15.悪役令嬢と死罪ルート
無事ヒロインと王子が出会うイベントは終わった。
して問題はこっちの方であった。連れて帰った子供は、お父様とお兄様に経緯を説明し、とりあえず怪我が治るまでここにいることになった。あとは本人の希望にもよるが、里子として他の親に引き取られるか、孤児院にいくかである。子供は寝ていたが、ボロボロの服と傷を放っておくわけにもいかず、体を綺麗に拭いて、服を着させ怪我も治療してもらった。
綺麗になった子供をみて、あれと思った。どこかで見たことある銀髪。そして顔つきだと。
そして気づいてしまったのだ。未来の彼が、暗殺者だということに。
ユラン=スピア。最年少ながら、見事な腕前をもち、数々の依頼を達成してきた暗殺者。
王子ルートを目指し、王子の好感度が80%を超える時、ノアがヒロイン抹殺をユランに依頼というイベントが発生する。ヒロインを抹殺するため近づくユランだが、ヒロインがそんなユランに気づき、優しい言葉をかける。ユランはヒロインに惹かれ、依頼者がノアだということを全て打ち明けた。勿論王子は婚約破棄をし、そしてヒロインにプロポーズをする。
『君を失われるかもしれないと思った時、気付いたんです。貴女が好きだと。どうか僕と結婚してくださいませんか。貴女と共に生きてゆきたいんです。』
『身分が違うからと、諦めていました。でももう自分の心に嘘はつけません。本当は…私もお慕いしております。グレン様。』
次期王妃への暗殺企てということでノアは死罪となる。ユランは攻略対象ではないが、ユランを攻略出来なければヒロインは死ぬという何とも命がけの攻略だ。
ノアが死罪となるルートは、これしかない。ということは、ユランが暗殺者にならなければノアは国外追放か、平民落ちのどっちかになる。
なんてこった。いつの間にか自分の死亡フラグを折っていたなんて。流石私である。
(しかし、この子供は本当にユランなのか…)
と思い、まじまじと観察する。女の子かと思ったが、男の子だったとは。
「うん、ユランで間違いない。」
やはり5年もの歳月があるが、これは間違いなくユランだと断言できる。しかし、なんでこんな出会いに。
元々奴隷だったユランは、ある暗殺者グループの仲間に買われ、生きるために暗殺技術を身につけるという設定だった。しかし、今日こうしてユランと出会ってしまった。
「うーん。分からない。」
「ん、、」
どうやら目が覚めた様だった。
「私のことを覚えているかしら。路地裏であったのだけれど。」
反応はない。自分がどこにいるのか把握しようとしているのか辺りを何度も見渡している。
「私はノア。侯爵家の娘よ。あなたの名前は?」
声がでないのか、口をパクパクさせているだけである。
「とりあえずこれを飲みなさい。」
コップに入った水を渡す。ガブガブと飲み、すぐ空になってしまった。
声を出そうとするが、掠れ掠れでよく分からない。
「無理して話そうとしなくていいわ。ただこれだけは言わせて。あなたの安全は私が確保するから、心配しないで。今までよく頑張ったわね。さぁ、一緒にご飯を食べましょう。」
いきなりガッツリ食べると体がビックリするので、今日は卵がゆを用意した。しかし、何かを警戒しているのかすぐは手に付けない。私はユランの皿から1口とり食べる。変なものは入ってないという意味を込めて。
すると、無我夢中で食べ始めた。やっぱり食事に変なものを混ぜられた経験があったのだろう。
食べながら、1粒の涙が零れていた。
次の日には、声が出るようになっていた。
「あ、りがとうございます。」
「声が出るようになって良かった。あなたのお名前聞かせてもらってもいいかしら?」
「な、まえ。10.番。」
「それは名前ではないわ。」
「わ、からない。」
「そう、ならあなたの名前はユランよ。ユラン=スピア。」
まぁ、ユラン=スピアもヒロインに近づくための偽名だが、問題ないだろう。
「ユ、ラン=スピア?」
「嫌かしら?」
「ユラン=スピア。俺の、名前。」
「そう、あなたの名前。ユラン、あなたには怪我が治るまでこの屋敷にいてもらいます。」
ユランは途端に怯えた顔をして、全身が震え始めた。
「大丈夫よ、あなたの悪いようにしないわ。落ち着いて。」
抱きしめてあげると、震えはどんどん収まっていく。
「あなたには自分の生活を選ぶ権利があるの。」
「権利…」
「そう、1つ目は子供のいない親の元に引き取られるか。勿論、あなたのことを大事にしてくれる家族の所を保証するわ。もし、家族というものが信じられないなら、似た境遇の子供が沢山いる施設に入るの。」
ユランは何歳かは知らないが、親に捨てられたのだと人飼いはいった。なら、親というものが信じられない可能性もある。そのためにと考えた案だった。
「3つ目は、ここパンドュース家で執事見習いとして働くか。職を手に付けることで、これからどこへでも働けるように。」
元々ユランは暗殺技術を身につけて、暗殺者として活躍するのだった。ということは良くも悪くも、ユランの就職を邪魔してしまったことには変わらない。それなら、新しい就職先が決まるように、暗殺技術ではなく、執事の仕事を身につけることで、釣り合いを取ろうという案なのだ。
「よく考えておいてね。ということで今から絵本をよんであげる。怪我が痛くなくなったら、この屋敷を探検しましょう。」
どんな人生を選択するとしても怪我が治るまではこの屋敷にいるのだ。なら、楽しませなくっちゃと張り切るのだった。