3.グレンの苦悩
僕には自由なんてなかった。生まれた時から全てが決まっていた。着るものも、食べるものも生き方も。
そして、退屈だったのだ。僕の周りに寄ってくる奴は僕の地位や顔しか見ていない。自分で言うのもなんだけど、顔はいい方だと思う。少し、甘い言葉を囁けば、女の子たちは顔を赤く染めて俯く。なんてイージーモードなのだろうか。
彼女もそうだった。ノア=パンドュース。初めて会ったのは、5歳の時だったろうか。僕と少し話すと、顔を真っ赤にしていた。
しかし、そんな彼女はもういない。いや、顔を赤くはしているが、僕に対してではない。
「ノア。」
「な、なんでしょう王子。」
「と呼んでもいいですか?」
「勿論です。」
「僕のこともグレンと呼んで下さい。」
「わかりましたわ、王子。」
「ノア、僕の話をきちんと聞いてください。」
「聞いています。」
「なら…」
「私が王子を名前で呼ぶなんて、許されることではありませんもの。」
「いいんですよ、あなたは僕の婚約者なのですから。」
「そうですわね。私はあなたの婚約者ですわ。」
「…あなたと話していると可笑しくなりそうです。」
あんなに素直だった彼女はもういない。更に、執事のマルベスが好きだと、婚約を申し込みにいった僕に言うとは。今日も僕と会話をしているが、目はマルベスのほうに向いている。
いや、確かに僕の婚約者になったらマルベスと会えることは増えるとはいったけど、でも明ら様すぎはしないだろうか。
「それは、大変ですわね。私と王子では合わないのかも知れません。完全に可笑しくなる前に私とこ…」
「破棄はしませんよ。」
「そうですか。」
あと、よく婚約破棄を促してくる。
「それほど僕との結婚は嫌なのですか?」
「そんなことある訳がございません。むしろ光栄でございます。」
口ではそう言っているが、飄々としていて説得力がない。
なんてゆうか、本当に変わった子だ。
可笑しくなりそうだが、一緒にいて退屈はしない。
僕と話す時は、表情を変えない彼女に一泡吹かせてやろうと思うほどである。
「ノア、僕はあなたを手放すつもりはありません。」
「あなたとの結婚を楽しみにしていますわ。さて、チェックメイトです。」
「…これは負けましたね。」
「お強いですね、ノア様。」
「そ、そんなことないですよ。マルベス様には敵いませんもの。」
…今のところ彼女との勝負は全敗。
(まずはゲームに強くなることから始めないといけないな。)