2.悪役令嬢、婚約を申し込まれる
次の日、我が家に第1王子とその護衛がやってきた。
「ノア嬢、僕と結婚の約束をしてください。」
(なんでこうなったのだろうか。)
※※※
とりあえず王子と私だけにさせてもらった。他の人がいたら話しにくいから。
「何故私なのですか?」
「ノア嬢があるご令嬢を助けていたという話を聞き、寛大な心と自分を厭わず行動できるという面が次期王妃に相応しいのではないかと思いました。」
「それならば私が了承することができません。」
「理由を聞かせていただいても?」
「あれは全て私の策略だからです。私には友達がいません。都合のよい友達をつくるためには恩を感じさせることが手っ取り早いので、通りすがりの名も知らぬご令嬢に命令したのです。虐めてくるようにと。」
「あれは僕の婚約者を決める大事な茶会です。そんなことをして、不敬罪にされるとは思わなかったのですか?」
「考えていませんでしたわ。なにぶん頭が弱いもので。不敬罪にするおつもりならどうぞ。父と兄は優秀な人材ですので、手放すと後悔するでしょう。私だけに罰をお願いします。」
「あなたは変わった方ですね。以前と印象がだいぶ違います。」
「女の精神的成長は早いのです。王子。」
(まぁ私は前世分もプラスされているからなぁ。)
「ところで、あなたが友達になりたがっていた令嬢はどなたか教えていただけませんか?」
「何故でしょう。」
「僕主催の茶会で怪我をさせたのであっては、僕から謝罪の言葉を送るのが筋ですから。」
(言っていることは正しいが、これは困ったな。昨日の茶会では男爵令嬢ということしか知らないし、あんな場面ゲームではなかったし。)
「名は知りません。1人でいる地位の低い弱気な令嬢であれば、誰でも良かったのです。私はあの場で名乗りましたし、あとはお礼の手紙が送られるのを待つだけです。」
「なるほど、ちなみにどう言った理由で令嬢を追い詰めたのですか?」
「私を罰したければ罰してくださって結構です。なのでそんなこという義理はございません。」
(まだ私は幼い。さすがに死刑にはならないだろう。地位の剥奪か。それならそれで学園に通う可能性も低くなるかも。お父様は怒るかしら。いや、この先パンドュース家は没落する。それなら今しても大差ない。)
「マルベスが僕に教えてくれました。昨日のあなたの瞳に嘘はなかったと。人を見る目は確かなので、そうなると何故あなたがこんな嘘をつくのかが分からない。」
「あ、あの王子。」
「はい。なんでしょう。」
「マ、マルベス様はご結婚は?」
「していますよ。子供も孫もいます。何故そんなことを?」
「え、いや、その、なんてゆうか。ゴッホン、王子にはお話致しますが、私マルベス様に惚れてしまいましたの。」
この発言には王子もビックリしたのか、数秒止まったままだった。
「マルベスは今年で60歳になりますが。」
「愛に年齢なんて関係ございません!あぁ、優雅でダンディ。しかも燕尾服でお嬢様なんて言われたら、はぁーー。」
私は別におじ専という訳ではなかったはずだ。20歳後半で乙女ゲームをやるくらいなのだから。しかし、昨日マルベスを見たときビビッときてしまった。しかもお嬢様なんて言われた時には…初めて一目惚れというものをした。
「しかし、ご結婚されているのなら仕方ないですわね。そうだ、お孫さんは?ご結婚とか。」
「マルベスの孫は女性です。」
「そうですか、残念ですわ。」
「はぁ、運命は残酷ですね。しかし女性であれば仲良くできるかも。」
「考えたのですが…」
妄想が止まらなくなってしまった私は、王子の声で現実に引き戻された。
「僕とあなたが婚約すれば、マルベスと会う回数も増えるので」
「会えるのですか?!」
「僕から話をつ」
「わかりましたわ!」
「人が話している最中なのですから、最後まできい」
「王子、私と婚約を結んでいただけませんか?」
「はぁー。そこは僕にそのセリフを言わせて欲しかったです。」
そうこうして、物語通り第1王子との婚約が決まりましたとさ。めでたしめでたし。
「めでたくはないんだけど。まあこうなった以上は仕方ないし、対処を考えないと。」
そう悪役令嬢ノア=パンドュースにとってこれからが本番なのである。