8.悪役令嬢の祖父母②
「やっぱりリュート君は賢いね。11歳とは思えないよ。」
「ありがとうございます。」
「ノアちゃんも、大人顔負けの剣術の腕と聞いたんだけど、凄いね。」
「いえ、私は…お兄様には敵いませんもの。まだまだですわ。」
「そんな事ないよ!ノアの成長ぶりには驚いているよ。兄としての威厳を保つために、必死なんだから。…妹に負ける兄だなんて、ノアは情けないと思うだろう?」
「いえ!そんなこと絶対ありません!!私はどんな時でもお兄様を尊敬しています!!!」
(私がお兄様に対して情けないなど思う訳がない!)
ことを精一杯伝えたいために言葉も口調も強くなる。
「ありがとう、ノア。」
フッと笑うお兄様の笑顔に、ドキュンと来てしまった。
1度は誰もがリュートの虜になってしまうという微笑み。私もその1人であったため、仕方のないことだといえるだろう。17歳のリュートの笑みも破壊力抜群だが、11歳のリュートの笑みは子供らしい可愛いさがあり、これまた破壊力抜群である。
「仲がいいんだね、2人共。嬉しいなぁ。ランドは1人っ子だったからね…
だから、クリオラの期待もランドに重くのしかかってしまったんだろうね。本当に申し訳ない。」
「父上が謝ることなんて何も。」
「クリオラのことを嫌ってるかい?」
「私は別に。ただ母上にとっては、私の顔など見たくはないのかもしれませんね。」
「そんなことはないと思うよ。ただ今更収拾がつかないだけなんだ。今更どんな顔して話をしたら分からず拗ねてるだけなんだ。本心では会いたいと思っているさ。大事な大事な一人息子だしね。」
「そうですかね。」
「もし良かったら会いにいってくれないか?クリオラは絶対自分から歩み寄ろうとはしないだろうし。」
「母上はどこに。」
「部屋に閉じこもっているはずだよ。」
「分かりました。リュート、ノア、少し席を外すから待っていなさい。」
「分かりました。」「わかりましたわ。」
お父様が席を外し、客室には私とお兄様、おじい様だけになった。
「すいません、御手洗をお借りしてもよろしいでしょうか。」
「あぁ。」
カランカラン。
おじい様は、懐から取り出したベルを鳴らす。
「失礼致します。」
その音をきき、アンが登場し、御手洗まで案内してくれるという。
お兄様が席を外したところで、おじい様に声をかける。
「あの、おばあ様とお父様には何があったのですか?」
「何も聞いてないのかい?」
「えぇ。何も…ですから知りたいと思っていますの。」
「そうか。君たちの母親、エルセーヌさんは平民だったことは知ってる?」
「!?初めて知りました。」
「ランドはね、1人息子でそれはクリオラ、ノアちゃんのおばあ様はねとても可愛がり、期待していたんだ。ランドの婚約者も教養があり、可愛らしい貴族の令嬢を選んでいた。それなのに、ランドはその婚約を勝手に解消してエルセーヌさんを選んだんだ。まぁ最初はエルセーヌさんも拒否してたみたいだけど。」
※※※
ー13年前ーランド17歳
『僕と結婚して下さい!』
『私は平民なのよ。あなたとは釣り合わないわよ。それに貴方より4つも年上だし。貴方のお母様が反対するのは当然だわ。』
『確かに反対はしている…でも貴方がいい!』
『とにかく、仕事の邪魔だから帰って頂戴。私はあなたと結婚するつもりはありません!!』
※※※
「お母様は割と強気なのですね。侯爵家の跡取りとしっていたんですよね。」
「あぁ、最初はランドが平民と装って会っていたから。それに加え、ランドは貴族っぽくはない性格だし。」
「そう、ですね。」
否定できないことが、答えである。
父であるランドは、お人良しなのだ。それに平民の気持ちを理解している。そのため領民からは圧倒的人気を得ているのだが。
「よくそんなお母様が結婚を受け入れましたね。お金目的ではないでしょうに。」
「彼女は親が借りた莫大な借金を、少しずつ返していたんだが、働いていた店が潰れ、新しい仕事先も決まらず借金が返せなくなっていた。借金とりが、彼女に…いい仕事があると迫っている所をランドが発見し、エルセーヌさんに用意していた指輪を借金取りに渡すことでその場はなんとかなって、後日残りのお金を返済したんだって。」
指輪でその場は何とかなるって…一体平民の母に、どのくらいの指輪を渡したのだろう。
※※※
12年前ーランド18歳
「貴方って、本当馬鹿よね。なんであんなタイミングってやってくるのかしら。」
「僕はいいタイミングだと思ったよ。本当間に合って良かった。もうエルセーヌに会えなくなる所だったから…別にさ、借金を盾に結婚してくれなんて言わないよ。でも、まだ諦めきれないから。もう少し僕のわがままに付き合ってよ。」
※※※
「最終的にエルセーヌさんはランドを受け止めたという訳さ。」
「なんて、ロマンチックな。乙女として憧れる展開ですわ。」
「息子ながら感嘆してしまったよ。」
「けれどお父様の婚約者のほうはどうなったんですか?勿論納得していなかったでしょ?」
「あぁ、その婚約者にも想い人がいたようで、婚約の解消を喜んでいたよ。ほら、君たちもよく知ってるんじゃないかな。マルポーゼ伯爵夫人のこと。」
「え?!」
マルポーゼ伯爵夫人とは、今だ婚約者が決まっていない兄、リュートに数々のご令嬢と婚約させようと躍起になっている夫人である。確かに母の友人とは、きいていたが。まさか、元婚約者と仲良くなるだなんて。さすがお母様。
「夫人は色々あってエルセーヌさんの大親友だよ。だから、エルセーヌさんの代わりに2人のことを守りたいとは思ってるんじゃないのかな。」
「そう、だったんですね。」
そんなこととは露知らず、お見合い好きのめんどくさい人だと思っていた。これからは認識を変えなければ。まぁ、お兄様にとってはありがた迷惑な話かもしれないけど。
「それよりリュート君遅いね。」
「そうですわね。」
昔話に入り込んでて、あれからもう15分は経っているはずだ。さすがに遅すぎる。
「ここの構造、少し複雑になってるんだよね、見てこようか。ノアちゃんはここで待ってて。」
「わかりましたわ。」
それにしても、お父様とお母様にそんなロマンチックな物語があったなんて、知らなかった。けれどゲームにはない事実を知る度に思う。ここは、ゲームの世界ではなく、現実なんだって。そんなことを考えていると、お兄様が戻ってきた。
「あら、お兄様。おじい様は一緒ではございませんの?お兄様が戻り方が分からないのではないかと心配して探しにいきましたのよ。」
「そうなんだ、それは申し訳ないことをしたね。探しに…」
「お兄様、どうかされましたか?」
「何が?」
この部屋を出る前と出た後、少し違う気がする。
声のトーンが1トーン低くなっているし、平静を保とうとしているが、表情が少し暗い。
「何もないよ、おじい様を探しにいってくるね。」
「…もしかして、おばあ様に会いましたか?」
「ノア、あのね。」
「やっぱり、そうなのですね。」
元々リュートは、自分の悲しい思いを相手に伝えることはしない。不安とか、嫌なことは全部溜め込んでしまうのだ。それをヒロインは知り、リュートを解放させる。リュートは、初めて自分の思いを受け止めてくれたヒロインを好きになる。リュートルートはそういうストーリーだった。
でもここにはヒロインはいないし、今お兄様は傷ついている。
「私、おばあ様に会いに行きます。」
「ノア、僕のことは大丈夫だから。」
「良くありません!私のお兄様を傷つけるだなんて。こんなことお兄様が許しても私が許す訳には行かないのです!!」
「あれ、リュート君、戻ってたんだ。よかった、迷子になっ。」
「おじい様、おばあ様の元へ案内してください!今すぐ!!」
ちょうど戻ってきたおじい様は、私の迫りように、ビックリしていたようだったけれど、おじい様は「さっき見かけたんだが。」と頭を悩ませながら、ふとお兄様を見る。そして、何か察したらしく「ふむ、行こうか。」と案内してくれるのであった。
やっぱりこのおじい様、最高である。
もう少しこの回続きます( ˊᵕˋ ;)
誤字脱字、変な言葉の表現はご了承ください。
教えていただければ助かります。