下に頼むなんてとんでもない。私は借りなんて作りたくないし。それでも頼んだら嬉々として出来ることなら手を貸してくれそうだ。王家の方々は…末恐ろしい。
「しかし、私のおばあ様であるなら話は別です。私は今までの暴言をきちんと謝らないといけません。あなたはどなたですか?まだ、自己紹介をしていないですわよね。名乗られたら名乗り返すのが礼儀ではございませんの。礼儀さえもお忘れになりましたか?前侯爵夫人。」
おばあ様は深呼吸を1回して、私の目をみて話し始める。
「そうですわね。挨拶をまだしていなかったですわね。それは申し訳ございません。ランドリュー=パンドュースの妻、クリオラと申します。」
「ということは私にとっておばあ様になりますよね。そうとは知らず…数々の御無礼お許しくださいませ。私、おばあ様に会うのは初めてで、会えてすごく嬉しいです。」
「本当に、気の強いところがあの女に似ています。」
「おばあ様にも似ていると思いますよ?そう言えば毎年、お母様の命日にお母様の好きだったスイートピーがおじい様名義で届くのです。そのお礼を伝えたら、自分名義でおばあ様が送っていると教えてもらいました。毎年可愛いお花ありがとうございます。」
「本当に、あの人は余計なことしか言わないのね。」
影でこっそりお兄様と覗き見しているおじい様は、顔色を悪くさせてたのが分かった。勿論、おばあ様はおじい様やお兄様の存在には気づいてないようだが。
「おばあ様は、お母様のことがお嫌いでしたか?」
「当たり前でしょう。息子は初めて反抗してくるし、私が選んだ婚約者もあの女の友人になってるし、ランドリューもあの女と息子を味方するし、あの女、生意気に反抗してくるし…なにより息子と子供ほっぽいて1人先にいくんだから。最後まで私の計画を邪魔してくる目障りな女だわ。」
なんだかんだいって、おばあ様はお母様のことを認めていたのだろう。でなければこんな言葉は出てこないから。きっとおじい様の言う通り、素直になれない性格で今更どう接していいか分からないだけに違いない。なんだか愛らしく思えてきた。
「私、おばあ様のことを好きになりましたわ。
お母様のこともっと教えてくれませんか?」
「…ランドリューに聞きなさい。」
「おばあ様から聞いてみたいのです。初めてのおばあ様ですもの。色々お話したいのです。」
「私は否定的な発言しか出来ないわ。」
「皆が皆、同じ考えのはずはないのですから、おばあ様からみたお母様の印象や話を聞きたいのです。」
「そう。」
カランカランと、懐からベルを取り出して鳴らすとアンがやってきた。
「お茶とお菓子をすぐ準備しなさい。」
「かしこまりました。」
そうして、庭でおばあ様と2人、お母様のことについて話しだすのだった。
『皇子』を『王子』に変更させていただきました
ん?となった方いるかもしれませんね( ˊᵕˋ ;)